荻伏共同育成場日誌

北海道浦河町にある競走馬育成牧場・荻伏共同育成場の場長が日々の風景をお届けする徒然日誌。

一期一会

2016-06-05 01:50:39 | 仕事
 メイショウアヤメの生産者である寺越さんはセリで提携牧場に毎年のように預けていただいていました。セリ会場で当時活躍していたメイショウサムソンの話になった時、その母マイヴィヴィアンが寺越さんの生産馬であることを知りました。そして何のお祝いか忘れましたが親類にあたる林孝輝さんにプレゼントしたと仰っていました。
「勿体なかったですね」
と切り出すと寺越さんは優しく否定しました。
「いやいや、あれは彼のところで生産し、メイショウさんに買ってもらい、瀬戸口先生のところに行ったから今の活躍があるんだよ。」

 提携牧場がモーリスが1歳のセール時にコンサイナーをしていたことから、モーリスがタイトルを増やすごとに周りから
「扱えてたかもしれないのに惜しかったね」
と言われますが、そんなことは全くないのです。サマーセールで大作さんに買ってもらいトレーニングセールでノーザンファームが購入、関西に入厩したものの途中で今の堀厩舎に転厩、その全てが積み重なって今の成績だと考えております。

 扱う馬一頭一頭全てが
「荻伏共同育成場にいたから良かった」
と認めてもらえるような牧場にしていきたいと改めて期する今日この頃です。


同業者やこの仕事に興味のある方はコメントくださいね。
 

雑草魂と超エリート ーモーリス vs サトノアラジンー

2016-06-05 01:50:02 | 仕事
「購買者はこんな離れの場所あることすら知らないんじゃないの?」
 厳しい日差しを避けるように厩舎の影で知り合いの生産者と自虐的に談笑していた。

―2011年セレクトセール当歳市場―

 セリ前の比較展示では1回しかお代を聞かれず、歩様確認のため歩いたのも1回だけ。まさに素通り状態というかここまで辿りつけない購買者もいたと思う。何せ228頭中218番目。後ろから10頭目で比較展示でもかなり隅の方である。比較展示後馬房の前で購買者が来るのをひたすら待つのだが来る気配もない。あまりに暇なのでセリ名簿の馬体写真を見ていると1頭の馬が目に留まった。
「上場番号419 マジックストームの2011」
当歳馬とは思えない完成度の高さに驚くとともに果たして幾らまで上がるのだろうと野次馬感覚で厩舎横に接地されているモニターに目を移した。ディープインパクトの半弟こそ高額な取引となったものの、それ以外での1億越えは1頭のみ。セレクトセールとしては過熱しきらない雰囲気の中でセリが始まった。1億3千万円。思っていたほど行かなかったという思いは別世界とも思えるセレクトセールならではだろう。完成度の高いこの馬が将来どうなるのか追い続けてみようと思いそれから2年後競走馬としてデビューする。ついた名は
「サトノアラジン」

―2013年5月―
トレーニングセールの取引結果に目を通していると気になる名前があった。
「メジロフランシス」
「あれっ?戸川さんの馬じゃない?」
しかし販売申込者は大作ステーブルになっている。
気になって前年のセールを調べてみる。
やはりあった。しかも予想通りうちと提携している牧場がコンサイナーをしている。

「力不足ですいません」
「いえいえ売っていただいてありがとうございます」
希望金額に満たない売買金額にもかかわらず晴れやかに迎えてくださる戸川夫妻にはいつも頭が上がらない。そしていつも何とか高く売れるよう微力ながら全力を尽くしたくなる。
 場長に就任してからはセリと疎遠になり2012年のセリはお手伝いしていないがメジロフランシスの産駒は扱ったことがあるので他人事とは思えず、調べてみるとサマーセールにおいて150万円で取引されている。それが9か月後1000万円となるのだからピンフッカーである大作ステーブルの腕も見事である。セリに携わった人に話を聞くと
「あまり印象にない」
とのこと。まあそうでなければ150万円という金額ではないだろう。
トレーニングセールから約4カ月後競走馬としてデビューする。ついた名は
「モーリス」


 出世にもたつきながらも頂点(G1)の有力馬にのし上がってきた超エリート「サトノアラジン」vs安馬から階段を一気に駆け上がり絶対王者に君臨する「モーリス」。境遇の全く異なる同期の対決はどちらに軍配が上がるのでしょうか。個人的には先月亡くなった母メジロフランシスのためにもモーリスに勝ってほしいです。