なまけものの亀がゆく

早期退職者が、日々うろうろしてみる 人に見せる文章なら本来割愛するものを、しかし自分のために書き残してる呆れた世界

知床、ウトロの想いで(破片ノ7)

2022-04-25 05:30:09 | 日記

仕事で札幌に4年住んだ。
こんな機会もあるまいと、道内各地を旅した。
知床にも行った。

札幌から最も短時間で知床のウトロに行くには、高速バスで7時間。
それを知って躊躇したものの「7時間をどう過ごすか」
考えてみたら「寝る、読書する、音楽を聴く、オヤツを食べる」と
実は大好きな事ばかりと気づき、決行。(実質ほとんど寝てた)

ネットで見つけた「温泉があって、安めの宿」は街の中心から離れてた。
いくぶん歩いて宿まで行くと、広々とした駐車場に観光バスが何台も停まっていた。
後に飲み屋にて「観光バスが別のホテルで客を降ろした後、運転手が泊る宿」
と聞かされ苦笑い。
だけど温泉は地域でも指折りの泉質で、自分たちも時々行くのだとのこと。

その飲み屋にて、遊覧船には乗るのかと尋ねられ
翌日に、おーろら号(大型船)に乗るつもりだと答えた。
そうしたら、大きな船に乗るよりも小さな船の方が近くまで寄れるから
ぜったい良いと言われ、観光会社をオススメされた。
「ガイドも名調子で面白いよ」と言ってたけど、
実際のところ、店の常連さんなのかな?などと思いつも話に乗ることにする。

遊覧船には1時間コース、2時間コース、3時間コースがあった。
同じ往路を進み、コースによって折り返し点が違う。
いちばん長い3時間コースは知床半島の先端、知床岬までの航路。
二度と来れない可能性も高く、3時間コースを選択する。

2時間コースの到達点までは、奇岩や滝など観光ポイントも多く
ガイドさんの生解説を楽しむ。ヒグマも当然のように姿を見せてくれた。

その先を岬に向かって静かに船は進む。見えるのはただ原生林。
これが、圧倒的にすごい。
誰一人、人間の住まない土地。あるのは大樹と野原だけ。

それほど遠くない昔、ぼくの僅か数代前の開拓者たちが見たであろう光景。
今では空港も、鉄路も、大きな都市も、プロ野球チームまである北海道の、
ほんの少し前の姿なんだなって 感じることができたのは、
短い期間なれども、住んで、いろんなものを見聞きした為だと思う。


大好きになった北海道の、想いで深い知床で悲しい事が起こってしまった。
ひどいショックを受けてネットニュースを必死に辿ってみると、
記事の〆に、観光関連の方々の発言がいくつも使われている。
悲痛な吐露がネットニュースの定型文に当てはめられてるの、見ててきつい。


ぼくが乗った船ではない、会社も違う。
行方不明になっている船について、元々は瀬戸内海用でしかも古いとか
乗組員が幾人も退社し、不慣れな操船の様子が目撃されていたとか
座礁して船体にヒビがあるのに直してないとか
そもそもふつうに考えて座礁するなんて「ありえない」とか。

ぼくを最先端の岬まで連れてってくれた、船の人たちは何を想っているだろう。
独り呑みの相手をしてくれて、小型船を勧めてくれた中居さんは何を。
観光アドバイスしてくれて、帰りはバス乗り場まで車で送ってくれた宿の姉さんは。

ウトロの人々がみんなで作り上げてきた大切な日々が壊れた。
ニュースではウクライナ差し置いてトップ、
首相は夜間にヘリコプターでどこかから帰ってきた。

被害者でなくウトロの人々を想う自分みて、おかしいかもしれないとも思う。
だけど、とても大切な思い出をくれた人々がどれだけ悲しんでいるのかと思うと。

コメント
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