全くあらぬ方向から飛んでくる巨大な岩。土がついたままでその土を落としながら進んでくるそれ。そんな光景をゆっくりと観ながら、頭には別の方向の光景が野々野足軽には映ってた。それはさっきまで見てた筈のサルの方だ。はっきりとその姿を捉えてるわけじゃないが、野々野足軽の目にはそのあふれる力とでもいえるものが映ってた。
それで土ぼこりが起こった中にいる例のサルをみてるのだ。そして確かにそこにいることを確認してる。ならば……だ。ならばこれは? その思考はコンマ数秒だった。とりあえず、避けるか止めるか……足軽はとりあえず止める事を選択した。でも次の瞬間だ。
ドガアアアアン!!
――と止めたはずの岩が砕かれた。そしてその破片が無数に足軽へと降り注ぐ。
「くっ」
足軽はとっさに腕を前にして重要な頭部分を守る。それさえも一気に止めてしまえば……と思うが、どうやらそれはできなかったようだ。細かく分かれた沢山の岩が体に当たる感覚をほんの数秒だけ感じる足軽。いくら派手に砕かれたといっても、その破片のサイズはばらばらだった。それこそ小石程度、ゴルフボールからバレーボールくらいの幅はあっただろう。
それに当然だけど危なくないように角を丸めてある……なんてのはない。当然すべての部分がギザギザしてただろう。その証拠に足軽の服はいくらは裂けてしまってた。でも……
「あぶな……はぁ、ちょっとだけ焦ったな」
そんな風にいって守りを解く。服は確かに破れてしまったが、どうやらあれだけの破片が降り注いだにも関わらずに野々野足軽は無傷のようだ。
「失敗したよ。確かに一体なんてそんなの思い込みでしかなかったよな。わるかったよ。だから……二体まとめて相手にしてやるよ」
そういって腕を軽く広げて眼下を見据える。けど……そこには既に何もいなくなってた。
「……ん? あれ?」
なんか夜空の風が夏なのにちょっと肌寒く感じる足軽だ。決めたままのポーズをしてたのに……そこには既に誰もいなかった。ただ、ただ空しいだけの奴に足軽はなってた。
プルプルと小刻みに震えだす足軽は静かにポーズを解いて家に向かって進みだした。けどなんか時々意味もなくアクロバティックな飛行をやってた。どうやら発散しないといけない羞恥心がこみあげてくるようだ。