4月29日(金)伊藤 恵 ピアノ・リサイタル
~新・春をはこぶコンサートVol.4~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ハイドン/アンダンテと変奏曲へ短調Hob.X Ⅶ-6

2.シューベルト/即興曲集D935, Op.142

3.ハイドン/ソナタ ホ短調Hob.X Ⅵ-34
4.シューベルト/ソナタ第17番二長Op.53,D850
【アンコール】
モーツァルト/ソナタ ハ長調K.545~第1楽章

伊藤恵 毎年春恒例の「春をはこぶコンサート」シリーズ、今回はチャリティーとして行われた。曲目にはおなじみのシューベルトに、ハイドンが2曲加わった。恵さんのピアノでハイドンを聴くのは初めてのように思うが、これがよかった。
前半で演奏された「アンダンテと変奏曲」はハイドン後期の円熟した深い音楽。最初に右手に現れるテーマが、孤独な詩情に溢れて語りかけてくる姿は、シューベルト的でもあり、このリサイタルの最初に入れた意味を納得。2つのテーマで静かに繰り広げられる音楽に、恵さんはハイドンらしいフォルムは崩すことなく真っ直ぐ向き合いつつ、陰影に溢れた高貴で深い歌を奏で、最後はかっちりと輪郭を形作ってまとめ上げた。このハイドンを聴いて、恵さんのレパートリー開拓の新たな可能性を感じた。
続くシューベルトの即興曲集は恵さんがきっといつでも大切にしている音楽だ。恵さんはシューベルトの書いた一つ一つの音に誠実に向き合い、真っ直ぐに聴き手に届けてくる。陰影の影の部分を演奏するときも、焦点をしっかりと見据え、実体が暗闇に埋没してしまうことなく光が当てられる。言葉の大切な語尾が、自然に聴こえてくる安心感がある。恵さんは、聴き手を置き去りにすることなく、その時の音楽が持つリアルな感情を、聴き手に同時に体感させ、親近感を与えてくれる。シューベルトの音楽にはこの親近感がとても大切だということを、改めて感じた。
後半はハイドンとシューベルトのソナタが1つづつ並んだ。ハイドンのこのソナタは、正確な作曲年代はわからないらしいが、これは疾風怒濤期のような、緊張した切迫感が漂っているソナタ。恵さんはこの作品に真正面から向き合い、魂を揺さぶってくる。やっぱり恵さんのハイドンはいい。
最後のシューベルトの二長調のソナタ、実はこの曲はちょっと苦手。どこか頑張り過ぎている上にお堅い感じで、シューベルトの音楽にしてはインスピレーションに欠いているようにも思う。恵さんがこれをリサイタルの最後に置くなら、素晴らしいものが引き出されるかも、と期待もしたが、実際恵さんはここでも真正面から向き合い、テンションの高い演奏を聴かせてくれはしたが、やっぱり苦手な感じは残ってしまった。。
「被災した人達は、まだ音楽を楽しめる時期ではないかも知れませんが、音楽はきっと人々に力を与え、喜びを与える日が来ることを信じて、音楽の種を撒いて行きたい…」と挨拶した恵さんが、アンコールで演奏したモーツァルトは、これまで恵さんの奏でるモーツァルトのなかでも最も柔らかな幸福の光をヴェールのようにまとっていた。
伊藤 恵/新・春をはこぶコンサートVol.3
~新・春をはこぶコンサートVol.4~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ハイドン/アンダンテと変奏曲へ短調Hob.X Ⅶ-6


2.シューベルト/即興曲集D935, Op.142


3.ハイドン/ソナタ ホ短調Hob.X Ⅵ-34

4.シューベルト/ソナタ第17番二長Op.53,D850
【アンコール】
モーツァルト/ソナタ ハ長調K.545~第1楽章


伊藤恵 毎年春恒例の「春をはこぶコンサート」シリーズ、今回はチャリティーとして行われた。曲目にはおなじみのシューベルトに、ハイドンが2曲加わった。恵さんのピアノでハイドンを聴くのは初めてのように思うが、これがよかった。
前半で演奏された「アンダンテと変奏曲」はハイドン後期の円熟した深い音楽。最初に右手に現れるテーマが、孤独な詩情に溢れて語りかけてくる姿は、シューベルト的でもあり、このリサイタルの最初に入れた意味を納得。2つのテーマで静かに繰り広げられる音楽に、恵さんはハイドンらしいフォルムは崩すことなく真っ直ぐ向き合いつつ、陰影に溢れた高貴で深い歌を奏で、最後はかっちりと輪郭を形作ってまとめ上げた。このハイドンを聴いて、恵さんのレパートリー開拓の新たな可能性を感じた。
続くシューベルトの即興曲集は恵さんがきっといつでも大切にしている音楽だ。恵さんはシューベルトの書いた一つ一つの音に誠実に向き合い、真っ直ぐに聴き手に届けてくる。陰影の影の部分を演奏するときも、焦点をしっかりと見据え、実体が暗闇に埋没してしまうことなく光が当てられる。言葉の大切な語尾が、自然に聴こえてくる安心感がある。恵さんは、聴き手を置き去りにすることなく、その時の音楽が持つリアルな感情を、聴き手に同時に体感させ、親近感を与えてくれる。シューベルトの音楽にはこの親近感がとても大切だということを、改めて感じた。
後半はハイドンとシューベルトのソナタが1つづつ並んだ。ハイドンのこのソナタは、正確な作曲年代はわからないらしいが、これは疾風怒濤期のような、緊張した切迫感が漂っているソナタ。恵さんはこの作品に真正面から向き合い、魂を揺さぶってくる。やっぱり恵さんのハイドンはいい。
最後のシューベルトの二長調のソナタ、実はこの曲はちょっと苦手。どこか頑張り過ぎている上にお堅い感じで、シューベルトの音楽にしてはインスピレーションに欠いているようにも思う。恵さんがこれをリサイタルの最後に置くなら、素晴らしいものが引き出されるかも、と期待もしたが、実際恵さんはここでも真正面から向き合い、テンションの高い演奏を聴かせてくれはしたが、やっぱり苦手な感じは残ってしまった。。
「被災した人達は、まだ音楽を楽しめる時期ではないかも知れませんが、音楽はきっと人々に力を与え、喜びを与える日が来ることを信じて、音楽の種を撒いて行きたい…」と挨拶した恵さんが、アンコールで演奏したモーツァルトは、これまで恵さんの奏でるモーツァルトのなかでも最も柔らかな幸福の光をヴェールのようにまとっていた。
伊藤 恵/新・春をはこぶコンサートVol.3