
毎年、メインストリームで活躍している真っ只中のアーティストの訃報がある。
そのほとんどがラッパーで、死因は事故より事件によるものの方が多い。
トラブルを巻き起こしやすいストリート・ラッパーのトラブルによる死といえばそれまでだが、
そのラッパーが生前チャートで影響力を持っているほど、「遺作」の反響もすごい。
今回はそんな遺作がテーマの読みにくく、大したことないチャート分析です。
(覚えている限りですが、ここ数年で命を落としてしまった米若手ラッパー)
2018 → XXXテンタシオン、マック・ミラー
2019 → 二プシー・ハッスル、ジュース・ワールド
2020 → ポップ・スモーク、キング・ヴォン
2021 → ヤング・ドルフ、ドレイコ・ザ・ルーラー
まず「遺作」の定義ですが、死去したアーティストが生前まで作っていた音楽にそのアーティストのレーベルや家族などの関係者が手を付け、リミックスなどの再レコーディングもしつつ、1枚のアルバムとして完成させて世にリリースしたものになります。そして遺作のなかでもチャート・アクションが大きく、目を見張るものがやはりメインストリーム・アーティストのもので、それを分析するとなるとほとんどがラッパーのものになるので、実質「故人ラッパー」のチャート分析になります。ちなみに「故人ラッパー」の分析には大きく2種類の分析が考えられますが、もう1つは訃報が入った週のチャート・アクション(訃報のチャートにおける効果)で、これも少し面白そうです。
上記8人が対象として考えられますが、このうち遺作がリリースされているのはXXXテンタシオン、マック・ミラー、ジュース・ワールド、ポップ・スモークの4人。4人ともこれまでに2作リリースされていて、条件が整っていて比較できるのでこの4人を対象にします。
↓参考までに…。決して覚えてと言っているわけではないです。
title, year | title, year | |
XXXtentacion | Skins, 2018 | Bad Vibes Forever, 2019 |
Mac Miller | Circles, 2020 | Faces, 2021 |
Juice Wrld | Legends Never Die, 2020 | Fighting Demons, 2021 |
Pop Smoke | Shoot For The Stars Aim For The Moon, 2020 | Faith, 2021 |
1.全米アルバム・チャートにおける成績
遺作アルバムのリリース初週のアルバム・チャートにおける成績を見ます。下図でピークの横の総ユニットは全売り上げポイントみたいなものです(※リリース初週の売り上げを総ユニットとしています)。ジュース・ワールドの2作目『ファイティング・ディーモンズ』がつい最近、2021年12月に出たばかりということもあって、長期的な成績評価はしません。まあ、あと2か月後とかにこれをやっていればいくらかできたはずですが、何せここ数日で思いついて書いている記事なので、やる気があるうちに…という話です。
・XXXテンタシオン
最高位 | 総ユニット | |
Skins | 1 | 132,000 |
Bad Vibes Forever | 5 | 65,000 |
・マック・ミラー
最高位 | 総ユニット | |
Circles | 3 | 164,000 |
Faces | 3 | 67,000 |
・ジュース・ワールド
最高位 | 総ユニット | |
Legends Never Die | 1 | 497,000 |
Fighting Demons | 2 | 119,000 |
・ポップ・スモーク
最高位 | 総ユニット | |
Shoot For The Stars Aim For The Moon | 1 | 251,000 |
Faith | 1 | 88,000 |
まず明らかなのは、遺作2作目は1作目より最高位、総ユニットともに落ちる傾向があるということですね。総ユニットの減少率はそれぞれ -50.8%、-59.1%、-76.1%、-64.9%とすべてが半減以上となっており、平均して62.7%減少していることが分かりました。XXXテンタシオンとジュース・ワールドは生前2枚のアルバムを出しており、どちらも2作目は全米1位を記録する大ヒットになりましたが、遺作アルバムの成績は圧倒的にジュースの方が上でしたね。一方ポップ・スモークは1枚も出していなかった人で、死後にアルバム・デビューとなったわけですが、その割にものすごい成績を出していて驚きました。マック・ミラーは10年ほど前からメインストリームで活躍していて5枚のアルバムをヒットさせていましたが、よりキャリアの短い下の2人と比べてユニット数が低いのは「旬」の問題でしょう。ジュースとスモークは訃報が入った時まさに「旬」だったラッパーで、一方マックは2011~2012年あたりがピークだったと見られています。
2.全米シングル・チャートにおける成績
若手ラッパーの音楽は主に若者に人気があり、若者の多くは音楽消費にストリーミングという手法を使います。よって、若手ラッパーのアルバムはストリーミング消費が多いということになります。これは遺作も同じです。アルバムのストリーミング消費が多いと、チャートではシングル・チャートにも影響が出てきます。アルバム・ストリーミングはアルバムの「収録曲を全曲買う」という仕組みになっているので、アルバム・ストリーミングをするとそれは収録曲1曲1曲のセールスにもなるのです(この説明を未だ練習中…)。これによりアルバムのリリース週にシングル・チャートへアルバムの収録曲がたくさんランクインすることがあるのですが、そこからアルバムの影響力を測ることができると思うので、それを考えました。
遺作アルバムリリース週に全米シングル・チャートにランクインしたアルバムの収録曲数と、そのアルバムの全収録曲数をまとめています。
・XXXテンタシオン
ランクイン曲数 | 全収録曲数 | |
Skins | 9 | 10 |
Bad Vibes Forever | 1 | 25 |
・マック・ミラー
ランクイン曲数 | 全収録曲数 | |
Circles | 10 | 12 |
Faces | 0 | 25 |
・ジュース・ワールド
ランクイン曲数 | 全収録曲数 | |
Legends Never Die | 17 | 21 |
Fighting Demons | 13 | 18 |
・ポップ・スモーク
ランクイン曲数 | 全収録曲数 | |
Shoot For The Stars Aim For The Moon | 19 | 19 |
Faith | 8 | 20 |
遺作1作目を見ると、チャートインした曲数が全体に占める割合はそれぞれ90%、83.3%、81.0%、100%とすべて高水準。このうちXXXテンタシオンのチャートインしなかったあと1曲はイントロ曲で、ジュース・ワールドのあと4曲はすべてイントロ/インタールード/アウトロ曲なので、シングルになり得る正規(定義が難しい…)の曲はすべてランクインしたといえます。一方2作目では、それぞれ割合が4%、0%、72.2%、40%と下がっており、ここでも遺作2作目の弱めなチャート・アクションが確認できます。なお、割合の減少の大きさと遺作1作目の総ユニット数は反比例しており、例えば86%減少したXXXテンタシオンは、1作目『スキンズ』の総ユニットは132,000で他の1作目と比べ最小です。このことから逆に、1作目の総ユニットが小さかったアーティストほど、2作目のシングル・チャートにおける影響が激減する傾向にあるといえるでしょう。
(縦軸の目盛りが外れた…!10万刻みです)
…ちなみにジュースの遺作2作目『ファイティング・ディーモンズ』はクリスマス・フィーバーが起こっている最中にリリースされたもので、当時のシングル・チャートではジュースより上位にたくさんのクリスマス・ソングがランクインしていたので、季節的な影響を除去すれば『ファイティング・ディーモンズ』の収録曲はすべてシングル・チャートにランクインしていたかもしれません。その場合、もちろん上記の減少幅は0どころかプラスになります。
感想
遺作アルバム第2弾は第1弾に比べ、より寄せ集め的な要素が強くなり、質が劣る傾向にあります。ジュース・ワールドの2作目に関してはネット上で「レーベルが稼ぐ目的でリリースした感がある」というコメントも見ました。結局、結論は誰もが容易に想像できる「第2弾は第1弾より売れない」に尽きますが、4人のラッパーをモデルに実情を調べ、いろいろ数値化してみたところ、その第2弾の盛り下がりに大きく差があったりして少し面白かったです(本当に少し)。
ただ、2つの観点から「第2弾は第1弾より売れない」ことの証明ができたのは成果で、証明の途中できれいに回帰直線が引けそうな相関関係を見つけられたのもよかったです。数値でチャートを論理的に分析する難しさも分かりました。チャートはほんとに不安定ですからね~。
最後に、読みにくいながらも何とか読んでくださった方へ、すいませんでした…。