ギギィィ――
フロントライトが直接目に飛び込んできて、桶狭間忠国の視界は真っ白になる。ものすごいピンチ。トラックが異様に大きく見えて、その音しか聞こえない。恐怖がせりあがってくるような感覚を感じながらも、桶狭間忠国は「ああ……」と思ってた。
なぜにそんな落ち着いていられるのか……それは桶狭間忠国の視界にはいつの間にか小さな男の子がいたからだ。真っ白な中、その男の子だけがはっきりと見えてる。そしてその男の子は桶狭間忠国だった。
正確にいうと桶狭間忠国の幼い姿だ。それは六歳くらいの桶狭間忠国。小さな桶狭間忠国はトラックにビックリして体が動かないようだ。六歳にしては大きくて、しかも既に高学年くらいには身長がある桶狭間忠国。
でも、それでもトラックにはビビッて一歩も動けてなかった。
「このころの僕は誰よりも強いって……そう思ってた。でも、この時初めて、死を感じたんだ」
そんな風につぶやく桶狭間忠国。そして目の前の小さな桶狭間忠国はブワッと涙を流して「うわあああああああああ!?」という悲鳴を上げて後ろに倒れて体を抱え込む。子供にしては大きなその体を必死に小さくして、まるで自分を守ってるかのよう。
でも未来に桶狭間忠国がいるように、ここではどうやら桶狭間忠国は死なないらしい。
「ああ、やっぱり」
ドン! という音が響く。けどそれは小さな桶狭間忠国とぶつかった音じゃなかった。桶狭間忠国は今は自分の幼い姿ではなく、その視線をその向こうへと向けていた。そしてそれには誰かがいた。
トラックを受け止めて、そのライトで照らされてるせいでちゃんと顔は見えないが……そこには確かに誰かがいた。
「あぁ……うぇ……」
『大丈夫か坊主?』
その声はどこか不思議と幾重にも重なって聞こえた。低いような高いような……けど男性ではあるだろう。それをあらためて桶狭間忠国は確信する。幼い桶狭間忠国はなんとか首を縦に振って、無事な事を伝える。
『そっか、では気をつけろよ。俺だっていつでも救えるわけじゃないからな』
「あ……あの! ど、どうやって……」
幼いながらにも、人がトラックを止める……なんてことが異常だということを桶狭間忠国はわかってたらしい。だからこそ、そう聞いた。けど……その人は「はははは!」と笑った後に桶狭間忠国の頭をガシガシと撫でてこういった。
『そんなのやれば出来るんだよ。お前も信じる者になれ!』
その言葉と共に、「じゃあな!!」といってその人は去っていく。いや、違う。去っていくというよりも、まるで消えたかのようにふっとその場から消えた。それから――
「坊主大丈夫か?」
――というトラックの運ちゃんがやってきたりもしてたが、その光景が見えることはなかった。ただ幼い桶狭間忠国が目を輝かせて彼が去ったさまを見つめ続けてる姿だけがあった。そしてそれを見つめる大きくなった桶狭間忠国。
「ああ、そうだ……これが……」
桶狭間忠国は戦闘中だったことも忘れて回想に浸ってた。もしもこれがあの悪魔の思惑通りなのだとしたら、まさにはまってるといえる。けど不思議なことにただ原点を思い出してた桶狭間忠国に攻撃がやってくることはなかった。