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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

Bell Epoque France Vn:青木尚佳/Pf:中島由紀

2012年08月25日 | pocknのコンサート感想録2012
8月25日(土)Vn:青木尚佳/Pf:中島由紀 
~Bell Époque France ~
桁芸館


【曲目】
1.プーランク/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ Op.119
2.ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
3.イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調op.27-3
4.フォーレ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番イ長調 Op.13
5.サン=サーンス/ハヴァネラ Op.83
【アンコール】
メシアン/世の終わりのための四重奏曲~終曲「イエスの不滅性への賛歌」

僕が最も注目しているヴァイオリニスの一人、青木尚佳さんがロンドンへ留学して一年になるが、夏休みに一時帰国し、荻窪の小さな会場でピアノの中島由紀さんと開いたサロンコンサートを聴く機会を得た。前回青木さんの演奏を聴いたのは留学直前、やはり個人宅でのサロンコンサートだったが、サントリーホールでリサイタルをやる実力だって十分にあるアーティストの演奏にこんな小さな場所で間近で接する機会を続けて持てるのは本当にラッキー。

留学前から既に相当高い次元で、ある意味完成され、このヴァイオリニスならではの魅力も放っていた青木さんが、環境も全く異なるイギリスで研鑽を積んだ途中経過を聴くことは楽しみである一方でちょっとばかり心配もあったが、今夜の演奏に接して、着実に更なる素晴らしい成長を遂げていることを確信することができた。

そのポイントを挙げれば、一つは音の密度が濃厚になったこと、二つ目は去年のリサイタルやサロンコンサートでの印象では、それ以前に強烈な印象を残した「美音で歌う」ことよりも、音楽の構成を重んじる演奏に転じつつあるように感じたが、今回は以前にも増して磨き抜かれた美しい音に魅了されたこと、三つ目は、演奏がより解き放たれ、自由な空気を胸いっぱいに吸い込み、伸びやかで生き生きした音楽を奏でていたこと。

青木さんの美音は、気のせいかも知れないが1曲目、プーランクが始まる前のチューニングでAの音を出したときに既に何やら魔法にかかったような響きを感じた。こんな経験は初めてだが、実際の演奏では、それが気のせいでなかったことを確かめて余りある極上の美音が鳴った。

プーランクでは、凝縮された濃厚な音で、熱く心の琴線を揺さぶってきた。ビアノソロを挟んで次に演奏されたイザイの無伴奏は、濃厚な美音と均整の取れた見事な構成力で、緊張感を途切らせることなく、一気果敢に弾ききる圧巻の演奏。後半のフォーレでは、仄かな香水の香りが漂ってくるような色香を放ち、滑らかなボーイングで柔らかく極上の織物を織り上げた。第2楽章ではビアノが描く美しいアーチに戯れる優雅な天使の姿が浮かび、第4楽章ではピアノが奏でる大きな波の上を航行する船の舳先に立つ海の女神の姿を見た思いで、聴いていて全身鳥肌が立った。

最後のハバネラは、フォーレの興奮を和らげるような、太陽が燦々と降り注ぐ、南国の色彩鮮やかなトロピカルな気分へ導いてくれた。ヴァイオリンの艶やかな音がキラキラと輝いていた。アンコールにメシアンを持ってきたのもスゴい。最後の天に昇り消えて行く様子が印象的だったが、これは更なる陶酔へ導いていってほしかった。

青木さんの素晴らしい演奏は、このコンサートを企画したという中島さんの伴奏の功績も大きい。プレイエルのピアノから多彩で匂やかな音色を引き出し、味わい深くかつ冴えた演奏で、このコンサートのテーマのフランス音楽の魅力を十二分に伝えた。甘ったるい演奏が多い「亡き王女のためのパヴァーヌ」も、多彩なパレットから場面に相応しい音色を選び、ファンタジックな中にも明晰さが光っていた。

青木さんは間もなくイギリスへ戻り、更なる研鑽を積む。今の青木さんの演奏をもっと聴いておきたい気もするが、この1年の目覚ましい成長を確かめた身としては、今は演奏活動よりも勉強をメインにしている青木さんの、近い将来に必ずや更に大きく咲かせるであろう大輪の花に出会うことを楽しみに、応援して行きたい。

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