チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「名曲探偵アマデウスによる『チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲』の重音(double stop)」

2011年03月06日 00時29分08秒 | チャイコ全般(6つの目のチャイコロジー
NHK-BSで放送してる「名曲探偵アマデウス」の
「チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲」の回を録画しといたのを見た。
今回は「交響曲第4番」のときのような
アレレみたいなトンデモ話はしてなかった。ただし、
結びつけたネタが「探偵小説」だったので、
高橋ひとみ女史の登場テーマ曲である
ブラームスの「弦楽六重奏曲第1番2楽章」が流されるのが
じつに耳障りだった。チャイコフスキーの音楽を汚す冒涜である。が、
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番3楽章と
ブラームスのヴァイオリン協奏曲3楽章の区別がつかない
拙脳なる私の単なる感想にすぎない。

ともあれ、
この回ではこの作品とコーテクとの同性愛関係は隠さずに解説してた。
「禁断の愛から生まれた一世一代の傑作」だと。
この"神への背徳愛"に関しては、当ブログでは過去に、

「カルメンの告白(vn協奏曲第1楽章)」(2008年03月13日)
http://blog.goo.ne.jp/passionbbb/s/%A5%AB%A5%EB%A5%E1%A5%F3/1

「チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲』第3楽章/酒の臭いと怒りの日」(2010年02月18日)
http://blog.goo.ne.jp/passionbbb/e/011a571b5f511db6eb0468e4f0c8a835

で触れた。

「名曲探偵アマデウス」は今回はいつも出てくる玉川学園准教授は現れず、
あまりピアノが得意そうでない千住明が楽譜検討をしてた。で、
この作品に関してもっとも番組がこだわってたのが、
「重音」である。(狭義には)ヴァイオリンの4本の弦のうち、
隣り合う2つの弦を同時に弓(の毛)で擦る技である(=double stop)。
第1楽章の111小節めからの「重音」を例に取りあげてた。
どこかのオケのコンマスが実演して解説してた。同人が言うように、
「重音を交えると音の響きがきれいではなくなる」
のである。そして、ヴァイオリンとヴァイオリニストの
「高テク・ニック」を要求し、それを聴衆に示させてるのだ、と。
そのとおりである。107小節から……
[(Moderato assaiに対する)Piu mosso、4/4拍子、
実質イ長調=ニ長調ソナータ形式の第2主題提示部終いであるから属調)]
****♪ソ>ミ<ソ・<ラ>ミ<ラ・・>ファ>レ<ファ・<シ>♯ファ<シ・・・・
   >ソ>ミ<ソ・<ラ>ミ<ラ・・>Nファ>レ<ファ・<シ>♯ファ<シ│
   >ソ>ミ<ソ・<♭シ>ソ<♭シ・・>ファ>レ<ファ・<ラ>ファ<ラ・・・・
   >ミ>ド<ミ・<ソ>ミ<ソ・・>ド>ラ<ド・<ミ>ド<ミ│
   (>レ>シ>ソ)、<ラ>ミ<ラ・・>ファ>レ<ファ・<シ>♯ファ<シ・・・・
   >ソ>ミ<ソ・<ラ>ミ<ラ・・>>ファ>レ<ファ・<シ>♯ファ<シ│
   >ソ>ミ<ソ・<♭シ>ソ<♭シ・・>ファ>レ<ファ・<ラ>ファ<ラ・・・・
   >ミ>ド<ミ・<ソ>ミ<ソ・・>ド>ラ<ド・<ミ>ド<ミ│
[Poco piu lento]
   (>レ>シ>ソ)、>ラ+♯ド>>ミ<<ラ+♯ド・・
   >>レ<<ファ+ラ>>レ・<<シ+♯レ>>♯ファ<<シ+♯レ・・・・
   >>ミ<<ソ+ド>>ミ・<<ラ+♯ド>>ミ<<ラ+♯ド・・
   >>レ<<ファ+ラ>>レ・<<シ+♯レ>>♯ファ<<シ+♯レ│
   >>ミ<<ソ+ド>>ミ・<<ド+ミ>>ソ<<ド+ミ・・
   >>ファ<<ラ+ド>>ファ・<<レ+♯ファ>>ラ<<レ+♯ファ・・・・
   >>ソ<<シ+レ>>ソ・<<ド+ミ>>ソ<<ド+ミ・・
   >>ファ<<ラ+ド>>ファ・<<レ+♯ファ>>ラ<<レ+♯ファ♪
()内の音はスラー、その他はスタッカート
+で示した重音は前の音が上であとの音が下

と、たった6小節書いただけで気が遠くなりそうである。
111小節だけ示すと、弾く弦は、
(E線)、→E線+A線→G線→E線+A線、
→G線→D線+A線→G線、→E線+A線→D線→E線+A線、
→G線→E線+A線→G線、E線+A線→G線→E線+A線、
→G線→D線+A線→G線、→E線+A線→D線→E線+A線

リーラ・ジョセフォウィッツ嬢17歳のときの録音が、
いまさらながらに舌を巻く。

最近、音大の弦楽器科を出た女性の演奏を個人的に聴く機会があった。
このチャイコフスキーのコンチェルトではないが、
とても聴けた代物ではなかった。ヴァイオリンでは
我が国最高峰の音大といわれてるようなとこを出ても
シロウトの巧い人よりも下手なレヴェルである。
ヴァイオリンという楽器はなかなかに難しい。
番組で流してた演奏のソリストも、このコンチェルトをきちんと弾けるだけの
スキルさえない。とはいえ、
21世紀に入ってチャイコフスキーのヴァイオリン・コンチェルトを録音し
リリースされた演奏(女性の)は、あいかわらず
いずれもが、たとえば31小節、
[ソーーー・ーー<ラ<ド>ラ・ソー、<ラー・<シー<ドー]を
[ソーーー・ーー<ラ<ド>ラ・ソー<ラー・<シー<ドー]のように
「ぎなた読み」なフレイズィングに終始してるのではあるが、
ユリア・フィッシャー女史、ヒラリー・ハーン女史、
吉田恭子女史、神尾真由子女史、
ニコラ・ベネデッティ女史、スザンナ・ヨーコ・ヘンケル女史、
などは、昔の男性ヴァイオリニストらの
「これはどうにもならない」「ひどすぎる」という
無神経で粗雑な弾きかたに比べ、
格段によくなった。ただし、
バイバ・スクリデ女史、ジャニーヌ・ヤンセン女史、
アンネ・ゾフィー・ムター女史(の新録音)、あたりは
その限りではない。ちなみに、
神尾女史など、チャイコフスキー・コンクールのときの演奏は
救いようがないと思われるほどひどかったが、
今般の録音ではだいぶ改善されてる。あいかわらず、
一本調子でメニューインふうではあるが。

さて、
この重音が続く111小節以下の箇所を、
千住明はこう言った。
<一所懸命弾いてる……(中略)……ここはむしろ
ハズして弾けないくらいでも、
そのぐらい大変なんだと見せればいいようなことを
考えて作られてるところだと思うんですよね>
千住真理子女史にただ似てるだけの男だと思ってたが、
チャイコフスキーを解ってるのである。
サガせば真っ当な感性の人間はいるものである。
このことだけに限ってではあるが、
我が国の音楽界も捨てたものではない。
ppppppの低音ファゴットをもし音がヌケてしまったらなどと、
見栄ばかりを気にして、「演奏不能」だとか、
バスクラリネットに替えることしか頭にないむきとは大違いである。
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