3月19日(金)歌劇団あもれ座第2回公演
草加文化会館
【演目】
モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」K.527
【配役】
ドン・ジョヴァンニ:田中俊太郎(Bar)/レポレッロ:藤原直之(Bar)/ドンナ・エルヴィラ:夏井美香(S)/ドンナ・アンナ:宮澤尚子(S)/ツェルリーナ:平中麻貴(S)/ドン・オッターヴィオ:又吉秀樹(T)/マゼット:新見準平(Bar)/騎士長:中川郁太郎(B)/語り:金沢青児
【演出】舘亜里沙
【演奏】
川崎嘉昭指揮 歌劇団あもれ座(合唱/オーケストラ)
芸大出身の若い歌手達が集まって結成したという「歌劇団あもれ座」によるオペラ公演を草加で観た。この公演で素晴らしかったのは歌手陳の充実ぶり。1人の例外もなく全ての歌手が甲乙つけ難いほどにそれぞれの配役にふさわしい歌を聴かせてくれた。
中でも飛び抜けた歌と演技で魅了したのが先月素敵なリサイタルをやったバリトンの藤原直之さん。「ブッファの藤原」の名を余すことなく発揮したばかりか、迫真の歌と演技でこのオペラの持つ凄みをも表現していた。決して役や情景に流されることなく明晰さを保ちつつ聴き手を物語の世界に引き込む技は真の一級品。
もう一人、やはり大変感銘を受けたのはドン・オッタヴィオを歌ったテノールの又吉秀樹さん。この役はドンナ・アンナに一途につくすだけの面白味に欠ける人物像になってしまい勝ちだが、又吉さんは惚れ惚れするようなみずみずしい美声と頼り甲斐のあるしなやかな表現力でドンナ・アンナという気丈な女性も惹き付ける魅力を放っていた。
そのドンナ・アンナを歌った宮澤さんは、先月の藤原さんのリサイタルで受けた好印象をこのステージでも十二分に発揮。朗々と響き渡る艶のある美声で気高く気丈な女性のオーラを伝えた。ドン・ジョヴァンニを歌った田中さんは容姿からして色男。その歌も演技も、女達を口説き落とすにふさわしい男の色気を放ち、また「強い男」も印象づけた。
そんなドン・ジョヴァンニへの恋慕を抑えきれないドンナ・エルヴィラ役の夏井さんの歌からは清楚で気立ての良い優しさが伝わってきて、平和なエピローグで彼女が修道女になるのが可哀想に思えるほど。ツェルリーナ役・平中さんの健気さを感じさせるみずみずしく滑らかな歌も良かったし、その相手マゼットを歌った新見さんの美声と逞しさを感じる歌も耳を引いた。そして騎士長役中川さんの迫力のある存在感もなかなかのも。個々のソロに加え、モーツァルトのオペラならではの楽しみである歌手達のアンサンブルも秀逸!美しい響きがとても印象に残った。
この公演の演出を担当した舘さんは以前芸祭の3年オペラ公演「愛の妙薬」で印象に残るステージを作ったが、今回の演出ではドン・ジョヴァンニにとって女性とは自分の思い通りになる「人形」というコンセプトで組み上げたとのこと。開演前に幕が上がり、そこに人形のように動きの止まった女達が配されるという象徴的なシーンが目に飛込んできた。上演中、舞台装置や照明に大きな変化はなかったが、それだけに最後のドン・ジョヴァンニの地獄落ちの場面は印象的。真っ赤な照明の下で「人形の亡霊達」が改心しようとしないドン・ジョヴァンニを葬り去るシーンにグッと引き付けられた。平和が戻るエピローグでドンナ・アンナ以外の女達、それに後ろに居並ぶ女性達がみんな喪服を象徴するような黒い衣装で登場したのは、ドン・ジョヴァンニに弄ばれた人形としての自分との決別?今回の公演ではレチタティーヴォの一部が省略されたが、これを補う形でナレーションが入ったのも良かった。
さて、モーツァルトのオペラを聴くとき、もしかして歌手陣が今日ほどのレベルでなかったとしても、オーケストラが良ければ満足してしまう程にオーケストラが重要だと思っている僕にとって、アマチュアを中心に組織された今回のあもれ座のオーケストラは残念だった。今までに感動を与えてくれたアマチュアオケの公演は数多いが、これはひとつの演奏会のために半年とか、場合によっては1年もの時間をかけ、優れた指導者の下にひたすら練習を重ねるという過程があってこそ実現できること。1つのオペラ公演の度に、その地域からアマチュアプレイヤーを募るやり方では十分な練習時間を取ることは難しいのかも知れないが、本番に乗る以上はせめて「たとえ外しても譜面に書いてある場所で音を出す」ぐらいのおさらいはやって欲しかったし、指揮者はキュー出しに徹して欲しかった。これでは歌手達が可哀想だし聴いている方も正直辛い。
オケの顔ぶれを見たら志が高そうな若い人が多かっただけに、もう少し時間があればずっと違う演奏ができたはずではと思ってしまう。それにしても、これほどの才能と実力とバイタリティーを持ってオペラ公演をやろうという若い歌手たちをもっと支援するようなシステムとかスポンサーはいないものだろうか。彼らは間違いなく日本のオペラ界をこれから背負っていく人材になるはずだ。
草加文化会館
【演目】
モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」K.527
【配役】
ドン・ジョヴァンニ:田中俊太郎(Bar)/レポレッロ:藤原直之(Bar)/ドンナ・エルヴィラ:夏井美香(S)/ドンナ・アンナ:宮澤尚子(S)/ツェルリーナ:平中麻貴(S)/ドン・オッターヴィオ:又吉秀樹(T)/マゼット:新見準平(Bar)/騎士長:中川郁太郎(B)/語り:金沢青児
【演出】舘亜里沙
【演奏】
川崎嘉昭指揮 歌劇団あもれ座(合唱/オーケストラ)
芸大出身の若い歌手達が集まって結成したという「歌劇団あもれ座」によるオペラ公演を草加で観た。この公演で素晴らしかったのは歌手陳の充実ぶり。1人の例外もなく全ての歌手が甲乙つけ難いほどにそれぞれの配役にふさわしい歌を聴かせてくれた。
中でも飛び抜けた歌と演技で魅了したのが先月素敵なリサイタルをやったバリトンの藤原直之さん。「ブッファの藤原」の名を余すことなく発揮したばかりか、迫真の歌と演技でこのオペラの持つ凄みをも表現していた。決して役や情景に流されることなく明晰さを保ちつつ聴き手を物語の世界に引き込む技は真の一級品。
もう一人、やはり大変感銘を受けたのはドン・オッタヴィオを歌ったテノールの又吉秀樹さん。この役はドンナ・アンナに一途につくすだけの面白味に欠ける人物像になってしまい勝ちだが、又吉さんは惚れ惚れするようなみずみずしい美声と頼り甲斐のあるしなやかな表現力でドンナ・アンナという気丈な女性も惹き付ける魅力を放っていた。
そのドンナ・アンナを歌った宮澤さんは、先月の藤原さんのリサイタルで受けた好印象をこのステージでも十二分に発揮。朗々と響き渡る艶のある美声で気高く気丈な女性のオーラを伝えた。ドン・ジョヴァンニを歌った田中さんは容姿からして色男。その歌も演技も、女達を口説き落とすにふさわしい男の色気を放ち、また「強い男」も印象づけた。
そんなドン・ジョヴァンニへの恋慕を抑えきれないドンナ・エルヴィラ役の夏井さんの歌からは清楚で気立ての良い優しさが伝わってきて、平和なエピローグで彼女が修道女になるのが可哀想に思えるほど。ツェルリーナ役・平中さんの健気さを感じさせるみずみずしく滑らかな歌も良かったし、その相手マゼットを歌った新見さんの美声と逞しさを感じる歌も耳を引いた。そして騎士長役中川さんの迫力のある存在感もなかなかのも。個々のソロに加え、モーツァルトのオペラならではの楽しみである歌手達のアンサンブルも秀逸!美しい響きがとても印象に残った。
この公演の演出を担当した舘さんは以前芸祭の3年オペラ公演「愛の妙薬」で印象に残るステージを作ったが、今回の演出ではドン・ジョヴァンニにとって女性とは自分の思い通りになる「人形」というコンセプトで組み上げたとのこと。開演前に幕が上がり、そこに人形のように動きの止まった女達が配されるという象徴的なシーンが目に飛込んできた。上演中、舞台装置や照明に大きな変化はなかったが、それだけに最後のドン・ジョヴァンニの地獄落ちの場面は印象的。真っ赤な照明の下で「人形の亡霊達」が改心しようとしないドン・ジョヴァンニを葬り去るシーンにグッと引き付けられた。平和が戻るエピローグでドンナ・アンナ以外の女達、それに後ろに居並ぶ女性達がみんな喪服を象徴するような黒い衣装で登場したのは、ドン・ジョヴァンニに弄ばれた人形としての自分との決別?今回の公演ではレチタティーヴォの一部が省略されたが、これを補う形でナレーションが入ったのも良かった。
さて、モーツァルトのオペラを聴くとき、もしかして歌手陣が今日ほどのレベルでなかったとしても、オーケストラが良ければ満足してしまう程にオーケストラが重要だと思っている僕にとって、アマチュアを中心に組織された今回のあもれ座のオーケストラは残念だった。今までに感動を与えてくれたアマチュアオケの公演は数多いが、これはひとつの演奏会のために半年とか、場合によっては1年もの時間をかけ、優れた指導者の下にひたすら練習を重ねるという過程があってこそ実現できること。1つのオペラ公演の度に、その地域からアマチュアプレイヤーを募るやり方では十分な練習時間を取ることは難しいのかも知れないが、本番に乗る以上はせめて「たとえ外しても譜面に書いてある場所で音を出す」ぐらいのおさらいはやって欲しかったし、指揮者はキュー出しに徹して欲しかった。これでは歌手達が可哀想だし聴いている方も正直辛い。
オケの顔ぶれを見たら志が高そうな若い人が多かっただけに、もう少し時間があればずっと違う演奏ができたはずではと思ってしまう。それにしても、これほどの才能と実力とバイタリティーを持ってオペラ公演をやろうという若い歌手たちをもっと支援するようなシステムとかスポンサーはいないものだろうか。彼らは間違いなく日本のオペラ界をこれから背負っていく人材になるはずだ。