2月17日(金)東京二期会オペラ公演
~イタリア・パルマ王立歌劇場との提携公演~
東京文化会館
【演目】
ヴェルディ/「ナブッコ」
【配役】
ナブッコ:上江隼人/イズマエーレ:松村英行/ザッカーリア:ジョン・ハオ/アビガイッレ:板波利加/フェネーナ:中島郁子/アンナ:江口順子/アブダッロ:塚田裕之/ベルの司祭長:境信博
【演出】ダニエレ・アバド
【美術・衣装】ルイージ・ペレーゴ【照明】ヴァレリオ・アルフィエーリ
【演奏】
アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団
「沈黙」に続き、今夜は「ナブッコ」の初体験。バビロン捕囚という壮大な史実を元に制作されたヴェルディ初期の代表作ということで、大いに期待して出かけた。指揮のバッティストーニは弱冠24才という超若手。序曲冒頭の金管は、トロンボーンもトランペットもスカスカでどうなることかと危惧したが、バッティストーニは、デビュー当時のムーティを思わせる、エネルギーの塊のような颯爽とした指揮振りでオーケストラを焚きつけ、統制の取れた熱気ある演奏に発展していった。演奏は全幕を通して、濃淡のハッキリした、明快で熱い音楽を聴かせて好感が持てたが、バンダは頼りなかった。
幕が上がると、堅牢で壮麗な城門が聳えていた。これがステージ狭しと動き回って様々な役割を担う舞台で、合唱が高らかに唱和し、ソリスト達が競い合うように熱唱する。オーケストラは巨大な塊となって大音響を轟かせ、歌を盛り立てる。見映えのする本格的なステージと音響のボリューム感が、聴衆をオペラのスペクタクルの世界へと誘い込む。けれど、僕にとってこれは何と言うか・・・ ちょっとした山場がくる度に、シンバルを打ち鳴らしてドンチャン騒ぎするオケに合唱が一丸となって迫ってくるのも、ソリスト達の熱い絶叫も、何だかワンパターンに聴こえて節操がない。ヴェルディには、もっと深みがあって、ギュッと内容の詰まった充実した音楽がたくさんあるはずでは?
そして、ストーリーは言っちゃあ悪いが学芸会レベル。殺されかけたフェネーナがいとも簡単に救われたり、ナブッコだってアビガイッレだって、簡単に改心し過ぎでちょっとあり得ない。「魔笛」の台本の支離滅裂さに比べればマトモ、なんて言われるかも知れないが、「魔笛」には全幕を深く貫く「愛」というテーマがある。「ナブッコ」というオペラは一体何を伝えたいのだろうか。一昨日観た「沈黙」とのギャップが大き過ぎて、なお更そんなことを思ってしまった。
有名なオペラのはずだが、知っている曲は超有名な「行け、我が想いよ…」だけだった。この歌は確かに素晴らしい。人間の郷愁や憧れ、希望や愛といった、キュンとくる感情がみんな混ぜ合わさったような何とも言えない気持ちにさせられる歌だ。合唱で歌われながら、殆どの部分がユニゾンで、メロディーだけで勝負!という潔さを感じるのもいい。囚われた人達の絶望の中から湧く望郷の念が、やがて解放となって成就する、これこそが、このオペラのテーマなのかも知れない。ならば、それをもっと前面に押し出せばいいのに、と思ってしまうが…
歌手陣で一番印象に残ったのは、中島郁子が歌ったフェネーナ。中島さんは2003年の音コンに出場したとき、3次予選と本選を聴いて、日本人離れした器の大きさに驚いた歌手だけに(このときは2位)、勝手に親近感を覚えて注目していたが、今回久しぶりに聴いて、一層磨きがかかった歌に魅了された。第4幕でこの世への惜別を歌ったアリアは、気高く、気丈で、宝石のように輝いていた。
ナブッコ役の上江隼人は、最初は迫力不足だと思ったが、その実力は特に後半で確かめられた。横暴でその場しのぎに明け暮れる王だが、上江さんが歌うと、ごもっとも、と言いたくなるほど名君の威光と切れ味が感じられ、最後の改心も納得できてしまう。ジョン・ハオのザッカーリアは、澄んだ声が真っ直ぐに心に響いてきて良かった。板波利加のアビガイッレは迫力満点。激しい感情の動きを捉え、濃い表現力で圧倒した。ブレークポイントで別人のように声が変わってしまうのがちょっと惜しい。
ダニエレ・アバド(アバドの息子!)の演出は、オーソドックスで見栄えのする舞台作りが、「ナブッコ」初体験の身にとってはありがたい。最後の方で台本通りに本当に、巨大なベル神の像が自ら崩壊するシーンも大サービス。ただ、「ユダヤ人を処刑しろ!」と叫ぶバビロンの群集が、ユダヤ人の正装をしているのは余りに不自然。合唱は兼務だから仕方がないのだが、もう一工夫欲しい。そうした意味で、最初の方で述べた台本の「不備」をカバーするような工夫もしてほしかった。見栄えはするが、かなり大味な演出だったのでは?
~イタリア・パルマ王立歌劇場との提携公演~
東京文化会館
【演目】
ヴェルディ/「ナブッコ」
【配役】
ナブッコ:上江隼人/イズマエーレ:松村英行/ザッカーリア:ジョン・ハオ/アビガイッレ:板波利加/フェネーナ:中島郁子/アンナ:江口順子/アブダッロ:塚田裕之/ベルの司祭長:境信博
【演出】ダニエレ・アバド
【美術・衣装】ルイージ・ペレーゴ【照明】ヴァレリオ・アルフィエーリ
【演奏】
アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団
「沈黙」に続き、今夜は「ナブッコ」の初体験。バビロン捕囚という壮大な史実を元に制作されたヴェルディ初期の代表作ということで、大いに期待して出かけた。指揮のバッティストーニは弱冠24才という超若手。序曲冒頭の金管は、トロンボーンもトランペットもスカスカでどうなることかと危惧したが、バッティストーニは、デビュー当時のムーティを思わせる、エネルギーの塊のような颯爽とした指揮振りでオーケストラを焚きつけ、統制の取れた熱気ある演奏に発展していった。演奏は全幕を通して、濃淡のハッキリした、明快で熱い音楽を聴かせて好感が持てたが、バンダは頼りなかった。
幕が上がると、堅牢で壮麗な城門が聳えていた。これがステージ狭しと動き回って様々な役割を担う舞台で、合唱が高らかに唱和し、ソリスト達が競い合うように熱唱する。オーケストラは巨大な塊となって大音響を轟かせ、歌を盛り立てる。見映えのする本格的なステージと音響のボリューム感が、聴衆をオペラのスペクタクルの世界へと誘い込む。けれど、僕にとってこれは何と言うか・・・ ちょっとした山場がくる度に、シンバルを打ち鳴らしてドンチャン騒ぎするオケに合唱が一丸となって迫ってくるのも、ソリスト達の熱い絶叫も、何だかワンパターンに聴こえて節操がない。ヴェルディには、もっと深みがあって、ギュッと内容の詰まった充実した音楽がたくさんあるはずでは?
そして、ストーリーは言っちゃあ悪いが学芸会レベル。殺されかけたフェネーナがいとも簡単に救われたり、ナブッコだってアビガイッレだって、簡単に改心し過ぎでちょっとあり得ない。「魔笛」の台本の支離滅裂さに比べればマトモ、なんて言われるかも知れないが、「魔笛」には全幕を深く貫く「愛」というテーマがある。「ナブッコ」というオペラは一体何を伝えたいのだろうか。一昨日観た「沈黙」とのギャップが大き過ぎて、なお更そんなことを思ってしまった。
有名なオペラのはずだが、知っている曲は超有名な「行け、我が想いよ…」だけだった。この歌は確かに素晴らしい。人間の郷愁や憧れ、希望や愛といった、キュンとくる感情がみんな混ぜ合わさったような何とも言えない気持ちにさせられる歌だ。合唱で歌われながら、殆どの部分がユニゾンで、メロディーだけで勝負!という潔さを感じるのもいい。囚われた人達の絶望の中から湧く望郷の念が、やがて解放となって成就する、これこそが、このオペラのテーマなのかも知れない。ならば、それをもっと前面に押し出せばいいのに、と思ってしまうが…
歌手陣で一番印象に残ったのは、中島郁子が歌ったフェネーナ。中島さんは2003年の音コンに出場したとき、3次予選と本選を聴いて、日本人離れした器の大きさに驚いた歌手だけに(このときは2位)、勝手に親近感を覚えて注目していたが、今回久しぶりに聴いて、一層磨きがかかった歌に魅了された。第4幕でこの世への惜別を歌ったアリアは、気高く、気丈で、宝石のように輝いていた。
ナブッコ役の上江隼人は、最初は迫力不足だと思ったが、その実力は特に後半で確かめられた。横暴でその場しのぎに明け暮れる王だが、上江さんが歌うと、ごもっとも、と言いたくなるほど名君の威光と切れ味が感じられ、最後の改心も納得できてしまう。ジョン・ハオのザッカーリアは、澄んだ声が真っ直ぐに心に響いてきて良かった。板波利加のアビガイッレは迫力満点。激しい感情の動きを捉え、濃い表現力で圧倒した。ブレークポイントで別人のように声が変わってしまうのがちょっと惜しい。
ダニエレ・アバド(アバドの息子!)の演出は、オーソドックスで見栄えのする舞台作りが、「ナブッコ」初体験の身にとってはありがたい。最後の方で台本通りに本当に、巨大なベル神の像が自ら崩壊するシーンも大サービス。ただ、「ユダヤ人を処刑しろ!」と叫ぶバビロンの群集が、ユダヤ人の正装をしているのは余りに不自然。合唱は兼務だから仕方がないのだが、もう一工夫欲しい。そうした意味で、最初の方で述べた台本の「不備」をカバーするような工夫もしてほしかった。見栄えはするが、かなり大味な演出だったのでは?
pocknさんの記事を読んで、日本の演奏云々の前に、やっぱりこれは成熟する前のヴェルディ(彼は大器晩成型です)のオペラなのだということを改めて思った次第です。
オペラが観客に与える凄さっていうのは、音楽と舞台が一体になったカタストロフィにあると考えます。どちらが欠けてもダメ。ヴェルディだったら、やっぱり中期の「トラヴィアータ」や「リゴレット」あたりからだと思います。
そんななか、加藤浩子さんという方のブログ(http://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/)に、「シンプルでストレートな作品なだけに、演奏者の度量が試される作品」という記述があり、このオペラの楽しみ方のヒントがありそうに思いました。