「ほら、小頭ちゃんこの魚もおいしいわよ」
「うう……だって魚って目がギョロってしてて、こっち観てくるんだよ?」
「それはね、小頭ちゃんに食べてほしいから『おいしいよ』って言ってるのよ?」
「そんなのでだまされるほど私子供じゃないよ!」
「あらあら、でも本当においしいのよ?」
そういっておばあちゃんは魚の煮物の身をほぐして口に運ぶ。そして「ん~!」となんかちょっとわざとらしいくらいにリアクションをしてる。確かに今日の夕食の魚は丸々一匹ずつあって澄んだ魚の目がやけに目立つような気がしないでもない。
けど別に今更こんなのを怖いなんて足軽は思わないから、足軽は普通に食べてた。てか確かにうまかった。都会の方で食べる魚とはやっぱりなんか違うな……とか思ってるくらいだ。
身がとても厚く、ふっくらしてる感じだ。都会のスーパーとかで時たま母親が買ってくる魚はもっとほっそりとしてる気がしてる。すぐに骨に到達するような感じ。でもおじいちゃん家の田舎の魚はもっと厚みがあるようだ。
実際足軽は魚よりも肉派だ。てかそもそもが魚をそんなに食べる機会というのがないんだから、肉派になる確率の方が現代っ子は多いだろう。なにせ肉なんてそこらへんにあふれてるのだ。
ハンバーガーとかだって肉だし、外食した時にわざわざ魚を頼むとかいうと……そんなのはない。ファミレスとかだって現代っ子は肉を頼むだろう。ハンバーグとか、生姜焼きとかそれこそステーキとかなんか……である。
そんな時に魚の定食? ないないって感じみたいだ。魚と言えば『寿司』……このくらいしか都会の子供たちにはない。だから足軽にはこんなおいしい魚は普通に新鮮だった。
(まあちょっと確かにぐろいけど……)
身をほぐして、最後には頭と骨と尻尾になってしまう魚。その姿は結構グロテスクだなって思ってしまうのが、こういう魚料理に慣れ親しんでこなかった弊害だろう。
「うう……おいしい?」
そんな事を小頭が足軽に聞いてくるから、とりあえずうなづいておいた。すると小頭は意を決したのか、お腹の部分を箸でとって、目をつむって口に入れた。
しばらく口に入れただけで動かない小頭。けど観念したのか、口をもごもごしだす。すると目を開いてこういった。
「おいしい……」
――とね。それを聞いておばあちゃんも満足そうにしてる。それからも和気あいあいと夕食の時間は過ぎていった。