7月15日(土)新作歌曲の会 第18回演奏会
東京文化会館小ホール
【曲目】
1.大畑 眞/『バリトンとピアノのために・・・』(詩:萩原朔太郎)
瀧/間奏曲/蛇苺
Bar:石崎秀和/Pf:畑 めぐみ
2.高島 豊/『黒人礼賛~ニキ・ド・サンファルの詩(うた)~』
恋人へのラブレター/心の肖像/Black is Different(黒人礼賛)
S:佐藤貴子/Pf:小田直弥
3.高嶋みどり/『波 ~女声とピアノのための』(詩:宗 左近)
波Ⅰ/見ている/揺れる鏡/波の墓/波Ⅱ
S:橘 今日子/Pf:藤原亜美
4.和泉耕二/『重吉のうた 2』
虫/うつくしいもの/母をおもう(詩:八木重吉)
S:森 朱美/Pf:和泉真弓
♪ ♪ ♪
5.土居克行/『初期詩集』より(詩:R・M・リルケ)Das sind die Stunden (こんな時間に)~メゾソプラノとピアノのための~
『初冬』~メゾソプラノとピアノのための~(詩:立原道造)
MS:紙谷弘子/Pf:藤原亜美
6.鈴木静哉/『愛する』(詩:立原道造)
~愛する -リルケの主題ニヨヴァリエエション― より
T:横山和彦/Pf:小田直弥
7. 野澤啓子/『おおきな木』より「海辺」「星屑」(詩:長田 弘)
MS:鎌田直純/Pf:野澤啓子
8.篠原 真/噂話は翼を広げ風に乗り』 ~女声2人のための組曲~(詩:大倉マヤ)
S:増田のり子/MS:紙谷弘子/Pf:篠原 真
拙作を含め全部で8つの新しい歌が、今年も「新作歌曲の会」演奏会で初披露された。いつもながら大勢のお客さんに恵まれ、充実した演奏会になった。拙作の感想は後回しにして、先に7つの「新作歌曲」について感想を述べる。
トップバッターは、この会初参加の大畑眞さんが萩原朔太郎の詩に書いた歌。奇を衒うことのない素直なアプローチで朔太郎の詩情を表現していた。石崎さんの清冽で真っすぐな歌唱が、「瀧」の生命力を感じさせる一方で、印象的なハーモニーを伴う「蛇苺」では、秘められた魔性を伝えていた。
高嶋みどりさんの作品は、波と精霊の対話のような世界。藤原さんのピアノは、変幻自在な波の様子を、透徹としたタッチでリアルに生き生きと描き、まるで波の精が宿っているよう。橘さんの歌は、濃密で深い表現力を持って、波の持つ神性さを俯瞰するように伝えていた。ピアノと歌が互いに対話する書法が、言葉の細かい表情まで耳に届けてくれた。
和泉耕二さんは昨年の「重吉のうた」の続編として、新たに3篇を発表した。音は益々シンプルになり、魂の根源へと近づいていると言ったら良いのだろうか、音楽の全ての要素が一つ一つ心に静かに響いて来る。真弓さんの弾くピアノの前奏の語りかけを聴いた時から、心の奥底に大切に仕舞われた「思い」が優しく解きほぐされるようで、涙腺を刺激してきた。森さんの歌は言葉の一つ一つに血が通い、温かなもので満たされた。3曲全てが命への愛おしさを伝えてくれ、心に養分をたくさん送ってくれ、離れがたい気持ちになり、長い余韻が名残惜しく感じた。
後半は土居克行さんのリルケと道造の詩をテキストとした作品から開始。音楽は無調で貫かれているが無機質になることなく、詩の奥に刻まれた意味を伝えてくるのが感じられた。紙谷さんは言葉を大切に温め、凝縮したメッセージとして届ける姿勢が感じられたが、一度聴いただけでは未消化部分もあり、哲学的なテキストをキチンと読み込んだうえで改めてじっくり聴きたい作品だ。
昨年の続編として書かれた続く鈴木先生の作品も、リルケにまつわる道造の詩がテキスト。美しく柔らかなハーモニーに支えられた音楽が、詩が描く風景と心の情景を自然に伝えていた。横山さんの歌唱は、言葉に情感を与え、更に日本語の美しさに気づかせてくれ、朗読を聴いているような味わいがある。それに寄り添う小田さんのピアノは、これまでよりぐっと音数が減ったこのパートを雄弁に生き生きと聴かせていた。
野澤啓子さんは、近年集中して取り組んでいる長田弘の「おおきな木」シリーズ。野澤さんの音楽も今回は一際浄化へと進んで行き、聴いた印象では音が減ってシンプルに語りかけてきた。そんな音楽を表現するのに、鎌田さんの優しく清らかな歌唱は実に適役。長田弘の詩の持つ佇まいをそのままの形で歌として表現することに成功していた。
演奏会の取りは篠原真さんのデュオ。おなじみの大倉マヤさんの書き下ろした、コミカルな中に人生の悲哀をホロリと滲ませる詩を、篠原さんは持ち前のユーモアと人間味溢れるセンスで料理して、期待通りの面白く楽しい会話を作り上げた。ミュージカル風にノリが良い増田さんと紙谷さんの歌と、篠原さんの、即興風で一見適当に見えながら、不思議に惹きつけられるピアノのやり取りが軽妙洒脱に進み、思わずニヤリとしながら聴き入った。
♪ ♪ ♪
拙作「黒人礼賛」は、フランスのアーティスト、ニキ・ド・サンファルが制作した美術作品に書かれた言葉をテキストに作曲した3曲からなる歌曲集。表題の「黒人礼賛」は、”Black is Different”と名付けられた黒人女性をモチーフにした絵から命名。ニキは、アメリカで起きた黒人の権利を求める公民権運動に共鳴して、数々の黒人像を制作した。そのベースにはニキの黒人の肉体や黒人に多い気質への純粋な共感があり、この思いを人類愛と解釈して3曲目に据え、プライベートな愛の衝動を詠った「恋人へのラブレター」と、自虐的な気持ちから一転無の境地へ至る「心の肖像」をその前に置いた。
それぞれが異なる曲調、世界観を有し、1つの曲の中にも変化が多い今回の曲は、演奏者にとってもとっつき易い音楽ではなかったと思うが、佐藤さんと小田さんは、時間をかけてこの「難曲」(ごめんなさい。。)に真剣に取り組み自分のものにしてくださり、本番ではその成果が十二分に披露された。
「恋人へのラブレター」では現実と夢の間をさまようファンタジーや、妖艶でなまめかしい感触を、淡く豊かな色調とディナミークのグラデーションと、生命体の呼吸を感じるようなアゴーギクで表現し、「心の肖像」では破壊的な自虐性と焦燥感を、ストレートにつかみ取って体当たりで挑み、「黒人礼賛」では、郷愁や憧れを秘めたモノローグから、高らかな讃歌まで、歌詞と音楽にぴったりと寄り添って、時にアドリブも交えながら、人類愛を歌い上げてくださった。
言葉をしっかりと捉え、呼吸一つにまで配慮を行き届かせ、持ち前の美声で表情豊かに、時に迫真に迫る歌を聴かせてくれた佐藤さんの歌と、ニキのささやきやストレートな気持ちを、繊細さと力強さを兼ね備えたタッチで追求し、見事な色彩感や呼吸のタイミングで歌を盛り立て、時に先導して行った小田さんのピアノによるデュオは、ワクワク、ドキドキしながらも、自分の曲という意識も遠のいて、安心して演奏に身を委ね、楽しく聴き入ってしまった。作曲というのは、優れた演奏者との共同作業があって初めて報われるものだということを改めて感じ、ひたすら感謝するばかりだ。
♪ ♪ ♪
今回の演奏会も、たくさんの友人や先生方にいらして頂けました。いらしてくださった皆さま、応援してくださった方々にも心から御礼申し上げます。
新作歌曲の会 第17回演奏会 2016.7.30 東京文化会館小ホール
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~(MS:小泉詠子/Pf:田中梢)
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東京文化会館小ホール
【曲目】
1.大畑 眞/『バリトンとピアノのために・・・』(詩:萩原朔太郎)
瀧/間奏曲/蛇苺
Bar:石崎秀和/Pf:畑 めぐみ
2.高島 豊/『黒人礼賛~ニキ・ド・サンファルの詩(うた)~』
恋人へのラブレター/心の肖像/Black is Different(黒人礼賛)
S:佐藤貴子/Pf:小田直弥
3.高嶋みどり/『波 ~女声とピアノのための』(詩:宗 左近)
波Ⅰ/見ている/揺れる鏡/波の墓/波Ⅱ
S:橘 今日子/Pf:藤原亜美
4.和泉耕二/『重吉のうた 2』
虫/うつくしいもの/母をおもう(詩:八木重吉)
S:森 朱美/Pf:和泉真弓
5.土居克行/『初期詩集』より(詩:R・M・リルケ)Das sind die Stunden (こんな時間に)~メゾソプラノとピアノのための~
『初冬』~メゾソプラノとピアノのための~(詩:立原道造)
MS:紙谷弘子/Pf:藤原亜美
6.鈴木静哉/『愛する』(詩:立原道造)
~愛する -リルケの主題ニヨヴァリエエション― より
T:横山和彦/Pf:小田直弥
7. 野澤啓子/『おおきな木』より「海辺」「星屑」(詩:長田 弘)
MS:鎌田直純/Pf:野澤啓子
8.篠原 真/噂話は翼を広げ風に乗り』 ~女声2人のための組曲~(詩:大倉マヤ)
S:増田のり子/MS:紙谷弘子/Pf:篠原 真
拙作を含め全部で8つの新しい歌が、今年も「新作歌曲の会」演奏会で初披露された。いつもながら大勢のお客さんに恵まれ、充実した演奏会になった。拙作の感想は後回しにして、先に7つの「新作歌曲」について感想を述べる。
トップバッターは、この会初参加の大畑眞さんが萩原朔太郎の詩に書いた歌。奇を衒うことのない素直なアプローチで朔太郎の詩情を表現していた。石崎さんの清冽で真っすぐな歌唱が、「瀧」の生命力を感じさせる一方で、印象的なハーモニーを伴う「蛇苺」では、秘められた魔性を伝えていた。
高嶋みどりさんの作品は、波と精霊の対話のような世界。藤原さんのピアノは、変幻自在な波の様子を、透徹としたタッチでリアルに生き生きと描き、まるで波の精が宿っているよう。橘さんの歌は、濃密で深い表現力を持って、波の持つ神性さを俯瞰するように伝えていた。ピアノと歌が互いに対話する書法が、言葉の細かい表情まで耳に届けてくれた。
和泉耕二さんは昨年の「重吉のうた」の続編として、新たに3篇を発表した。音は益々シンプルになり、魂の根源へと近づいていると言ったら良いのだろうか、音楽の全ての要素が一つ一つ心に静かに響いて来る。真弓さんの弾くピアノの前奏の語りかけを聴いた時から、心の奥底に大切に仕舞われた「思い」が優しく解きほぐされるようで、涙腺を刺激してきた。森さんの歌は言葉の一つ一つに血が通い、温かなもので満たされた。3曲全てが命への愛おしさを伝えてくれ、心に養分をたくさん送ってくれ、離れがたい気持ちになり、長い余韻が名残惜しく感じた。
後半は土居克行さんのリルケと道造の詩をテキストとした作品から開始。音楽は無調で貫かれているが無機質になることなく、詩の奥に刻まれた意味を伝えてくるのが感じられた。紙谷さんは言葉を大切に温め、凝縮したメッセージとして届ける姿勢が感じられたが、一度聴いただけでは未消化部分もあり、哲学的なテキストをキチンと読み込んだうえで改めてじっくり聴きたい作品だ。
昨年の続編として書かれた続く鈴木先生の作品も、リルケにまつわる道造の詩がテキスト。美しく柔らかなハーモニーに支えられた音楽が、詩が描く風景と心の情景を自然に伝えていた。横山さんの歌唱は、言葉に情感を与え、更に日本語の美しさに気づかせてくれ、朗読を聴いているような味わいがある。それに寄り添う小田さんのピアノは、これまでよりぐっと音数が減ったこのパートを雄弁に生き生きと聴かせていた。
野澤啓子さんは、近年集中して取り組んでいる長田弘の「おおきな木」シリーズ。野澤さんの音楽も今回は一際浄化へと進んで行き、聴いた印象では音が減ってシンプルに語りかけてきた。そんな音楽を表現するのに、鎌田さんの優しく清らかな歌唱は実に適役。長田弘の詩の持つ佇まいをそのままの形で歌として表現することに成功していた。
演奏会の取りは篠原真さんのデュオ。おなじみの大倉マヤさんの書き下ろした、コミカルな中に人生の悲哀をホロリと滲ませる詩を、篠原さんは持ち前のユーモアと人間味溢れるセンスで料理して、期待通りの面白く楽しい会話を作り上げた。ミュージカル風にノリが良い増田さんと紙谷さんの歌と、篠原さんの、即興風で一見適当に見えながら、不思議に惹きつけられるピアノのやり取りが軽妙洒脱に進み、思わずニヤリとしながら聴き入った。
拙作「黒人礼賛」は、フランスのアーティスト、ニキ・ド・サンファルが制作した美術作品に書かれた言葉をテキストに作曲した3曲からなる歌曲集。表題の「黒人礼賛」は、”Black is Different”と名付けられた黒人女性をモチーフにした絵から命名。ニキは、アメリカで起きた黒人の権利を求める公民権運動に共鳴して、数々の黒人像を制作した。そのベースにはニキの黒人の肉体や黒人に多い気質への純粋な共感があり、この思いを人類愛と解釈して3曲目に据え、プライベートな愛の衝動を詠った「恋人へのラブレター」と、自虐的な気持ちから一転無の境地へ至る「心の肖像」をその前に置いた。
それぞれが異なる曲調、世界観を有し、1つの曲の中にも変化が多い今回の曲は、演奏者にとってもとっつき易い音楽ではなかったと思うが、佐藤さんと小田さんは、時間をかけてこの「難曲」(ごめんなさい。。)に真剣に取り組み自分のものにしてくださり、本番ではその成果が十二分に披露された。
「恋人へのラブレター」では現実と夢の間をさまようファンタジーや、妖艶でなまめかしい感触を、淡く豊かな色調とディナミークのグラデーションと、生命体の呼吸を感じるようなアゴーギクで表現し、「心の肖像」では破壊的な自虐性と焦燥感を、ストレートにつかみ取って体当たりで挑み、「黒人礼賛」では、郷愁や憧れを秘めたモノローグから、高らかな讃歌まで、歌詞と音楽にぴったりと寄り添って、時にアドリブも交えながら、人類愛を歌い上げてくださった。
言葉をしっかりと捉え、呼吸一つにまで配慮を行き届かせ、持ち前の美声で表情豊かに、時に迫真に迫る歌を聴かせてくれた佐藤さんの歌と、ニキのささやきやストレートな気持ちを、繊細さと力強さを兼ね備えたタッチで追求し、見事な色彩感や呼吸のタイミングで歌を盛り立て、時に先導して行った小田さんのピアノによるデュオは、ワクワク、ドキドキしながらも、自分の曲という意識も遠のいて、安心して演奏に身を委ね、楽しく聴き入ってしまった。作曲というのは、優れた演奏者との共同作業があって初めて報われるものだということを改めて感じ、ひたすら感謝するばかりだ。
今回の演奏会も、たくさんの友人や先生方にいらして頂けました。いらしてくださった皆さま、応援してくださった方々にも心から御礼申し上げます。
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