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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.5

2013年03月08日 | pocknのコンサート感想録2013
3月8日(金)小菅 優(Pf)  
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ 第5回~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ピアノ・ソナタ 第19番 ト短調 op.49-1
2. ピアノ・ソナタ 第20番 ト長調 op.49-2
3. ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 op.10-3
4.ピアノ・ソナタ 第12番 変イ長調 op.26
5. ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 op.81a「告別」
【アンコール】
1. ショパン/エオリアンハープ
2. モーツァルト/ピアノ・ソナタ ハ長調K.330(300h)~第2楽章

1回目から欠かさずに聴いている小菅優のベートーヴェン・ソナタシリーズの5回目。派手な曲がないせいか、いつもより空席が見られたが、こうした小・中規模の曲でも、小菅優の持ち味は冴え渡る。聴き逃してはもったいない。

小菅のピアノの魅力は?と訊かれれば、いくつも挙げることができるが、なかでも最初の頃から僕の心を魅了して止まないのは、快活な楽曲での、水を得た魚のような弾ける演奏。音たちが意思を持って動き、飛び跳ね、呼吸する。音と音が戯れながらも絶妙な調和を保ち、ひとりで何役もの楽器のアンサンブルを奏でているようなシーンに接すること。そんなシーンに今回も至るところで出逢ったが、一つだけ挙げれば、「葬送ソナタ」の第2楽章スケルツォ。全ての音が、どうしてこんなにハマっているんだろう、と思える位置に、強弱や勢いや息遣いなど全ての要素が申し分ない姿で配分され、ひとつの生命体として命を吹き込まれている。こんなシーンに出会うと、心が躍って、天まで跳ね上がってしまいそうな気分になる。

また別の魅力では、上述したことに関連があるが、ある種の客観性の目を常に備えていること。自らが主人公になりきって音楽に陶酔するのではなく、そうした様子を共感を持って観察し、「語り手」として聴衆に伝えている。作品49ト短調の第2楽章からは、駿馬に乗って颯爽と駆け抜けるシーンが浮かんだが、ここで小菅は自ら手綱を引くのではなく、騎士の後ろに乗って景色と風を楽しんでいる余裕を見せる。また、ト長調の方の第2楽章からは優雅なダンスのシーンが浮かんでくる。後半で主旋律に装飾を施して、王子様と踊るプリンセスが甘えているような仕草を表現したが、小菅自身がプリンセスとして振舞うのではなく、「ここは王女さまが甘えているところ!こんな風にね…」と、楽しそうに伝えているよう。

また「葬送ソナタ」第3楽章の「葬送行進曲」について、小菅が「内面性よりむしろ、街中で通過する葬送を観ているような視点を感じます。そのディスタンス(距離)がかえって聴き手には怖い」と述べているのをプログラムで読んだが、実際の演奏からは、悲しみに打ちひしがれる様子ではなく、毅然とした凛々しさが伝わってきた。フレーズの最後に出てくる同音の3つの連打が、現実を認めるよう言い聞かせる、静かだけれど確固としたお告げとして聴こえた。

「葬送行進曲」を内面的な音楽と捉えていない小菅が深い内面性を表現したのが、作品10-3の第2楽章。集中力を途切らせることなくひとつの大きな流れをつくり出し、そこにある物語の魂が聴く者の心の深くに徐々に徐々に浸潤してくる。これは、わりと最近よく感じるようになった小菅の魅力だ。

最後に弾いた「告別ソナタ」の終楽章では、再会の喜びが弾け散り、浮き立つ心に周囲の空気までもが色めいてキラキラと輝き、世界が笑いに満たされた。これまであげた魅力が総動員されたような、とんでもない「芸当」を楽しそうにやってのけてしまうところに、小菅優の底知れぬ大きな力を感じてしまうのだ。

2月に出たアルバムを会場でゲット、サインをもらった!

小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.4~2012.7.20 紀尾井ホール~
小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.3~2012.2.7 紀尾井ホール~
小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.2~2011.6.30 紀尾井ホール~
小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.1~2010.10.27 紀尾井ホール~

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