下の表は、メルクマニュアルから抜粋した、末梢神経の太さによる分類です。かつて、某医科大学の偉い先生の講演で、このような神経線維の太さに従って症状が推移していくという解説を聞いたことがあり、当初は、なるほどと思ったものでした。つまり、初めは細い感覚神経が障害されるために、下の表の言葉を利用すると、部位が比較的明瞭な皮膚の温痛覚がやられるため、「チクチク」とした痛み、知覚異常が現れ、進行すると、皮膚の触圧覚が障害されて、以前述べたような「ボコボコした感じであったり、「水ぶくれができたような」感じが出るというのですが、実際に患者として経験すると、そう理屈通りには進みませんでした。馬尾神経は文字通り馬のしっぽのように神経の束が集まっていますが、それらがまとめて締め付けられるために症状が出ます。きれいな神経根症状とも違いますし、細い神経、太い神経が混在した状態ですから、締め付けるメカニズムと障害される神経の位置関係によって、症状のバリエーションが出るものと考えます。ただし、基本的には細くて長い神経軸索が最も障害されやすいことが予想されますので、足の遠位から症状が出現することは間違いありません。
分類 | 髄鞘 | 平均直径(μm) | 平均伝導速度(m/s) | 役割 |
---|---|---|---|---|
Aα | 有 | 15 | 100 | 骨格筋や腱からの感覚、骨格筋の運動 |
Aβ | 有 | 8 | 50 | 皮膚の触圧覚 |
Aγ | 有 | 8 | 20 | 筋紡錘の錘内筋運動 |
Aδ | 有 | 3 | 15 | 部位が比較的明瞭な皮膚の温痛覚 |
B | 有 | 3 | 7 | 交感神経の節前繊維 |
C | 無 | 0.5 | 1 | 交感神経の節後繊維、皮膚の温痛覚 |
感覚神経(求心性神経)では次の分類が用いられることもある。
分類 | 髄鞘 | 平均直径(μm) | 平均伝導速度(m/s) | 感覚 |
---|---|---|---|---|
Ia | 有 | 15 | 100 | 筋紡錘 |
Ib | 有 | 15 | 100 | 腱器官 |
II | 有 | 9 | 50 | 筋紡錘、皮膚触圧覚 |
III | 有 | 3 | 20 | 部位が比較的明瞭な皮膚の温痛覚 |
IV | 無 | 0.5 | 1 | 鈍痛、内臓痛 |
症状の出方が現実は異なると書きましたが、原則を理解しておくことは重要でしょう。脊柱管狭窄症では、物理的に馬尾神経が圧迫されることによる損傷と考えられますが、たとえば、動眼神経が内頚動脈後交通動脈動脈瘤の際に圧迫される場合には、同神経の表面背内側で表面に瞳孔への線維があるために、しばしば散瞳が初発症状として見られるというのとは状況が異なると思われます。
馬尾神経損傷のメカニズムについては、別の機会に考えて見ます。
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