3月13日(火)樫本大進(Vn)/コンスタンチン・リフシッツ(Pf) 

~都民劇場音楽サークル第595回定期公演~
東京文化会館大ホール
【曲目】
1. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調Op.12-2
2. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調Op.30-1
3. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調Op.30-2
4. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調Op.30-3
【アンコール】
クライスラー/シンコペーション
3日前に聴いた神尾真由子がヴァイオリン界のディーヴァだとすれば、今夜のリサイタルを聴いて、樫本大進はヴァイオリン界の貴公子のイメージを益々強めた。貴公子といっても女たちにチヤホヤされるチャラチャラした貴公子とは違い、文武両道具わった、老若男女から信望の篤い騎士の風格を感じさせた。
樫本は、持ち前である抜群の美音を駆使して、端正で滑らかな音を伸びやかに聴かせる。ベートーヴェンへのアプローチはあくまで正攻法。音楽そのものが向かおうとしている方向や勢いに抗わず、ぶれることなく音楽の行く先を的確に見据え、その音楽の持ち味を丁寧に引き出していく様子は、ベルリンフィルのコンサートマスターとしてのリーダーシップを感じた。小細工をしないアプローチで聴き手を惹き付けるのは、ある意味一番難しいこととも言えるが、樫本は、インスピレーションに富んだ活き活きとした演奏で、音楽の魅力、楽しさを大ホールの満員の聴衆に届けてくれた。
対して、ベートーヴェンのソナタではとりわけ重要な役割を担うピアノパートを受け持ったリフシッツも、樫本と向かう方向は同じ。リフシッツは、自ら発する全ての音に対して出し終わった後まで責任を持つような、一つ一つの音へのこだわりを見せ、音を磨き、空間へ解き放つ。それらの音たちが、自発性を持って自由に戯れているようだった。
樫本とリフシッツは、お互いに打てば響くという具合に当意即妙に呼応し、ひとつの音楽を作り上げている様子が肌で感じられたが、仕掛け人の役はリフシッツが担うことが多いだろうか。樫本はそんなリフシッツからのちょっとした変化球を、わけなく鮮やかに受け止め、それに「返球」する。これこそがデュオの醍醐味と言えよう。
4曲ともたいへん楽しめたが、なかでも音楽自体が変化に富み、ドラマチックな魅力に溢れているハ短調のソナタが、最も完成度が高く充実した演奏だった。両端楽章では厳しさとスケールの大きさがストレートに迫ってきて、第2楽章では静謐で柔らかな抒情が際立つなか、時おり湧き上がる感情の高まりが心を揺さぶった。第3楽章での遊び心に満ちた天真爛漫な戯れには心が踊った。
樫本とリフシッツは、たいへん相性がよく、お互いの相乗効果で演奏を高めて行くことのできるデュオだ。レコーディングをはじめ、このコンビで様々な活躍を期待したい。リフシッツは、今までマダラの髭面の写真が気味悪くて、コンサートに行く気にならなかったが、髭もキレイになって、素晴らしい演奏を聴けたので、ソロも聴いてみたい気分になった。


~都民劇場音楽サークル第595回定期公演~
東京文化会館大ホール
【曲目】
1. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調Op.12-2
2. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調Op.30-1
3. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調Op.30-2
4. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調Op.30-3
【アンコール】
クライスラー/シンコペーション
3日前に聴いた神尾真由子がヴァイオリン界のディーヴァだとすれば、今夜のリサイタルを聴いて、樫本大進はヴァイオリン界の貴公子のイメージを益々強めた。貴公子といっても女たちにチヤホヤされるチャラチャラした貴公子とは違い、文武両道具わった、老若男女から信望の篤い騎士の風格を感じさせた。
樫本は、持ち前である抜群の美音を駆使して、端正で滑らかな音を伸びやかに聴かせる。ベートーヴェンへのアプローチはあくまで正攻法。音楽そのものが向かおうとしている方向や勢いに抗わず、ぶれることなく音楽の行く先を的確に見据え、その音楽の持ち味を丁寧に引き出していく様子は、ベルリンフィルのコンサートマスターとしてのリーダーシップを感じた。小細工をしないアプローチで聴き手を惹き付けるのは、ある意味一番難しいこととも言えるが、樫本は、インスピレーションに富んだ活き活きとした演奏で、音楽の魅力、楽しさを大ホールの満員の聴衆に届けてくれた。
対して、ベートーヴェンのソナタではとりわけ重要な役割を担うピアノパートを受け持ったリフシッツも、樫本と向かう方向は同じ。リフシッツは、自ら発する全ての音に対して出し終わった後まで責任を持つような、一つ一つの音へのこだわりを見せ、音を磨き、空間へ解き放つ。それらの音たちが、自発性を持って自由に戯れているようだった。
樫本とリフシッツは、お互いに打てば響くという具合に当意即妙に呼応し、ひとつの音楽を作り上げている様子が肌で感じられたが、仕掛け人の役はリフシッツが担うことが多いだろうか。樫本はそんなリフシッツからのちょっとした変化球を、わけなく鮮やかに受け止め、それに「返球」する。これこそがデュオの醍醐味と言えよう。
4曲ともたいへん楽しめたが、なかでも音楽自体が変化に富み、ドラマチックな魅力に溢れているハ短調のソナタが、最も完成度が高く充実した演奏だった。両端楽章では厳しさとスケールの大きさがストレートに迫ってきて、第2楽章では静謐で柔らかな抒情が際立つなか、時おり湧き上がる感情の高まりが心を揺さぶった。第3楽章での遊び心に満ちた天真爛漫な戯れには心が踊った。
樫本とリフシッツは、たいへん相性がよく、お互いの相乗効果で演奏を高めて行くことのできるデュオだ。レコーディングをはじめ、このコンビで様々な活躍を期待したい。リフシッツは、今までマダラの髭面の写真が気味悪くて、コンサートに行く気にならなかったが、髭もキレイになって、素晴らしい演奏を聴けたので、ソロも聴いてみたい気分になった。