「ごめん……」
ようやく小頭の心は落ち着きを取り戻してきた。色々と吐き出してたわけだけど、やっぱり怒りを発散するのにもエネルギーが必要で……それがずっと続く……なんてことはない。
物理的に不可能だ。だから冷静になっていって、腕も痛いしできることもなくなると、自然と謝罪の言葉が出てた。それに対して鬼男はただ一言。
「いや……」
――としか言わない。元々が口数が多いタイプではないと小頭だって鬼男のことはわかってるつもりだ。けど……たったそれだけ? とちょっと思う。いや、これも理不尽なのはそのとおりだ。だって鬼男は小頭を助けた立場である。ならばもっと「恩着せがましく」――とは言わないまでも、もっと手柄を誇ってもいい。てかそのくらいしてくれたら、小頭だってもっと適当に「はいはいありがとう」――とかいえる。
けど鬼男は軽薄……とは真逆の所にいる男だ。鬼の男とは皆こんな堅物? というのは失礼かもしれないが、そんなものなのだろうか? と小頭は想ってしまう。そこを男限定にしたのは女の鬼の印象は鬼女に依存してるからだ。彼女はどちらかというと軽薄の部類だろう。やるときはきっちりとやる……タイプであると小頭もわかってるが、普段はとてもギャルっぽい。
だから結構鬼女と鬼男は真逆だろう。
「もう忘れる。だから大丈夫だから」
そう言って小頭は鬼男の腕から離れる。それでも完全に離れることはしない。だってこの濃霧の中ではちょっと離れただけでその姿を見失うかもしれないのだ。そんな中、下手に繋がりを切ることはできない。でも……流石にずっとゼロ距離の位置にいるのは小頭だって気まずかったのだ。
なにせ色々と悪いことをしてしまったという思いは当然にある。鬼男がいなかったら、小頭は今も夢の中だったろう。そうなると、家族も……そしてこの街だってどうなってしまうか……全てを放棄して逃げようとしてた。その責任を小頭が背負うのもおかしいとか思うけど、でもわかってしまってるんだから、それの解決に動くしかないと思ってる。
だから言わなきゃいけないことがある。小頭は鬼男と指先だけつながってる。けどなんとかそれだけで思いっきり離れて……でも離れきれないから、背中を見せて、ゴニョゴニョとして……ようやく小頭はこういった。
「ありがとう……」
――ってね。