3月7日(土)ミュージック・フロム・ジャパン委嘱曲ハイライト 東京
~ミュージック・フロム・ジャパン40周年記念音楽祭~
東京文化会館小ホール
【曲目】
1.中川俊郎/「岩上の仙人」(2007/08)日本初演
排簫:笹本武志/Perc:山口恭範
2.望月 京/「ネクスト ステップ」(2003)
ギター:佐藤紀雄/Fl:木ノ脇道元/Vn:甲斐史子
3.杉山洋一/「杜甫二首」 (2015)40周年委嘱日本初演
Ms:波多野睦美/Cl:板倉康明/Vla:百武由紀/Pf:藤原亜美
4.北爪道夫/「様々な距離 Ⅲ」~クラリネットとチェロのための(2015)40周年委嘱日本初演
Cl:板倉康明/Vc:花崎薫
5.西村 朗/「ビシュヌの化身たち」より第Ⅳ曲「ヌルシンハ(人獅子)」(2001)
Pf:佐藤祐介
6.藤家溪子/「入日楽」(2004)
雅楽アンサンブル:伶楽舎
現代の作品に接して、その作品に惹きつけられるかどうかの決め手となる要素として、音響やテクスチュアの面白さ、単なる思い付きや恣意的なレベルを超えて「なるほど」と思わせるアイディアなども大切ではあるが、何よりの決め手は、その作品が明確で揺るぎないメッセージを発信しているのを受け取れるかどうかということ。今夜のミュージック・フロム・ジャパンの演奏会には、そんな作品との出会いを期待して出かけた。
6つの作品のうち、最も強烈なメッセージを発してきたのは西村朗氏の「ヌルシンハ」。原始的な民族舞踊のような激しい音楽で始まったこの曲の一番の聴きどころは、中間部から現れた単音トレモロによる単旋律がうねり、のたうち回るような動き。発せられた音が減衰して消えて行くピアノという楽器の性質に抗って、自らの音に固執し、熱い情念をたぎらせて行く様子は、西村作品特有の息詰まるほどの音への執着を伝えていた。ピアノを演奏した佐藤氏は、集中力とエネルギーを音楽に傾注し、金管楽器の咆哮のような野太い響きをピアノから引き出し(この効果も作曲者が意図したに違いないが)、聴き手の心を鷲掴みにした。
明確なメッセージ性という点でもうひとつ上げたいのは、北爪氏の「様々な距離 Ⅲ」。静謐な装いでありながら、内に大きなエネルギーを秘めたクラリネットと、激しい感情を剥き出したチェロとの対話が、緊迫感のある均衡をもたらす。板倉氏の極限まで音量を絞りながらも存在感を伝えたクラリネットと、激しく掻き鳴らす琵琶を想い起こす生々しさを聴かせた花崎氏のチェロの演奏も見事だった。
音響的、構造的な面白さで印象に残ったのは杉山氏の「杜甫二首」。点描的な筆遣いで精緻に描かれた器楽アンサンブルに、声楽的で滑らかな筆致の歌唱が、広がりと奥行きのある響きを生み出し、深みのある香りをもたらした。波多野氏のふくよかでコントロールの行き届いた弱音を駆使した歌と、互いに敏感に響き合うように音を「灯して」いった板倉、百武、藤原各氏の研ぎ澄まされた演奏も聴きものだった。
~ミュージック・フロム・ジャパン40周年記念音楽祭~
東京文化会館小ホール
【曲目】
1.中川俊郎/「岩上の仙人」(2007/08)日本初演
排簫:笹本武志/Perc:山口恭範
2.望月 京/「ネクスト ステップ」(2003)
ギター:佐藤紀雄/Fl:木ノ脇道元/Vn:甲斐史子
3.杉山洋一/「杜甫二首」 (2015)40周年委嘱日本初演
Ms:波多野睦美/Cl:板倉康明/Vla:百武由紀/Pf:藤原亜美
4.北爪道夫/「様々な距離 Ⅲ」~クラリネットとチェロのための(2015)40周年委嘱日本初演
Cl:板倉康明/Vc:花崎薫
5.西村 朗/「ビシュヌの化身たち」より第Ⅳ曲「ヌルシンハ(人獅子)」(2001)
Pf:佐藤祐介
6.藤家溪子/「入日楽」(2004)
雅楽アンサンブル:伶楽舎
現代の作品に接して、その作品に惹きつけられるかどうかの決め手となる要素として、音響やテクスチュアの面白さ、単なる思い付きや恣意的なレベルを超えて「なるほど」と思わせるアイディアなども大切ではあるが、何よりの決め手は、その作品が明確で揺るぎないメッセージを発信しているのを受け取れるかどうかということ。今夜のミュージック・フロム・ジャパンの演奏会には、そんな作品との出会いを期待して出かけた。
6つの作品のうち、最も強烈なメッセージを発してきたのは西村朗氏の「ヌルシンハ」。原始的な民族舞踊のような激しい音楽で始まったこの曲の一番の聴きどころは、中間部から現れた単音トレモロによる単旋律がうねり、のたうち回るような動き。発せられた音が減衰して消えて行くピアノという楽器の性質に抗って、自らの音に固執し、熱い情念をたぎらせて行く様子は、西村作品特有の息詰まるほどの音への執着を伝えていた。ピアノを演奏した佐藤氏は、集中力とエネルギーを音楽に傾注し、金管楽器の咆哮のような野太い響きをピアノから引き出し(この効果も作曲者が意図したに違いないが)、聴き手の心を鷲掴みにした。
明確なメッセージ性という点でもうひとつ上げたいのは、北爪氏の「様々な距離 Ⅲ」。静謐な装いでありながら、内に大きなエネルギーを秘めたクラリネットと、激しい感情を剥き出したチェロとの対話が、緊迫感のある均衡をもたらす。板倉氏の極限まで音量を絞りながらも存在感を伝えたクラリネットと、激しく掻き鳴らす琵琶を想い起こす生々しさを聴かせた花崎氏のチェロの演奏も見事だった。
音響的、構造的な面白さで印象に残ったのは杉山氏の「杜甫二首」。点描的な筆遣いで精緻に描かれた器楽アンサンブルに、声楽的で滑らかな筆致の歌唱が、広がりと奥行きのある響きを生み出し、深みのある香りをもたらした。波多野氏のふくよかでコントロールの行き届いた弱音を駆使した歌と、互いに敏感に響き合うように音を「灯して」いった板倉、百武、藤原各氏の研ぎ澄まされた演奏も聴きものだった。