[Sex and the Single Girl
……Tony Curtis, Natalie Wood,
Henry Fonda, Lauren Bacall, Mel Ferrer]
トウニ・カーティスが主演した映画でよく記憶に残ってるもののひとつに、
"Sex and the Single Girl(求婚専科)(1964)"
がある。これも、私が10代の頃に
東京12チャンネルが流してた映画枠で観たものだったかもしれない。
相方はNatalie Wood (ナタリー・ウッド)(1938-1981)。日本では現在では、
"West Side Story (1961)"のMaria役でしか記憶されてない。
ロシア・ウクライナ移民の子(本名=ザハレンコ)で子役から女優になって、
"Rebel Without a Cause (理由なき反抗)(1955)"のJudy役、
"Splendor in the Grass (草原の輝き)(1961)のDeanie役、
"Gypsy (1962)"のGypsy Rose役、
"Love with the Proper Stranger (マンハッタン物語)(1963)"のAngie役、
"Inside Daisy Clover (サンセット物語)(1965)"のDaisy Clover役、
"The Great Race (グレートレース)(1965)"のMaggie役、
"This Property is Condemned (雨のニューオリンズ)(1966)"のAlva役、
など、おもに1960年代にいわゆるB級青春映画、悲恋モノに出演した。つまり、
業界からはあまり認められてなかった(子役あがり、という評価)。が、
物悲しい女性の味を表現できる貴重な女優だと私は思ってた。
ところで、
"Sex and the Single Girl(求婚専科)(1964)"は、
Candace Bushnell(キャンディス・ブッシュネル女史、1958年生まれ)による
"Sex and the City"のモトネタである。また、
Amanda Bynes (アマンダ・バインズ)とJennie Garth (ジェニー・ガース)
が主演のTVコメディドラマの
"What I Like About You (恋するマンハッタン)"の
第4スィーズン第13話でも(2005)、
"Sex and the Single Girls"と題されたエピソウドがある。
いずれにせよ、映画のタイトルのモトネタは、
Helen Gurley Brown (ヘレン・ガーリー・ブラウン)女史(1922年生まれ)が
1962年、40歳のときに出版した13章から成る同名の本である。同女史は
広告代理店で秘書(というと聞こえはいいが、
幹部ごとに付けられる雑用係)をしてたが、
文章力を買われてコピーライターに抜擢される。この経緯は、
TVドラマ"Mad Men"で「子役あがり」の女優エリザベス・モースが演じてる
Peggy Olson (ペギー・オルスン)のキャラクターに採られてる。ともあれ、
雑用係からついには世界的な女性誌"Cosmopolitan"の編集長に、
ヘレン・ガーリー・ブラウン女史はなるのである。
さて、
映画であるが、
ヘレン・ガーリー・ブラウン女史は映画の中では美しく若き心理学者、というか、
当時の言いかたで精神分析医となってる(ナタリー・ウッドが演じる)。
"Stop"という低俗雑誌の編集長ボブ・ウェストン(トニー・カーティス)は
彼女に目を付け、そのゴシップ・ネタをつかんで、
売り上げを伸ばそうと画策する。が、
取材を申し込んでも当然に許可されるわけもない。ときに、
ボブの隣人ブロドリック夫妻の配役は、
ローレン・バコール(実生活でハンフリー・ボガードの相方、1924年生まれ)に
ヘンリー・フォンダ(実生活でピーター&ジェイン兄妹の父親、1905-1982)。
豪華な脇役である。その夫婦は
夫の女癖(実際にフォンダもその件でも有名人)がモトで大喧嘩。
ボブは部屋を追い出されたフランク・ブロドリック(フォンダの役名)の
相談にのる。そこで思いついたのが、この夫婦問題を
ドクター・ブラウン女史に持ち込んで体験取材をしようということだった。
フランク(ボブが名乗った偽名、カーティス)は口八丁手八丁で若き専門家を欺いて
カウンセリングを継続してもらうことに成功する。ちなみに、
ヘレン(ウッド)の診察室のデスクうしろには、
一対のオベリスクのミニチュアが配されてて、その間の真ん中には、
弓を引くsamurai、(馬に乗ってない)那須与一の彫像が置かれてる。
「ヘレン(ウッド)のハートを射る」という寓意である。
フランク(フォンダ)夫妻のまたしてもの諍いにヒントを得たフランク(本当はボブ)は、
結婚生活が破綻した以上「自殺する」といって、
ヘレン(ウッド)を港に呼び出す。そこで、海に飛び込むふりをしてた
フランク(本当はボブ)を止めに入ったヘレン(ウッド)と揉み合ううちに、
二人ともドボンしてしまった。この間にも、浮浪者の男とのやりとりに
トウニ・カーティスの出演作のパロディが出てくる。浮浪者がよかれと思って
投げ入れた棒が頭にあたってフランク(本当はボブ)は溺れかける。
浮浪者とヘレン(ウッド)はフランク(本当はボブ)を助けあげる。が、
ナタリー・ウッドは17年後の1981年、実際に"水死"する。
ナタリーが共演者クリストファー・ウォーケンと浮気したことに腹を立てた
夫ロバート・ワグナーによる撲殺だったというウワサも流れた。ともあれ、
ヘレン(ウッド)はフランク(本当はボブ)をタクシーで自宅に連れてく。
服を乾かしてる間、フランク(本当はボブ)はヘレン(ウッド)の部屋着を
貸してもらってる。本来は酒が飲めないヘレン(ウッド)は、
フランク(本当はボブ)がシェイクしたマティーニを、
「一気に飲むと医学的にいい」などと言われてそのとおりにする。
ほろ酔い加減のヘレン(ウッド)はここで、
「居心地が悪いと申し訳ないわ、女モノのロウブなんか着てもらっちゃって」
と言う。すると、
「えっ? いやいや、なんのなんの、とんでもはっぷん歩いてじっぷん、
子猫ちゃん。まーったく問題ないのないのなんつって、
実際問題どんな問題、そうそう、そういえば総入れ歯、
ジャック・レモンがほら、あの、なんつったっけ、映画の中で
きれいにドレスアップしてたっけかな、って、あんな気分でしょ、まさに、
問答無用モンロウ無用のイイ感じってね、お分かり?」
と、広川太一郎なら吹き替えてたかもしれないやりとりがある。
"Some Like It Hot (お熱いのがお好き)(1959)"
(ジャック・レモン、マリリン・モンロウ共演)のことをいってるのである。
当時の米国の映画館ではここで大爆笑だったことだろう。
やがて、
酔いがまわったヘレン(ウッド)もフランク(本当はボブ)に、
「笑顔がジャック・レモンに似てるわ」
と言ったりして、二人はイイ感じになるのであるが、
ドクターとしての理性が働いてヘレン(ウッド)は結局
フランク(本当はボブ)を拒絶してしまう。フランク(本当はボブ)を
部屋から追い出してすぐ、ヘレン(ウッド)は母親に電話をかける。
「私、ダメだわ。奥さんがいる人を好きになっちゃったの」
ここらへんの芝居はベタなネタではあるものの、
ナタリー・ウッドの"男好きのする女"の本領が発揮されてる、
じつにいじらしいスィーンである。いっぽう、
部屋を追い出されたフランク(本当はボブ)は、
女性の部屋着姿のままなのでエレヴェイターに乗れず、
階段で階下に降りてくのである。が、管理人が
マンションのエントランスのエレヴェイターの昇降灯の埃を落としてる。しかたなく、
「すみませんが、タクシーを呼んでくれませんか」
フランク(本当はボブ)は言う。すると、管理人は驚きもせず、
「かしこまりました、レモンさん」
と答えるのである。ここでまた爆笑、なのだろう。
ヘレン(ウッド)は母親の助言でフランク(フォンダのほう)の妻を訪れる。
応対したフランクの妻スィルヴィア(バコール)は、夫が
自分との結婚生活についてカウンセリングに通ってたことを知って
内心うれしく思う。ちなみに、夫フランク(フォンダ)は、
婦人用ストッキング会社の重役であり、そのセリフの中には、
「日本製の合成繊維を使ってるんだ」
というものがある。この映画が制作されたのは
「1964年」。「東京オリンピック」の年である。
那須与一の彫像もさることながら、
米国ではナイロン66が主流だったが、ちょうどこの頃、
東レのナイロン6(アミラン)をもとに、帝人、鐘紡、呉羽防、旭化成などが
一斉にナイロン6を生産しだした時期である。ちなみに、
この映画にはもうひとり、大物の脇役が出てる。
Mel Ferre (メル・ファラー、1917-2008、
実生活でオードリー・ヘプバーンの相方の時期あり)である。
研究所のヘレン(ウッド)の同僚(日本的には先輩というべきか)で、
ヘレン(ウッド)に気がある男の役である。その
ファーラーが一人ダンスを踊るスィーンがある。
足の裏が床に吸盤があるようなタコみたいな格好で踊る。
踊りヘッポコ板、である。冗談はともかくも、
チャチャチャである。キューバの音楽である。
原作が書かれた1962年は「キューバ危機」があったのである。
他方、
フランク(本当はボブ)がそれまで付き合ってた女性、
グレッチェン(Fran Jeffries=フラン・ジェフリーズ(1937年生まれ)が演じてる)は
歌手の卵である。
スィルヴィア(バコール)とフランク(フォンダ)の結婚10周年のお祝いは、
Count Baisie & his Orchestra (カウント・ベイスィ楽団)の
生演奏のダンスホールである。そこで、
グレッチェン(ジェフリーズが演じてる)は歌ってる。実際、
フラン・ジェフリーズは歌手でもあって、この映画の監督、
Richard Quine (リチャード・クワイン)(1920-1989)の
後妻となる。その数年前、同監督はもっと有名な
Kim Novak (キム・ノウヴァク)(1933年生まれ)と婚約してたが、
結婚には至らなかった。ともあれ、同監督は
晩年は不遇で、病気を苦にして68歳で銃自殺を遂げた。
さて、
ヘレン(ウッド)が診療室でミセス・ブロドリックとミスター・ブロドリックと
三者面談をしましょうと持ちかけたことから、
本当のミセス・ブロドリック(バコール)と、フランク(本当はボブ)が
身代わりを頼んだグレッチェンに断られたことでまた
別に依頼した秘書スーザンと、でもやはり腐れ縁のボブのために
一肌脱ごうと考え直したグレッチェンが、
ヘレン(ウッド)が診療室に来てしまう、
というドタバタ・コメディにありがちな状況になる。が、じつは
このシチュエイションは"偶然にも"この映画の翌年に制作された、
原作が舞台劇の"Boeing Boeing"でも、
「3人の女性のニアミス」が"見せ場"となって、モテるからといって
女性をやたらとボウイング暴食してはこんな目に遭うよ、
という教訓になってるのである(※)。それはともかくも、
この映画のクライマックスは、"ドタバタ・アクション映画"の常として(※)、
"カー・チェイス"である。ラストは、
ブロドリック夫妻(バコール&フォンダ)はフィジー諸島へ2回めの新婚旅行、
ルードルフ(ファラー)はグレッチェン(ジェフリーズ)を誘ってハワイへ、
ヘレン(ウッド)はボブ(カーティス)を受け入れハッピー・エンディング。ただ、
白バイ警官だけは虚言癖と認定されて病院送りに。が、
ハワイ行きの航空券はルードルフ(ファラー)が持ってってしまったので、
ヘレン(ウッド)とボブ(カーティス)はどいうやって搭乗口を通過できたのか、
きちんとした説明がなされてない。
責任者、出て来ーーい!
♪はーーれたっそらーーー、そーーよぐっかーぜーーー♪
憧れのハワイ人生幸朗である。
トニー・カーティスの思い出のために回想してみたのだが、
この映画がナタリー・ウッドのもっとも輝いた出演作だったのではないかと、
私は感じる。じつに魅力的だった。私が
ショートヘアの女性好みになったのは、この映画のウッドの
肩までの長さの"ボブ"も深く関係してたかもしれない。
♪ナターリーっ、イン・ラ・ディスタンツィアっ♪
私が映画プロデューサーだったら、ぜひとも日本映画にも出てもらって、
横溝正史原作の「八つ墓村」で、
濃茶の尼妙連役をやってもらいたかった。
「八つ墓のナタリーーじゃーーーーーーっ!」
と。夫に「そんなに騒ぐなー!」とぶたれちゃったらかわいそうだが。
……Tony Curtis, Natalie Wood,
Henry Fonda, Lauren Bacall, Mel Ferrer]
トウニ・カーティスが主演した映画でよく記憶に残ってるもののひとつに、
"Sex and the Single Girl(求婚専科)(1964)"
がある。これも、私が10代の頃に
東京12チャンネルが流してた映画枠で観たものだったかもしれない。
相方はNatalie Wood (ナタリー・ウッド)(1938-1981)。日本では現在では、
"West Side Story (1961)"のMaria役でしか記憶されてない。
ロシア・ウクライナ移民の子(本名=ザハレンコ)で子役から女優になって、
"Rebel Without a Cause (理由なき反抗)(1955)"のJudy役、
"Splendor in the Grass (草原の輝き)(1961)のDeanie役、
"Gypsy (1962)"のGypsy Rose役、
"Love with the Proper Stranger (マンハッタン物語)(1963)"のAngie役、
"Inside Daisy Clover (サンセット物語)(1965)"のDaisy Clover役、
"The Great Race (グレートレース)(1965)"のMaggie役、
"This Property is Condemned (雨のニューオリンズ)(1966)"のAlva役、
など、おもに1960年代にいわゆるB級青春映画、悲恋モノに出演した。つまり、
業界からはあまり認められてなかった(子役あがり、という評価)。が、
物悲しい女性の味を表現できる貴重な女優だと私は思ってた。
ところで、
"Sex and the Single Girl(求婚専科)(1964)"は、
Candace Bushnell(キャンディス・ブッシュネル女史、1958年生まれ)による
"Sex and the City"のモトネタである。また、
Amanda Bynes (アマンダ・バインズ)とJennie Garth (ジェニー・ガース)
が主演のTVコメディドラマの
"What I Like About You (恋するマンハッタン)"の
第4スィーズン第13話でも(2005)、
"Sex and the Single Girls"と題されたエピソウドがある。
いずれにせよ、映画のタイトルのモトネタは、
Helen Gurley Brown (ヘレン・ガーリー・ブラウン)女史(1922年生まれ)が
1962年、40歳のときに出版した13章から成る同名の本である。同女史は
広告代理店で秘書(というと聞こえはいいが、
幹部ごとに付けられる雑用係)をしてたが、
文章力を買われてコピーライターに抜擢される。この経緯は、
TVドラマ"Mad Men"で「子役あがり」の女優エリザベス・モースが演じてる
Peggy Olson (ペギー・オルスン)のキャラクターに採られてる。ともあれ、
雑用係からついには世界的な女性誌"Cosmopolitan"の編集長に、
ヘレン・ガーリー・ブラウン女史はなるのである。
さて、
映画であるが、
ヘレン・ガーリー・ブラウン女史は映画の中では美しく若き心理学者、というか、
当時の言いかたで精神分析医となってる(ナタリー・ウッドが演じる)。
"Stop"という低俗雑誌の編集長ボブ・ウェストン(トニー・カーティス)は
彼女に目を付け、そのゴシップ・ネタをつかんで、
売り上げを伸ばそうと画策する。が、
取材を申し込んでも当然に許可されるわけもない。ときに、
ボブの隣人ブロドリック夫妻の配役は、
ローレン・バコール(実生活でハンフリー・ボガードの相方、1924年生まれ)に
ヘンリー・フォンダ(実生活でピーター&ジェイン兄妹の父親、1905-1982)。
豪華な脇役である。その夫婦は
夫の女癖(実際にフォンダもその件でも有名人)がモトで大喧嘩。
ボブは部屋を追い出されたフランク・ブロドリック(フォンダの役名)の
相談にのる。そこで思いついたのが、この夫婦問題を
ドクター・ブラウン女史に持ち込んで体験取材をしようということだった。
フランク(ボブが名乗った偽名、カーティス)は口八丁手八丁で若き専門家を欺いて
カウンセリングを継続してもらうことに成功する。ちなみに、
ヘレン(ウッド)の診察室のデスクうしろには、
一対のオベリスクのミニチュアが配されてて、その間の真ん中には、
弓を引くsamurai、(馬に乗ってない)那須与一の彫像が置かれてる。
「ヘレン(ウッド)のハートを射る」という寓意である。
フランク(フォンダ)夫妻のまたしてもの諍いにヒントを得たフランク(本当はボブ)は、
結婚生活が破綻した以上「自殺する」といって、
ヘレン(ウッド)を港に呼び出す。そこで、海に飛び込むふりをしてた
フランク(本当はボブ)を止めに入ったヘレン(ウッド)と揉み合ううちに、
二人ともドボンしてしまった。この間にも、浮浪者の男とのやりとりに
トウニ・カーティスの出演作のパロディが出てくる。浮浪者がよかれと思って
投げ入れた棒が頭にあたってフランク(本当はボブ)は溺れかける。
浮浪者とヘレン(ウッド)はフランク(本当はボブ)を助けあげる。が、
ナタリー・ウッドは17年後の1981年、実際に"水死"する。
ナタリーが共演者クリストファー・ウォーケンと浮気したことに腹を立てた
夫ロバート・ワグナーによる撲殺だったというウワサも流れた。ともあれ、
ヘレン(ウッド)はフランク(本当はボブ)をタクシーで自宅に連れてく。
服を乾かしてる間、フランク(本当はボブ)はヘレン(ウッド)の部屋着を
貸してもらってる。本来は酒が飲めないヘレン(ウッド)は、
フランク(本当はボブ)がシェイクしたマティーニを、
「一気に飲むと医学的にいい」などと言われてそのとおりにする。
ほろ酔い加減のヘレン(ウッド)はここで、
「居心地が悪いと申し訳ないわ、女モノのロウブなんか着てもらっちゃって」
と言う。すると、
「えっ? いやいや、なんのなんの、とんでもはっぷん歩いてじっぷん、
子猫ちゃん。まーったく問題ないのないのなんつって、
実際問題どんな問題、そうそう、そういえば総入れ歯、
ジャック・レモンがほら、あの、なんつったっけ、映画の中で
きれいにドレスアップしてたっけかな、って、あんな気分でしょ、まさに、
問答無用モンロウ無用のイイ感じってね、お分かり?」
と、広川太一郎なら吹き替えてたかもしれないやりとりがある。
"Some Like It Hot (お熱いのがお好き)(1959)"
(ジャック・レモン、マリリン・モンロウ共演)のことをいってるのである。
当時の米国の映画館ではここで大爆笑だったことだろう。
やがて、
酔いがまわったヘレン(ウッド)もフランク(本当はボブ)に、
「笑顔がジャック・レモンに似てるわ」
と言ったりして、二人はイイ感じになるのであるが、
ドクターとしての理性が働いてヘレン(ウッド)は結局
フランク(本当はボブ)を拒絶してしまう。フランク(本当はボブ)を
部屋から追い出してすぐ、ヘレン(ウッド)は母親に電話をかける。
「私、ダメだわ。奥さんがいる人を好きになっちゃったの」
ここらへんの芝居はベタなネタではあるものの、
ナタリー・ウッドの"男好きのする女"の本領が発揮されてる、
じつにいじらしいスィーンである。いっぽう、
部屋を追い出されたフランク(本当はボブ)は、
女性の部屋着姿のままなのでエレヴェイターに乗れず、
階段で階下に降りてくのである。が、管理人が
マンションのエントランスのエレヴェイターの昇降灯の埃を落としてる。しかたなく、
「すみませんが、タクシーを呼んでくれませんか」
フランク(本当はボブ)は言う。すると、管理人は驚きもせず、
「かしこまりました、レモンさん」
と答えるのである。ここでまた爆笑、なのだろう。
ヘレン(ウッド)は母親の助言でフランク(フォンダのほう)の妻を訪れる。
応対したフランクの妻スィルヴィア(バコール)は、夫が
自分との結婚生活についてカウンセリングに通ってたことを知って
内心うれしく思う。ちなみに、夫フランク(フォンダ)は、
婦人用ストッキング会社の重役であり、そのセリフの中には、
「日本製の合成繊維を使ってるんだ」
というものがある。この映画が制作されたのは
「1964年」。「東京オリンピック」の年である。
那須与一の彫像もさることながら、
米国ではナイロン66が主流だったが、ちょうどこの頃、
東レのナイロン6(アミラン)をもとに、帝人、鐘紡、呉羽防、旭化成などが
一斉にナイロン6を生産しだした時期である。ちなみに、
この映画にはもうひとり、大物の脇役が出てる。
Mel Ferre (メル・ファラー、1917-2008、
実生活でオードリー・ヘプバーンの相方の時期あり)である。
研究所のヘレン(ウッド)の同僚(日本的には先輩というべきか)で、
ヘレン(ウッド)に気がある男の役である。その
ファーラーが一人ダンスを踊るスィーンがある。
足の裏が床に吸盤があるようなタコみたいな格好で踊る。
踊りヘッポコ板、である。冗談はともかくも、
チャチャチャである。キューバの音楽である。
原作が書かれた1962年は「キューバ危機」があったのである。
他方、
フランク(本当はボブ)がそれまで付き合ってた女性、
グレッチェン(Fran Jeffries=フラン・ジェフリーズ(1937年生まれ)が演じてる)は
歌手の卵である。
スィルヴィア(バコール)とフランク(フォンダ)の結婚10周年のお祝いは、
Count Baisie & his Orchestra (カウント・ベイスィ楽団)の
生演奏のダンスホールである。そこで、
グレッチェン(ジェフリーズが演じてる)は歌ってる。実際、
フラン・ジェフリーズは歌手でもあって、この映画の監督、
Richard Quine (リチャード・クワイン)(1920-1989)の
後妻となる。その数年前、同監督はもっと有名な
Kim Novak (キム・ノウヴァク)(1933年生まれ)と婚約してたが、
結婚には至らなかった。ともあれ、同監督は
晩年は不遇で、病気を苦にして68歳で銃自殺を遂げた。
さて、
ヘレン(ウッド)が診療室でミセス・ブロドリックとミスター・ブロドリックと
三者面談をしましょうと持ちかけたことから、
本当のミセス・ブロドリック(バコール)と、フランク(本当はボブ)が
身代わりを頼んだグレッチェンに断られたことでまた
別に依頼した秘書スーザンと、でもやはり腐れ縁のボブのために
一肌脱ごうと考え直したグレッチェンが、
ヘレン(ウッド)が診療室に来てしまう、
というドタバタ・コメディにありがちな状況になる。が、じつは
このシチュエイションは"偶然にも"この映画の翌年に制作された、
原作が舞台劇の"Boeing Boeing"でも、
「3人の女性のニアミス」が"見せ場"となって、モテるからといって
女性をやたらとボウイング暴食してはこんな目に遭うよ、
という教訓になってるのである(※)。それはともかくも、
この映画のクライマックスは、"ドタバタ・アクション映画"の常として(※)、
"カー・チェイス"である。ラストは、
ブロドリック夫妻(バコール&フォンダ)はフィジー諸島へ2回めの新婚旅行、
ルードルフ(ファラー)はグレッチェン(ジェフリーズ)を誘ってハワイへ、
ヘレン(ウッド)はボブ(カーティス)を受け入れハッピー・エンディング。ただ、
白バイ警官だけは虚言癖と認定されて病院送りに。が、
ハワイ行きの航空券はルードルフ(ファラー)が持ってってしまったので、
ヘレン(ウッド)とボブ(カーティス)はどいうやって搭乗口を通過できたのか、
きちんとした説明がなされてない。
責任者、出て来ーーい!
♪はーーれたっそらーーー、そーーよぐっかーぜーーー♪
憧れのハワイ人生幸朗である。
トニー・カーティスの思い出のために回想してみたのだが、
この映画がナタリー・ウッドのもっとも輝いた出演作だったのではないかと、
私は感じる。じつに魅力的だった。私が
ショートヘアの女性好みになったのは、この映画のウッドの
肩までの長さの"ボブ"も深く関係してたかもしれない。
♪ナターリーっ、イン・ラ・ディスタンツィアっ♪
私が映画プロデューサーだったら、ぜひとも日本映画にも出てもらって、
横溝正史原作の「八つ墓村」で、
濃茶の尼妙連役をやってもらいたかった。
「八つ墓のナタリーーじゃーーーーーーっ!」
と。夫に「そんなに騒ぐなー!」とぶたれちゃったらかわいそうだが。
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