冷たい雨が降る 晩秋の夜の入り口の頃
仕事を終えた私は 早く家に帰って あたたかい食事を作ろうと
高架下の道を足早に歩いていた
すると 道幅が広くなっているところで
白いパーカーの人が 自転車を止めてしゃがみこみ
小雨にぬれながら 何かしている
チェーンでも外れたのだろうか
パーカーをかぶっているので 男の子か女の子か分からないが
その背中の大きさからは 中学生くらいの子どもに見える
かわいそうに
声をかけて 傘をさしかけてあげようかな
一瞬そう思ったが
余計なお世話かもしれないといい訳を作って
疲れていた私は 足早にその場を離れてしまった
しばらく歩いて
奇妙な事に気がついた
いつもの道なのに
先ほどのパーカーの人のいた場所に
また近づいている
白いパーカーの人は 同じように背中を向けて
自転車の前にしゃがみ込んでいる
今週は残業続きだった
きっと私は電車の中で眠ってしまって
夢でも見ているのだ
早く目を覚まして 電車から降りないと!
そう思いながら 歩き続けた
通り過ぎても通り過ぎても また白いパーカーの背中が
薄暗い街燈に ぼんやりと浮かんで見えてくる
何度目だったろう
私は思い切って その背中に声をかけた
「だいじょうぶですか?」
その声は 寒さと恐怖で震えていた
「ダイジョウブジャ ナイヨ」
白いパーカーの人がゆっくりと振り向いた
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今日は冷たい雨が降っています
あたたかくしてお出かけください つる姫