荻伏共同育成場日誌

北海道浦河町にある競走馬育成牧場・荻伏共同育成場の場長が日々の風景をお届けする徒然日誌。

ホッコータルマエに関するお話「矢部幸一・前オーナーを偲んで」など

2015-06-25 17:21:55 | 日記
自分は以前、荻伏共同育成場と提携を結んでいる高昭牧場BTCで勤めており、そこでホッコータルマエに携わることができました。ちょっとした裏話と私事になりますが、タルマエにかかわる話を3つほどしてみたいと思います。

1.リバーズキング
―2010年9月27日―
 そこに1頭漆黒の一際筋肉質な馬が入厩しました。
「リバーズキング」
リバーズキングとは幼名で、大方の牧場は「○○の2015」といったふうに繁殖名+年号をつけるのですが、牧場によっては競走馬のように名前を付けるところもあり、リバーズキングもその類のものだと思われます。

当時の印象を月末に馬主さん向けに送る報告書にはこのように書いています。

“ 一見して見栄えのする馬で、特に臀部から大腿部の形はかなり迫力があります。
 精神的にも落ち着きがあり、ひと言でまとめるならば、大人びた馬であるといえます。”(2010年10月度馬主抜け報告書より抜粋)

 入厩から程なくしてオーナーである矢部幸一会長と奥様がいらっしゃいましたが、あいにくの大雨で厩舎前のロンジング場で見せることになりました。そのときオーナーの馬を3頭同時に出したのですが、比較展示のような形になり、他の2頭に比べリバーズキングの臀部の大きさと、大雨降りしきる中テンションが上がる2頭を尻目に悠然と構えるその姿に、そこに居合わせた人すべてが驚愕しました。
 
2.2013年の『帝王賞』後日談
『かしわ記念』でG1初制覇を成し遂げたホッコータルマエは次走上半期のダート王を決める『帝王賞』に駒を進めていました。詳細は避けますが、その時の馬体重が前走から12キロ増。しかしパドックではむしろ威圧感が増しており、レースも快勝と言える内容でした。後日、西浦先生がいらっしゃったときに自分が思っていたことを伝えると次のようなことを教えていただきました。「タルマエは今まで90%ぐらいの仕上げしかできんかったんや。それは体を作りすぎると脚元に出る危険性があったからなんやけど、今度は相手も強いし、タルマエ自身も体が強くなってきて、これならば食わし込んでメイチに仕上げても問題ないと思うて、初めて100%の状態に仕上げたんや」というお話を聞かせていただきました。馬の特性や成長力を観察しタルマエをここまでにしたのは西浦先生の手腕なくしてあり得なかったのではないでしょうか。

3.矢部幸一・前オーナーを偲んで
 今まで20年この業界におりますが、一番お世話になったオーナーです。育成場としての成績が出ず、育成頭数が激減したとき、自らの育成馬を12頭も預けていただきました。仁義に熱い方で面倒見が良く、我々のような従業員への礼節も忘れない素晴らしい方でした。でしたというのは、新聞などでご存知の方も多いかもしれませんが、一昨年の11月27日に他界されたからです。現在も奥様やご子息である現オーナー道晃社長をはじめ矢部オーナー家の方々には本当に良くしていただいております。しかし、会長がタルマエの活躍を半ばまでしか見ることができなかったことは本当に残念でなりません。
会長、第2、第3のタルマエをつくれるよう日々精進いたしますので、タルマエともども天国から見守っていただければ幸いです。


ホッコータルマエの1歳時(2010年10月23日撮影)

重賞分析『帝王賞』

2015-06-25 10:11:44 | 競馬
 24日に大井競馬場で行われた第38回『帝王賞』(ダート2000m・Jpn1)は単勝1.4倍という圧倒的1番人気に推されたホッコータルマエが好位から直線競り勝ち一昨年に続く2回目の制覇となりました。勝ち時計は2.02.7。2番人気のクリノスターオーがつくる1000m通過が59.9という速い流れの4~5番手を楽に追走し、ゴール前は粘る2着馬をかわし人気に応えました。ドバイ遠征帰りということで100%の出来ではなかったと思われますが、地力の違いでG1・9勝目をあげました。ホッコータルマエは育成で携わった馬なので、あとで特集記事として書かせていただきます。父キングカメハメハ、母マダムチェロキーという血統。浦河・市川ファームの生産馬です。2着は4番人気のクリソライト。前半掛かり気味に2番手追走4コーナー手前で先頭に立ち押し切る構えでしたが、最後は力の違いでねじ伏せられました。まだ安定感はありませんがここで持っている能力の高さを示しました。3着は地方競馬の雄ハッピースプリント。前半速い流れに地方勢としては唯1頭ついていき、4角ではもしかしたらと思わせたものの最後は脚色が鈍り3着どまりでした。しかし落ちてきた馬をかわしてのものではなく、自力で勝ちにいっての3着は価値があると思います。まだ4歳で伸びしろもあると思われるので、今後の活躍に期待したいと思います。4着ユーロビート先団から大きく離れた後方馬群に位置し、落ちてきた馬をかわしての4着だけに額面通りには受け取れません。5着ニホンピロアワーズは現時点での力は出し切ったと思われます。

育成場のお仕事~騎乗運動~

2015-06-24 06:59:59 | 仕事
 育成場においてメインの仕事と言えば、馬に乗って調教をつけることです。以前にもお話しした通り、育成場もその特性によってかなり細分化されるようになり、騎乗馴致から基礎体力強化を主体としている育成場、基礎体力強化から競馬場と同じ程度速い時計を出す育成場、競馬場近郊に位置し外厩のような役割すなわち出走させるということ以外は競馬場と同じような仕事をする育成場、そしてこれらを総合的に行う育成場まで千差万別です。私たちの育成場は一番はじめの馴致から基礎体力強化を行う牧場ですが、基礎体力強化と言ってもハロン17~8秒の時計で走るところまでは持っていく必要がありますし、要請があれば15-15までだすこともあります。
 このような形態の牧場なので、この時期になると近郊にあるトレセンなみの施設を持つBTCで調教を行う提携牧場へ移動したり、トレセンへ入るための最終段階を仕上げてもらうために本州の育成場へ移動したり、地方競馬ならば直接競馬場へ入厩したりしております。今残っている馬たちは、単純に成長が遅い馬でじっくり調教を積まれている馬、馬房調整がつかず入厩できない馬、故障して戻ってきた馬、そして休養馬が残っています。騎乗可能馬以外では、すでに1歳馬も入ってきており、昼夜放牧がおこなわれております。

 この時期の調教は進んでいる馬と、故障明けで慎重に進められている馬の差がはっきりしており、今日のメニューで行くと進んでいる馬はハロン18秒のキャンター(駆歩)を3200m行いますが、故障明けで慎重に立ち上げられている馬はダグ運動(速歩)のみです。これらのメニューは当日の状態や今までの経過、それに騎乗者や同じメニューの調教馬など様々な面を勘案し決められていきます。
そうしてきめられたメニューがこちら

水色はダグ運動のみ、黄色はキャンターを行う馬、馬割り下の爛は騎乗休止馬で、今日1頭退厩、3頭はウォーキングマシンでの運動のみ。下の欄はウォーキングマシンに入れる順番で、1鞍目などはダグ運動のみでも故障しているわけではなく昨日この仔たちにとって速い時計で走ったので今日は軽くしております。

 このような日々の積み重ねで基礎体力を強化し、競馬場での調教に耐えうる体作りをしているのです。騎乗運動は騎乗者にとって大変でもあり危険でもありますが、同時にとても楽しいものです。特に自分の乗った馬の中から大きなレースを勝つような馬が出たり、乗っている馬の走りが素晴らしかったりすると、それだけでテンションが上がります。それは騎乗者だけが味わえる特権であり、騎乗したものしかわからない感覚なのです。そんな経験がしてみたいやる気のある方がいらっしゃったら、うちはいつでも門戸を開いていますよ。最終決定は社長ですが。



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先週の海外競馬(6/14~21)

2015-06-23 06:57:32 | 競馬
 先週はロイヤルアスコット開催がありました。ご存知の方も多いかもしれませんが、イギリス王室が主催するアスコット開催のことで8つのG1を含む17の重賞が組まれ、王室の観覧はもちろんのこと厳しいセキュリティーチェックやドレスコードがある近代競馬発祥の地らしい貴族競馬の雰囲気を漂わす開催となっています。

 そのロイヤルアスコットに日本から天皇賞馬スピルバーグが参戦し話題を集めましたが、それはまず置いておいて時系列でG1だけご紹介します。
 開催のオープニングを飾るのは古馬マイルの『クイーンアンS』。2002年まではG2でしたが2003年にG1昇格。過去の勝ち馬にはフランケル Frankelなどがいます。6連勝中で断然の1番人気に推されたソロウ Solow(セ5歳)がここも制して7連勝。父は日本でもおなじみのシングスピール Singspiel。続いて行われたのが直線5ハロンの電撃戦『キングズスタンドS』。ショワジール Choisir、テイクオーヴァーターゲット Takeover Target、ミスアンドレッティ Miss Andrettiというオーストラリアの名スプリンターが立て続けに勝ち2008年にG1に昇格したレースです。こちらは人気薄のゴールドリーム Goldreamが3連覇を狙ったソールパワー Sole Powerらを抑えて勝ちました。父はチャンピオンスプリンターオアシスドリーム Oasis Dream。英愛2000ギニー馬VS仏2000ギニー馬の対決で注目された3歳マイル王決定戦『セントジェームズパレスS』は英愛2000ギニー馬グレンイーグルス Gleneaglesが勝ちました。派手さはありませんが安定感のある走りで、来月行われる『サセックスS』でソロウと初対決なるか注目です。
 2日目はスピルバーグも出走した『プリンスオブウェールズS』。G1に昇格された2000年にはドバイミレニアム Dubai Millennium 対 センダワール Sendwarの頂上決戦が行われ認知されるようになったレースです。素質馬として期待されていたハイチャパラル High Chaparral産駒フリーイーグル Free Eagle がザグレイギャッツビー The Grey Gatsbyに競り勝ちました。スピルバーグは直線伸びきれずに6着。
 3日目は1807年創設の20ハロンの長距離戦『アスコットゴールドカップ』。大レースには縁がない4歳セン馬ハンディキャップホースのトリップトゥパリ Trip to Parisが伝統あるこのレースを制しました。父は今をときめく種牡馬ダンジリ Dansiliの全弟でアメリカ芝戦線で活躍したシャンゼリゼ Champs Elysees
 4日目は3歳限定の6ハロン新設G1『コモンウェルスS』。勝ったのはまたオアシスドリーム Oasis Dream産駒のムーハラー Muhaarar。後続を3馬身半ちぎる圧勝でした。3歳牝馬マイル王決定戦『コロネーションS』はプール・デッセ・デ・プーリッシュ(仏1000ギニー)の勝ち馬エルヴェディヤ Ervedyaが愛1000ギニー2着のファウンド Found を差し切りました。父はシユーニ Siyouniという『ジャン・リュック・ラガルデール賞(旧グランクリテリウム)』の勝ち馬。
 5日目は旧ゴールデンジュビリーSこと6ハロンG1『ダイヤモンドジュビリーS』。勝ったのはアメリカからの遠征馬アンドラフテッド Undrafted。父は『シャドウェル・ターフマイルS』の勝ち馬プリム Purim。豪からの遠征馬でG1・2勝のブレイズンボウ Brazen Beauは2着。

 さらっと結果だけ書き連ねましたが3時間半かかりました。それにしてもスプリントG1が3つも必要ですかね?最大のニュースは馬たちではなく、日本でもお馴染みのライアン・ムーア騎手がロイヤルアスコット開催で9勝というレコードを樹立したことでしょう。過去8勝が最高でしかもその騎手はレスター・ピゴットとパット・エデリーという歴史的な名騎手。その記録を抜いたのですからもう歴史に名を刻むことは間違いないでしょう。

 さてロイヤルアスコット以外ではテイクオーヴァーターゲット Takeover Targetの訃報を取り上げなければなりません。『スプリンターズS』の覇者で地元オーストラリアはもちろんのこと、イギリス、シンガポールでも活躍したテイクオーヴァーターゲットがパドックでの事故で亡くなったとのことです。ご冥福をお祈りします。

育成場のお仕事~早朝~

2015-06-23 06:15:36 | 仕事
 おはようございます。
 うちの育成場は朝6時スタートです。
 はじまるとすぐに検温します。同時に脚元や飼い葉の食べ残しがないかなどの食欲をチェックし、異常があれば報告してもらいます。
馬の体温は年齢にもよりますが2歳の育成馬は37.5~38.3℃と平熱を割と広い範囲に設定していますが、これは人間と同じく個体差があるからで平常時と明らかに違う体温の馬がいれば、たとえ平熱でも報告してもらいます。
 検温が終わると、今時期ならば夜間放牧している1歳の収牧を行い、調教を行う馬は準備体操としてウォーキングマシン運動を行うため1鞍目の馬をマシンに入れます。それが終わるとパドックへ馬を放していきます。とまあ朝から慌ただしいですね。故障休養している場合ではないです。
 大体これだけで1時間近くかかります。
 すべて終わったらいよいよ騎乗運動がはじまります。


朝の検温&脚元チェック


ウォーキングマシンの出し入れ


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