荻伏共同育成場日誌

北海道浦河町にある競走馬育成牧場・荻伏共同育成場の場長が日々の風景をお届けする徒然日誌。

思い出の『ベルモントS』~1999年~カリズマティックとクリス・アントレー

2016-06-10 18:26:27 | 競馬
 今週末いよいよラニが『ベルモントS』に出走します。以前記した通り個人的には米三冠の中で最も適していると考えているのでチャンスは十分にあると思いますが、今のところ13頭立てで8番人気。伏兵扱いですね。但し『ベルモントS』は伏兵が活躍するレースでここ10年で5番人気以下が7回も勝っています。
 17年前このレースを勝ったレモンドロップキッド Lemon Drop Kid も7番人気の伏兵でした。その時の1番人気は21年ぶりの三冠に挑むカリズマティック Charismatic でした。カリズマティックは未勝利脱出まで6戦を要し、前哨戦の『レキシントンS』に勝ったものの、本番『ケンタッキーダービー』では12番人気。しかし先行策から直線抜け出しまず一冠。続く『プリークネスS』では3コーナーから捲っていき4コーナー先頭から押し切るという強い競馬で二冠を達成。そして三冠がかかったこのレースでは2番手から抜け出しを図るもののレモンドロップキッド、ヴィジョンアンドヴァース Vision and Verse に交わされ3着に終わりました。ここまでなら二冠馬が三冠を取り逃したレースというそれほど珍しくもない話なのですが、ドラマはここから待っていました。鞍上のクリス・アントレー騎手が必死に馬を停止させ下馬。カリズマティックに異変が起きたことは明らかでした。そしてアントレー騎手は折れた脚に負担をかけまいと脚をもち救援が来るのを待ったのです。このアントレー騎手。デビューから天才騎手とうたわれ、2年目に最多勝騎手、4年目に1日9勝という新記録、6年目にも64日間連続勝利という新記録、8年目には『ケンタッキーダービー』制覇という活躍を見せていましたが、薬物依存症と減量苦から15年31歳という若さで引退します。しかし2年後復帰その年にカリズマティックと出会うのです。
 レース後の疲れからかヨレヨレになりながらカリズマティックを必死に支えるアントレー騎手の姿はVTRと分かっていても胸を打つものがありました。これによりカリズマティックは一命をとりとめ種牡馬となり2年後日本で種牡馬入りしました。当初は活躍馬を出せなかったものの交流G1を3勝したワンダーアキュートを輩出。今年から後継種牡馬になっています。
 一方アントレー騎手はこの翌年にあたる2000年、薬物中毒による事故で34歳という若さでこの世を去っています。結婚したばかりの奥さんのお腹には新しい命が宿っていたそうです。

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