2017年12月9日(土)に開催されました体外受精・ステップアップセミナーに多数のご参加を頂いただきありがとうございました。
頂きましたご質問には、できるかぎりセミナー中に説明いたしまたが、受講されていない方にも参考にしていただけるように、このインフォメーションライブラリの場でもご質問にお答えさせていただきます。
Q1. 卵巣刺激方法はマイルド刺激法以外はないのか?たくさん採卵できるのであれば、1回でたくさん取って凍結したい
A1. 院長朝倉です。大変重要なご質問をいただいたので、やや多めのスペースと資料で説明いたします。
時間と費用も小さくない体外受精では、一度の採卵でより多くの卵子を作って、受精卵ができれば数回の胚移植ができて効率が良いと考えられるのも理解できます。卵巣刺激法は、従来はゴナドトロピンというお薬を毎日注射することで、なるべく多くの卵胞を卵巣内に育てることを目標にしていました。しかしながら、その副作用として卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が約1%の患者様に起こります(図1)。OHSSは腹水や胸水が増え、呼吸が困難、血管内の血栓症が発生しやすくなります。重症になると、入院して集中治療が必要となる場合があります。OHSSは、一旦、起こってしまうと、それを抑制することが困難という側面があります。
図1
他方、OHSSでは、採卵される卵子の質へも影響することが、最近分かってきています。図2に示されるように、卵子数は、ある数を超えると全体の質が低下するために、受精卵の子宮への着床能力(妊娠効率)が低下しはじめます。よって、卵子数が増えるほど、OHSSのリスクだけでなく、受精卵の質の低下につながる可能性が高まります。そのため、最近は、より多くの卵子数をめざすよりも、より安全に、より高い質の受精卵を数個造ることを、院長は目標にしています。
図2
日本全体での結果(図3)を見ると、受精卵だけを比較すると、どの卵巣刺激法であっても胚移植あたりの妊娠率はほぼ同等です。当院の結果からは、マイルド刺激法は、毎日注射による通常刺激法に比べて、同等またはより高い妊娠効率があることがわかりました(図4)。当院で行うマイルド刺激法(図5)では、注射の投与回数と総量を減らす代わりに内服による卵巣刺激を併用するために、お薬にかかる費用を抑えられると共に、重い卵巣刺激症候群(OHSS)が起こる治療周期が、ほぼ無くなりました。OHSSが起こる可能性が少ないために、診察やホルモン検査の回数も少なくてすむ利点があります。卵子数も過剰に多くはないので、顕微授精や凍結保存にかかる費用も、予想以上に大きくなることを予防します。得られる受精卵の品質も通常刺激法と同等か、より良好であると考えます。よって、当院ではマイルド刺激を卵巣刺激の第一選択手段とさせていただいています。
図3
図4
図5
但し、卵巣刺激法は、個人差がある卵巣の卵子の作りやすさや副作用(特にOHSS)の起こりやすさ、過去の体外受精結果など医学的な背景だけでなく、患者夫婦の経済的事情、通院のし易さ等も総合的に考慮して、できるだけ患者の希望に合った方法を選択いたします。治療の状況によっては、次の治療をマイルド刺激法から通常刺激法へ、または調節自然周期法へ変更することも多々あります。
図6に、当院で使い分ける主な卵巣刺激法の概要を示します。治療法の選択については、各方法の長所と欠点を理解して、積極的に医師と相談をいただければ幸いです。
図6
Q2. 培養士の方が3名いらっしゃるとブログで拝見しましたが、役割分担等はされているのでしょうか。認定胚培養士の方にお願いしたいです。
A2. 当院では、認定資格を持った胚培養士が2名、1年目の新人胚培養士が1名在籍しております。現在、新人胚培養士は、精子検査や人工授精・体外受精治療の精子調整などに携わっております。当院では、体外受精や顕微授精などの高度生殖技術に携わることができる一人前の胚培養士になるには、2-3年かかると考えております。そのため、実際の患者様の卵子や受精卵を扱うのは、2-3年以上経験を積んだ胚培養士が担当いたします。安心して治療を受けていただいて大丈夫です
Q3. 顕微授精のリスクが心配です。スプリット法を採用している病院は全体の何割くらいなのでしょうか。
A3. スプリット法とは・・・例えば5個採卵できた場合、そのうち2個を顕微授精し、残り3個を体外受精するといった、受精方法を個数で分けることです。最初の体外受精では何が起こるかわかりません。20組に1組の確率で、まったく受精しない受精障害が起こる場合があります。そのため最初の治療では、保険として1-2個顕微授精を行って確実に受精卵ができるようにしておき、残りは体外受精を行って様子をみる、Split-ICSI法をおすすめしています。この方法は、当院が独自に行っているものではなく、どの施設でも一般的に行われている方法です(初回で実施しているかはわかりません)。
受精方法は、治療開始時点で医師とご相談していただきます。当日の採卵個数や精子所見、医師との相談内容を踏まえたうえで、胚培養士が患者様と相談し、最終決定を行います。顕微授精のリスクが心配である場合は、直接胚培養士にご相談ください。ただし、当日の精子所見によっては、体外受精が困難な場合(直進運動精子が1000万/ml以下)がございます。特に、冬場の精子検体持込にはご注意ください(詳しくはこちらをご覧ください)。
Q4. 体外受精と顕微授精の妊娠率はどれくらいなのでしょうか。
A4. 2016年の体外受精した受精卵を移植した妊娠率と顕微授精での妊娠率を算出しました。症例は39歳以下で、新鮮胚移植と凍結胚移植を含んでいます。下のグラフでは、体外受精の妊娠率は41.4%、顕微授精は43.3%と差はありませんでした。受精方法によって差が出るのは、受精率です。受精した後のグレードや分割の仕方は、卵子や精子の質が大きく関わってくるため、妊娠率に差はあまりないと考えています。
Q5. 受精卵を子宮の中に入れるだけ、なのか、子宮内膜に移植するのか、どちらかを知りたい。子宮の中に入れるだけなら、着床するかどうかは卵の運命次第、となるので、高い費用をかけても失敗しそうで怖い。私は一度も着床、陽性となったことがないので着床できないんじゃないかと心配。人工授精5回ダメだったので・・・
A5. 胚移植は、子宮内膜の一番分厚い所に受精卵を置いてくるという処置になります。その後は、受精卵が透明帯(卵子の殻)から出てきて、孵化をします。孵化をした胚は自分で子宮の内膜に潜り込みます。これを着床といいます。
今まで妊娠反応が陽性になったことがない場合、以下のような理由が考えられます。
卵子と精子が受精できていない
受精卵の質が悪く、胚盤胞になっていない
透明帯が硬い・分厚いなどの理由で孵化ができていない(詳しくはこちら)
着床するタイミングが通常よりもずれている(今後詳しい記事をアップします)
体外受精の治療を行うことで、今まで身体の中で起きていた現象を身体の外で確認することができます。卵管も通っていて、精子の問題もない原因不明不妊とされている場合は、本当の不妊の原因がわかるかもしれません。また、治療費は自治体の助成金制度や医療費控除を利用することで、ある程度軽減されます。
ステップアップについて気になることや不安なことがありましたら、いつでも医師・看護師・胚培養士にご相談ください。
Q6. 治療年数が長いのと金額的に治療できる回数が限られていて、多胎も考えているのですが、初めての体外受精では難しいのでしょうか?あと、流産死産をしているので、そのリスクを考えると多胎を考えない方がいいのでしょうか・・・
A6. 院長朝倉です。かつては体外受精による妊娠率を高める為に、複数の受精卵を子宮に移植することが日常的に行われてきました。その背景としては、より着床しやすい胚盤胞を育てる培養技術が確立していなかったことと、受精卵を凍結することで胚の質が低下する可能性が高かったことが挙げられます。これまで日本の体外受精は、多胎妊娠(同時に二人かそれ以上の胎児を子宮に宿すこと)を治療の目標とすることはありませんでしたが、30歳代で2個の受精卵を同時に子宮に移植すると、約2-4割の妊婦が多胎妊娠になります(図1)。
図1
多胎妊娠では、早産により出産時期が約3-4週間早まることが通常となり、胎児が未熟の状態で生まれる可能性が高くなります。未熟で生まれる胎児は、人工呼吸器による治療が必要になり、脳、眼、肺、心臓等の内臓が未熟でもあるので、生涯続く後遺症が発生する可能性が高くなります。 多胎妊娠は、母体へも妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎盤異常などの出産リスクを高くする合併症が多発することが知られ、出産も帝王切開になる可能性が高くなります。 一度の出産で、二人の子供を得ることで、今後の治療を受けなくても良くなる利点はあるかもしれませんが、それと引き換えに新生児および母体への身体的なリスクを受け入れる必要があります。また、新生児を2人、特に未熟で生まれる場合の育児労力も大きく、多くの多胎出産後の体力的、経済的および精神的負担に悩む場合が少なくありません。
参考:東京歯科大学市川総合病院リプロダクションセンター「多胎妊娠のリスクと予防」
ガラス化法というより胚に負担の少ない受精卵の凍結保存方法が普及したことから、2008年に日本産科婦人科学会は、下記(図2)の胚移植個数についての学会ガイドラインを発表しました。
図2
当院でも、妊娠ではお一人を出産されることをお勧めし、上記のガイドラインを基本とした移植個数をお勧めしています。結果として当院の体外受精による多胎妊娠(ほぼ双胎のみ)の発生率を4%程度に抑えることができています。
図3
移植する胚の個数は、患者の年齢や治療経過(回数や結果、胚の状態)、出産される母体の健康状態等を元に、予想される治療結果(妊娠率)と副作用(多胎妊娠率)のバランスを考えてお勧めしますが、患者ご夫婦のお考えを最優先するようにしています。
特に早産、流産や死産を繰り返される女性へは、多胎妊娠が流産や早産のリスクをより高める場合があるので、複数胚の移植は慎重であるべきと考えます。
今後、一層当たり前の生活が困難になると予想されています。生まれた赤ちゃんが立派な社会人になるまで養育するのに長い時間と2-3千万円以上かかる時代に、赤ちゃんの可能性を最大限に引き出せるように、できるだけ健やかに出産し、一人一人と濃厚に向き合い、丁寧に育児していただけるご判断を期待しております。
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