facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

新国立劇場 オペラ研修所公演 「カルディヤック」

2013年03月01日 | pocknのコンサート感想録2013
3月1日(金)新国立劇場 オペラ研修所公演
新国立劇場 中劇場

【演目】
ヒンデミット/「カルディヤック」

【配役】
カルディヤック:近藤 圭/カルディヤックの娘:倉本絵里/士官:日浦眞矩/金商人:大塚博章/貴婦人:柴田紗貴子/騎士:伊藤達人/衛兵隊長:大久保光哉
【演出】三浦安浩
【美術】鈴木俊朗【衣裳コーディネーター】加藤寿子【照明】稲葉直人

【演奏】
高橋直史 指揮 トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ/栗友会合唱団

「カルディヤック」が今年没後50年を迎えるヒンデミットのオペラと知って興味を持ち、新国立劇場のオペラ研修生をキャストに選び、ステージと客席の間に親密な空気を保てる中劇場での公演ならきっと質の高い公演になるだろうと思ってチケットを買った。ヒンデミットがオペラを書いたことも知らなかったが、ヒンデミットのオペラ作品というだけで期待して開演を迎えた。

オペラのプロローグにあたる群衆の騒ぎの場面から強い力で訴えかけてくるものを感じた。それは、人間の心の底にある何か得体の知れない、とても敏感なものが、素手で掴まれたようなリアルな体験。この時代に書かれたオペラに多い殺人とか異常人格を扱っているせいもあるのかも知れないが、愛情や欲望、疑いや焦燥、異常な心理といった心の有り様に真正面から取り組み、厳しく生々しく訴えるヒンデミットの音楽の力の非凡さを感じずにはいられなかった。

そうした厳しさ、生々しさ、それに底から突き上げてくる衝動などを全幕を通して印象付けたのが、高橋直史指揮のトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ。オケがどこかも知らずに聴いていたが、このオケの演奏には最初から耳を奪われた。小規模な編成だが、振幅の大きさ、掘り下げる深さは大オーケストラが与えるインパクトにも劣らない。無駄を排し、高いテンションを保ち鋭く斬り込み、心を揺さぶってきた。アンサンブルの精緻さも管楽器のソロも見事だった。

第1幕後半、貴婦人の部屋の場面では、それまでのテンションの高い厳しい音楽から、なまめかしい色香を放つ音楽に変わるが、こちらは更に色濃くねっとりとした音色と表現が欲しいと感じたが、終幕最後の場面での、死に瀕してでも衰えることのないカルディヤックの黄金への執着を表す音楽は妖しい光を放ち、貴婦人の愛欲の場面にも増して、これこそがこのオペラのテーマだと言わんばかりに美しい七色の光を発していたのが、とても印象的だった。

歌手達は皆とても健闘していたが、雄弁なオーケストラと比べると総じてちょっと印象が薄い。骨の髄まで役に成りきり、強烈な個性を出すというのは、このオペラではベテランでも難しい気がするが、この作品ではそれがあって初めて人物像が鮮明に浮かび上がる。

カルディヤックを歌った村松さんやその娘役の倉本さんは、声もきれいだしきちんと歌っていたが、村松さんには凄みや危うさ、倉本さんには清純さの影に隠された妖艶さとか、或いは愛を疑わない強さが欲しかった。貴婦人役の柴田さんは歌も演技もはまっていた。この路線を推し進めて存在感を更に上げてほしい。騎士役の伊藤さんの艶と輝きのある美声は一番耳を引いた。これに役のいやらしさが加われば更に印象が強まる。どの役にも言えるのだが、歌でも演技でも、もっと肉食系をむき出しにしたような遠慮のなさが欲しい。

合唱は「研修生の合唱団、なかなかやるな!」と思っていたら、アマチュアの栗友会が担っていたことを後から知って驚いた。とても訓練された強力な声とアンサンブルで、群衆の凄みを表現していたばかりか、ステージ上の動きも堂に入っていて、ドラマの1つのパートとしての役割を見事に果たしていた。

ステージは、映像を映し出すスクリーンや3つの?場面を描いた回り舞台、照明を巧みに駆使して、このオペラの妖しさや無常、狂気性といったものをよく表現していたと思うが、場面の随所に出てくる黒子達の小道具まで使った意味ありげな動きは、妙に説明的だったり、逆によくわからなかったりで、演出が意図した効果は十分に伝わってこなかった。

「オペラ研修所」の公演と言っても、公演内容は舞台装置まで含めて本格的。しかも、ヒンデミットの本邦初演を行う意欲的な姿勢も頼もしい。新国立劇場のレギュラー公演を支える大切な柱のひとつとして、また、研修生たちの貴重な経験の場として、今後も益々積極的な活動を期待したい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2013年2月B定期(メルクル指揮) | トップ | ヤマハ音楽教室の発表会 at ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2013」カテゴリの最新記事