「それじゃあ二人とも。次はお祭りでね!」
そんな風にさわやかな笑顔と共に自転車に乗り込んだ幾代。水着の上から簡単に羽織れるだけのワンピースを着てさっさと彼女は自転車を漕いで帰ってく。
その背中を見つめる足軽と小頭。足軽達もその背中を見送って帰路につく。夕暮れの夏の日。せっかく海で涼んだのに、足軽は家に帰ったころには汗だくだった。
もちろん後ろでただ楽してるだけの小頭は涼しげだ。
「結局、何も言ってくれなかったな」
ぼろい自転車を納屋の方に収めつつ、足軽は一人つぶやく。するとおばあちゃんがどこかからかかえって来たのか、慌てたようにパタパタと靴を鳴らして道路の方からやってきた。
今回は別に野菜とかがあるわけじゃないし、畑に行ってたとかでもなさそうだ。
「あら、足軽。今日も友達と遊んだの?」
「うん。海でね」
「危ない所には行ってないでしょうね?」
「そんな訳ないじゃん」
「そう、それならよかった。すぐにご飯の準備するからね」
そういって家の方へと向かってくおばあちゃん。そんな背中を見つめてると麦わら帽子をかぶったおじいちゃんが返ってきた。おじいちゃんは足軽を見つけると何やらでっかいスイカを見せてきた。
「ほれ、どうじゃ足軽!」
「おおーでっかいね」
「そうじゃろそうじゃろ! デザートはこのスイカで決まりじゃな!」
野生児みたいな恰好をしてるおじいちゃんは今日も元気だ。ふと足軽はそんな一日の終わりでも元気なおじいちゃんにきいてみる。
「おばあちゃんもさっきかえって来たけど、一緒に畑にいたの?」
「おお、そうか! いや、ばあさんは今日は畑にはきとらんな。まあ何やら最近忙しそうだからな。じゃが問題ない! 儂一人でも余裕じゃかれな!」
元気が有り余ってるという感じのおじいちゃん。でもその言葉を聞いて足軽は「だよね」と思う。足軽は幾代に海で自身が超能力者という事を打ち明けた。
けどそれで彼女が大きな関心を持つことはなかった。いや、一定の関心をもったような素振りはしてたけど、そこまで……ということはなかった。一応小石を浮かせるような事を見せて、それであの廃村ではちょっとだけ力を使って助けた事を伝えた。後は小頭には秘密にしておいてほしいってことも……
すると幾代はお礼と共にこうもいってきた。
『わかったよ。そうだよね。あんまり言いふらすものじゃないよね。それから、力があるからって無茶はダメだよ』
とね。それで終わりだった。それから分かれたわけだけど、足軽は遠視で幾代の行動を実は追ってた。それで知ったことがある。
「はぁー腹減ったの。足軽はどうじゃ?」
デカいスイカを担いで先を歩いてるおじいちゃんがそんな事を言ってくる。
「今日は海で泳いだからね。腹ペコだよ」
「かはは! 今度は儂が銛をもっていってやる。デカい魚を捕ってやるぞ!」
そういって笑うおじいちゃんに足軽は唐突だけとこんな質問をした。
「そういえばさ……小頭がなんか手紙とか書きたいから下の名前とか知りたいって言ってたよ」
「はっはっは、まあ名前で呼ぶことなんてないからの。けどそうか、手紙か……楽しみだのう!!」
ごめん小頭……とか思いつつ足軽は次の言葉を待つ。
「おじいちゃんはおじいちゃんでもいいが、儂は猛(たける)じゃ。ばあさんは……ばあさんは……そうじゃな。なんじゃたっか?」
おい……と思う足軽。伴侶だろう。一体何十年一緒にいたんだよってね。でも逆にそれだけの長さ一緒にいたから……なのかもしれない。
「おお、そうじゃ、ばあさんは。幾代(いくよ)。幾代じゃったな」
それを聞いて足軽は「そっか、ありがとう」とだけ答えた。
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