チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「伊藤若冲の裏彩色/斗米庵と渡米案、米斗翁とベートーヴェン」

2011年04月27日 00時41分09秒 | 絵画・カウンタ(寓意がある希ガスる
私がガキだった頃、誕生日の祝いに、何度か
帝国ホテルのレ・セゾンに家族で行った。それから、
家族で行く京都では、都ホテルに泊まることが多かった。いっぽう、
京都の錦市場や新京極のあたりは、
修学旅行専門の旅館が私がガキの頃には多かった。
中学校の修学旅行のときの夜の自由時間に
新京極を走り回って遊んだ。そんな
錦小路の青物問屋の大店の家に生まれたのが、
のちの伊藤若冲(およそ西暦1716-1800)である。
「伊藤若冲ミラクルワールド」の放送がNHKBSプレミアムで
25日から4夜連続で始まった。
絵心があり、若冲の大ファンだという嵐の大野智が司会である。

若沖は明治以降「忘れられた絵師」だった。そして、戦後、
その真価は日本でなく、NYで「発掘」され、その価値があがって
"上・Price"が附けられるようになった。その
Joe Price(ジョウ・プライス)は、オクラホマの
石油パイプライン会社経営者のボンボンだった。NYで、
かつて自社ビル(いわゆるプライス・タワー)の設計を依頼した
フランク・ロイド・ライトに付き合って古美術屋に行き、そこで見た
「葡萄図」にジョウ・プライスは衝撃を受けた。それが、
プライスが若冲に憑かれるきっかけだった。
プライスは来日して、当時は二束三文だった若冲を
買い漁ってった。かくして、若冲は
渡米したのである。85歳の生涯の晩年、若沖は京都を襲った
大火で家を失う。そして、
大阪に転居した若冲は、生まれて初めて、
銭のために絵を描いた。絵1枚の
対価として米を1斗。かくして、
斗米庵(トベイアン)、米斗翁(ベイトオウ)と号した。

さて、
「伊藤若冲ミラクルワールド」の第1回では、若沖の
「裏彩色(ウラザイシキ)」にスポット・ライトをあててた。
絵絹の裏側にも絵の具を塗って色彩に変化をつける技法である。
当然に若冲固有のものではない。が、
その用いかたが絶妙なのである。ところで、
ベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調、
いわゆる「運命」の、あの有名な冒頭の、
♪●ミ・ミミ│>ドー・ーー(フェルマータ)│
 ●<レ・レレ│>シー・ーー│ーー・ーー(フェルマータ)♪
は、弦楽5部によるユニゾン……
両翼vnの完全ユニゾンに、そのオクターヴ下のヴィオーラ、
そのまたオクターヴ下のチェロとコントラバス、という
「3段構え」……である。

が、
両翼vnの音高に、ベートーヴェンは
B管のクラリネット2管の「裏彩色(ウラザイシキ)」を
塗り重ねてるのである。これは、
オケの楽器が大音量なサウンドおよび編成になってる現在では
想像するのが難儀であるが、当時の擦弦楽器は、
驚くほど音が響かない。弓で擦ってても、
音は減衰してしまうのである。が、
そこに、ベートーヴェンは「フェルマータ」をかけた。ということは、
そこに何らかの……というか、大きな……意味がある。が、
世の中のたいていの人々は、
チャイコフスキーの「悲愴交響曲」のppppppをバス・クラリネットに
取って代わらせて平気な神経の演奏者同様、
ベートーヴェンが低知能で、気まぐれでそうしたとでもいうように、
その「フェルマータ」の意味を考えようともしない。が、
少しでも考える脳がある生物だったら、
そこにクラリネットが裏打ちされてる理由が解るはずである。付け加えれば、
当時のクラリネットは
「音程が悪かった(強奏では下がる)」
ということである。
"プロ"の演奏家の中には、これらのことを勘案して、
ベートーヴェンの意図を再現してみせる真っ当なのは
一人もいないのだろうか。
大盈若冲……頭は使ってこそ価値がある。
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