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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

メナヘム・プレスラー ピアノリサイタル

2017年10月19日 | pocknのコンサート感想録2017
10月16日(月)メナヘム・プレスラー(Pf)  
サントリーホール

【曲目】
♪ ヘンデル/シャコンヌ ト長調 HWV435
♪ モーツァルト/幻想曲ハ短調 K475
♪ モーツァルト/ピアノ・ソナタ第14番ハ短調 K457
♪ ドビュッシー/前奏曲集第1集~デルフィの舞姫たち、帆、亜麻色の髪の乙女、沈める寺、ミンストレル
♪ ドビュッシー/レントより遅く 変ト長調
♪ ドビュッシー/夢
♪ ショパン/マズルカ~第25番ロ短調 Op.33-4、第38番嬰ヘ短調 Op.59-3、第45番イ短調 Op.67-4
♪ ショパン/バラード第3番変イ長調 Op.47
【アンコール】
♪ ショパン/夜想曲第20番遺作「レント・コン・エスプレッシオーネ」
♪ ドビュッシー/月の光

メナヘム・プレスラーのピアノを初めて聴いたのは3年前、そのときで90歳。庄司紗矢香の伴奏者としてのステージだったが、シンプルの極みでありながら限りない深さと優しさを湛え、庄司に語りかけるピアノは感涙ものだった。

その翌年、プレスラーがリサイタルをやるというので、これは最初で最後のチャンスになるかもとチケットを買って楽しみにしていたら、直前になって体調を崩し公演はキャンセルになった。併せて今は亡きネヴィル・マリナー指揮N響との共演でモーツァルトのコンチェルト(24番)も聴けるはずだったが、もちろんこれも中止。とても残念だったし、もう日本でプレスラーを聴くことは出来ないだろうと、多くの人達が思ったに違いない。その予想に反し、今夜プレスラーのソロリサイタルがサントリーホールで実現した。千載一遇のチャンスだ。客席はほぼまんべんなく埋まり、93歳の芸術家を見守り、演奏に耳を澄ませた。

最初にはっきり言っておく。プレスラーの演奏には、3年前と比べて年齢的な衰えが明らかに認められた。「93歳とは思えない云々」などと取り繕って語ったところで、これは隠しようのない事実だ。しかしプレスラーの演奏は、そんな次元を遥かに超えていた。衰えは他人が指摘する以前に、彼自身が一番よくわかっているに違いない。凄いと思ったのは、プレスラーは衰えてしまったものには固執せず、それに代わる誰にも真似できない別次元のテクニックを獲得していたことだ。打鍵が弱くなったのは衰えからだけではなく、譜面にフォルティッシモと記された音でも、物理的に大きな音で弾くことを意図的にやめたのだと思う。年寄りの冷水なんて言われかねないものは捨て去り、その代わりに得られたものは、言葉で言い表せばたちまち陳腐になってしまうような貴いものだ。プレスラーの奏でる音はどんなパワフルに打鍵される強音にも増して会場の隅々まで響き渡り、心に深く共鳴した。

プレスラーのピアノは、そよ吹く風に弦が揺れて音を出すというエオリアンハープを思わせる。ピアノの前に座り、触れることなく鍵盤に「気」を注いだだけで、ひとりでにピアノが世にも美しい調べを奏でるよう。その音は闇の中で輝く貴い魂の煌めきのように美しく、僅かな眼差しの変化で、人生全てを語る説得力があり、ちょっとした息遣いが、心に幸福感や光を呼び起こす。こんな奇跡と思えるような演奏が、全ての曲ではないにしても、いくつも実現した。

終演後は殆どの聴衆によるスタンディングオベーションが起こった。そこには、介添えが必要なほど足元がおぼつかない小さな体の老巨匠が、日本までやってきてリサイタルを開いてくれたことへの敬意と感謝だけでなく、稀有の感動を与えてくれたことへの心からの称賛がこもっていた。普段のコンサートより早めに終わったかと思いきや、リサイタルが終わってホールを出たら9時20分になろうとしていた。いかに内容の濃い至福の時間だったかを物語っている。プレスラーをまた聴くことができた幸せを今も感じている。

庄司紗矢香&メナヘム・プレスラー デュオ・リサイタル 2014.4.10 サントリーホール
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さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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