ロマンシング獣記
二次小説です。作者の妄想をプラスしたもの、もしくは欲望を入れさせていただきました。
ご注意。猫ラブにつき、猫がある意味最強です。喋ります。二足歩行で歩きます。
ファンタジーありき。戦闘描写とほのぼのが入れ混じっております。
プロローグ
001 シノンの森で
002 リオの初陣
003 ミカエル陣営
004 北方の町ポドールイ
005 レオニード城
006 体の触れ合い、心の触れ合い(1)
007 体の触れ合い、心の触れ合い(2)
008 ポドールイの洞窟
009 ロアーヌへの帰途
010 リオの新たな冒険
011 ピドナと魔王殿
012 ミッチ救出イベント(1)
013 ミッチ救出イベント(2)
014 深窓の姫君 夢魔編―零―
二次小説です。作者の妄想をプラスしたもの、もしくは欲望を入れさせていただきました。
ご注意。猫ラブにつき、猫がある意味最強です。喋ります。二足歩行で歩きます。
ファンタジーありき。戦闘描写とほのぼのが入れ混じっております。
プロローグ
001 シノンの森で
002 リオの初陣
003 ミカエル陣営
004 北方の町ポドールイ
005 レオニード城
006 体の触れ合い、心の触れ合い(1)
007 体の触れ合い、心の触れ合い(2)
008 ポドールイの洞窟
009 ロアーヌへの帰途
010 リオの新たな冒険
011 ピドナと魔王殿
012 ミッチ救出イベント(1)
013 ミッチ救出イベント(2)
014 深窓の姫君 夢魔編―零―
「エキドナや羅刹を見た後だから、もう驚かないとタカを括っていたんだが・・・駄目だな、ここでは常識もクソもないらしい」
羅刹を倒した後、一同は更に奥へと進む。すると広い広間に出た。
階段から見下ろすと、そこには魔物がうようよと蠢いていた。妖精や悪魔系の魔物がわんさかいる。
「ニャ、きっとここには陽の光が容易には届かないから、絶好の場所なのかもね。地下へ進むほど魔物が多いや」
「太陽が届かない割には、建物の中はよく見えるんだけど」
「何かの力でも働いてるのかもしれないな」
ごもっともなサラちゃんの意見に一同は不思議がるが、まずはミッチを救出しようと思考を張り巡らせた。魔物が蠢くこの広間で、どうやって魔物に捕まらずに移動したらいいのか考えないと、進む事が出来そうにない。
「わ、私が囮になるよ」
「リオ?」
「え、やだ、何でリオちゃんが囮り役になるの? ヤダよー」
「そうだよリオ。あんたはあたし達と一緒に行動しなきゃ」
駄々をこねるサラちゃんとエレン姉さまの手にペロリと一舐めして、シャールとトーマスに向き直る。
「私が一番素早いんだよね? それに私猫だから、魔物には興味が向けられないかもしれないじゃない」
「そうだが・・・」
「やってみる!」
棍棒を背中の風呂敷に縛り付け、たかたか二足歩行で走ると小柄な妖精に見つかってしまった。私の姿を視界に納めると、ニヤリと不気味に笑い、背中の羽をはばたかせながら襲いかかってきた。
「ね、猫でも駄目だった~~」
さらに急いで逃げ回る。ここの魔物は動きが鈍いので捕まる事は無かった。
この部屋の柱の陰に魔物が潜んでいる事は、ゲーム画面越しでプレイした者なら誰でも分かる。
予測して並居る魔物を寄せ付けず、さらに調子に乗って一匹で大広間の中央を駆け抜けてしまった。
***
「・・・一匹でここまで来ちゃったよ」
さらに奥の部屋にある広間に出た。
この部屋はさすがに一匹では無謀と思うのだが、どうしてもある行為を今、しておかねばならない。
アビスゲートはさらに地下深くにあるし、またこの行為をする為だけに戻るのは愚かしいと思ったので突っ走ってしまった。
「なんかないかな・・・」
ここは骸骨だらけのお部屋だったハズ。うんうん唸ってても始まらないので忍び足で行く事に。するとまた柱の陰に隠れていた骸骨がわんさか出て来た。
「ニャオッ、猫は、猫は食べても・・・美味しくなんかないんだから」
ゼェハァ言って逃げ回ってると、扉の前まで来れたようだ。
毛むくじゃらの手をそっと当てて押してみる。
『指輪を・・・』
「よっしゃ、声聴いたらもう終わりだもんね☆」
素早く後ろを向くと骸骨達が間近に迫ってきていた。
絶対絶命の言葉が脳裏に浮かび上がった瞬間、槍技の石突きが繰り出されていた。
「シャールさん??」
「すごいなリオは。君一人でここまで来れるなんて」
「ミッチ少年はどうしたの?」
「無事に見つかったよ。と・・・話は後だ、ここから脱出する!」
シャールさんの背中におぶせてもらって、この広間から脱出した。
朱鳥術、槍術に長けたシャールさんにかかれば、その辺の弱い魔物では太刀打ち出来ないらしい。
サラちゃん達と合流した私達は、来た道を戻って魔王殿の外にまで無事に出れた。
「ミッチが見つかったのは君たちのおかげだ。本当に感謝する」
「ニャ、良かったですね!」
「ホント、リオちゃんも帰って来た事だし、よかったよぉ~~」
「リオは毎回突っ走るんだから」
「ミッチ、もう魔王殿の中まで入るなよ」
「うえーーん、ゴメンナサーーイ!」
モヒカン頭のミッチを連れて、シャールさんは旧市街のミューズさんの居る家へと帰って行った。
サラちゃんに抱き寄せられながら頬ずりされ、私達もピドナの新市街にあるトーマスの家へと向かう。
***
「今日はゆっくり食べて寝てくれ。それから、寝る前に耳に入れておいて欲しいんだが」
「ニャ? どうしたのトーマス」
トーマスの家で御馳走を頂いた。
クリームスープとホクホクの白いパン、果肉とソースを組み合わせたステーキ肉。大豆と魚の盛り合わせなどの栄養満点な食べ物だった。
皆でペロリとお皿を空にして、お風呂にしっかりと浸からせてもらったのだ。
そして今、エレン姉さまとサラちゃん、猫の私とトーマスは客間に居る。
「また後日ミューズ様の家へ行く事になったんだが、エレンやサラ、リオはどうする?」
「ニャ、私も行きたい」
「リオちゃんが行くなら私も」
「・・・皆が行くなら私もだね。暇だしいいよ」
ミューズ様が喜ぶと言って、顔を綻ばせてトーマスは部屋を出て行った。
次にミューズさんの家に行く時は、きっちり準備しておかないと!
「はぁっ、はぁっ・・・」
「おぉ、ミューズ、ミューズ、私の愛しい娘・・・どこに行くのだ」
「もう止めて、何で、ここにいるの?」
「愛しい娘、さぁ、よく顔を見せておくれ」
「や、止めて、お父様、苦しい・・・」
「・・・さま、ミューズ様! 大丈夫ですか?」
「はっ、はっ、シャール・・・?」
早朝。
窓から差し込む柔らかな光が室内を照らす。
目を覚ますと、よく見知った自分の従者が心配そうに顔を覗き込んでいた。
流れた汗により顔がべとつく。銀色の髪を優しく整えられ、あたたかな湿ったタオルでそっと拭われた。
「何か気に障る夢でも見たのですか? さぞ怖かったでしょうね、もう大丈夫ですよ」
「・・・シャール、さっき見た夢は本当に怖かったの。でも、現実には起こらない事なのよ? お父様はもうこの世には居ないし、何より私の首を絞めるなんて事は絶対にしない人だったもの!」
「承知致しております。かつてのミューズ様のお父上様なら、例えるなら貴方を目の中に入れても痛くないような可愛がりようの・・・」
「シャール、それを親バカと言うのではなくて?」
「世間ではそうも言いますね。さぁ、顔を洗って来て下さい。髪を梳かしましょう」
「・・・シャールったら!」
体を従者に寄せて、震えが止まるまで抱きしめてもらっていた。
深呼吸をし、やっと呼吸が安定するとベッドから降りる。
質素な軽めの靴を履き、一室を出て井戸のある場所へと出る。
あらかじめ溜めてあった石造りの水槽から一定量の水を樽から掬い上げると、それを両手で掬って顔を洗った。
旧市街にある水道事情は、新市街よりも設備が整っていない。
しかしシャールや旧市街に住む住民の手によって、かつてのお嬢様であったミューズに住みにくさなど感じさせる事なく過ごせる様にはなっていた。
「・・・あれは幻なのよ、お父様は、もう居ないんだから」
顔を洗い、瞼を閉じる。
すると浮かび上がるのは父の姿。
自分の首を絞め、殺そうとした悪意ある幻影(まぼろし)。そう自分に言い聞かせて、シャールの元へと戻った。
「シャール、お待たせしました」
「どうぞこちらへ。さぁ、髪を梳きましょう」
大きな鏡がある鏡台の前の椅子に座り、柔らかなブラシで梳かれる。
腰まである長い銀髪は、毎日手入れをされているので艶やかで滑らかな状態を保っていた。
「フンフンッ♪」
「おや、先程の時とは一転して、やけに嬉しそうですね。リオが来るからですか?」
「うふふっ、そうなの、サラちゃんやエレンさん、リオちゃんが来るのが楽しみなのよ」
「リオ・・・人間の言葉を喋れる猫のリオですね。彼女が来てくれると、暗い部屋が一気に明るくなる」
「あんなに可愛い猫ちゃんを抱っこするのは久しぶりなのよ。今まで動物なんて触らせてくれなかったから・・・っと、リオちゃんを動物なんて言っちゃダメよね?」
「それは・・・彼女、リオは人間くさい猫ですからね。もしかしたら憤るかもしれません」
二人して純白の猫を思い出す。
部屋の中で胡坐をかいて欠伸をし、難なく繰り出す二足歩行は、猫に人間を足したような寛ぎ様だった。
***
「ニャオー、ご機嫌麗しくておこんにちは、ミューズさんにシャールさん!」
「こんにちは~!」
「こんにちは、お邪魔するよ」
「いらっしゃい、どうぞ入って。ね、シャール」
「ああ、よく来てくれた。好きな所で寛いでくれ。ん・・・リオ、トーマスは?」
「今日は用事があるって! だから3人で来ちゃったんだよ」
姉のエレンに妹のサラ、サラに抱き寄せられた純白の猫リオ。女の子三人がミューズ邸を訪れていた。
近所に住む少年ミッチを魔王殿から共に救出した一件以降、一時であるがパーティに加わり戦闘するなどしてから親しくなった。
「ニャ、これはもしや猫じゃらし!」
「うふふ、サラちゃんから聞いて、シャールに用意してもらったの。い、良いかしら、リオちゃん・・・」
「ふぬぬ、良いも悪いも、これを見た後で猫の本能が止まらニャ・・・ぬがぁっ!」
決して広くはないし煌びやかでもないが、それでも室内の空気は穏やかで温かみに満ちていた。
主でもあるミューズは、普段の病床にも負けない気概で、一心不乱に猫じゃらしを振り続ける。旧市街に来てからの、今まで一番楽しそうな表情を見せていた。
この穏やかな時が一生続き、主の体が健康であれと、シャールは願わずにはいられなかった。
「ふー、ふー、ミューズさん、なかなかやりますニャ・・・」
「はぁ、はぁ、リオちゃんこそ、可愛い顔して俊敏な動きをするわね・・・」
「ミューズ様、リオちゃんは私達と一緒に冒険してきたんです。だから普通の猫よりもっと素早く動けるんですよ?」
妹のサラが身を乗り出し、リオの顎をゴロゴロと擦り出す。
白い猫は気持ち良さげに身を委ねていた。
「まぁ、そうなの?」
「私達よりも早く動くよ。ねぇ、リオ?」
「エレン姉さまに褒められると、照れますニャ~」
サラの姉・エレンに褒められ猫の体をもじもじ、右手で頭をかいて照れ隠しをする白い猫リオ。人間くさい彼女こそがトーマスら含めたパーティの要だと、シャールは瞬時に悟った。
「リオちゃんは良いなぁ、私も一緒に冒険してみたい」
ミューズはうっとりした表情で外への想いを馳せる。
リオを見ると木漏れ日の中から覗く太陽を思い出す。きっと激しく運動しても体に支障はないと思えるくらいに。
「ニャ、ミューズさんもいつか外へ行けるようになるよ!」
「もしそうなったら連れて行ってくれる?」
「そうだね、シャールさんの許可を得てからかなぁ」
「シャール・・・」
「はい、そこまでです。ミューズ様はまだ外へはお連れ出来ません」
ミューズのおねだり眼力を跳ね除けた従者のシャールは、薬の時間だと言ってミューズに薬湯を用意した。無臭なのか、緑色でドロりとしている。
「シャール、今日のところは引き下がるわ。でもいつかは・・・ね?」
「ミューズ様、分かって下さい。お願いします」
普段はあまり感情を露わにしないシャールの困り様に、リオを含めた三人は一様に目を丸くした。結局のところ、シャールはミューズに弱いのだと決定付ける事にしたのである。
***
「ニャオッ、それでね、ガウラッていうカイナがお馬鹿でどうしようもないKY(空気読めない)なんだよ」
「プククっ、リオちゃんの話って面白い! でも動物って、普通は空気を読むものなのかしら?」
「はて、読むのではないでしょうか」
小首をこてりと傾けて疑問していると、リオの後ろからサラが力強く抱きしめて頬ずりしていた。サラ曰く、今の動作は究極の萌えに入るらしい。
「リオ、野生の勘の事を言っているのか? それとも場の空気を読めない、そっちの意味で言いたかったのか」
「そうそれ、場の空気が読めないオスの獣だったの!」
「リオちゃんは、そのガウラが大好きなのね」
「ニャ――?」
楽しいお喋りの時間は過ぎ、時は夕刻を迎える。
緋色の温かな光が窓から暗い部屋を照らしている。
そろそろミューズ邸からお暇しようかと、女三人は身支度していた。
「楽しかったよ、ミューズさん! また明日来ても良いですか」
リオを抱き締めてまた来てほしいと、三人に言う。
こんなに大勢のお客は本当に久しぶりだった。
さよならと手を振り返すリオ達と、入れ替わりに入って来たのはミッチの遊び仲間の少年だった。
少年を中に招き入れ、いつもの楽しい夜は過ぎる――しかしそれは、安寧とは間逆の始まりを告げる序章に過ぎなかった。
扉を押し開けると、そこには湿っぽい匂いが立ち込めていた。
ステンドグラス風の色をした窓からは少しの陽光が入り、床や通路を少しだけ照らしている。わりと視界がはっきりするので心底安心した。
「シャール、この広い建物の中をどうやって捜すんだ?」
「うむ、少しずつ奥へ進んでミッチを捜すしかないだろう」
「あっ、ねえ、先にこっちの道を進んででみようよ」
「リオちゃん、先に行っちゃダメだよ」
剣を持ったトーマスと体力の高いシャールさんを前衛に、一同は右側の奥にある暗い部屋へと入る。
後衛は猫の私、エレン姉さま、姉さまの妹サラちゃんでしっかりと組み込まれていた。突き進むと、一つの小さな部屋を見つける。
「・・・何だこの部屋は?」
「真ん中の床に小さい魔方陣があるね」
部屋の中に一同入る。
エレン姉さまが近づいた時、魔方陣の中の空間がいびつに歪んだ。
オォォォォ・・・
「な・・・なんだ?」
「! エレン、下がれ、早く!」
「え? うん」
シャールさんの焦った様な掛け声に、一同緊張が走る。
エレン姉さまが後ろへ下がり距離を取ると、魔方陣の中から人が現れた。両手を床につき、座り込んで身動きが取れないらしい。
「わっ、裸の女の人がいるよ。何か様子がおかしくない? 早く助けてあげなきゃ――」
「ばかっ、サラ、あいつの下半身をよく見ろ」
「え?」
サラちゃんが女の人に近づく前に、トーマスが素早く止めに入る。
人間にはあるはずがない蛇の胴体がくっついていた。
瞳は縦筋となり、舌がチロチロと出て、今にも襲いかかりそうな形相に様変わる。
「ギャオォォォッッ!」
「ひっ、な、な、なにあれ・・・怖い」
「妖精系に属する蛇、“ エキドナ ”だ。あいつに捕まるとまず生きては帰れない。
こちらに近づいて来れないのは、あの魔方陣を守護しているか、はたまた封じられてるかのどちらかだろう」
「むやみに近づけないな。仕方ない、別のルートを探るか」
「行くよ、リオ!」
エレン姉さまに「うん!」と返事をしてこの部屋を出る。
シャールとトーマスに促され、私達はまた一からのスタートになった。
***
獣人や骸骨系の比較的弱いモンスターと戦いつつ、長い長い階段を皆で下る。
細い通路に差し掛かった時、一匹の強面(こわもて)の鬼が徘徊していた。
山羊に似た形の角に、耳まで裂けた大きな口、筋肉が盛りあがった体、背中には悪魔のはねが付き、二足歩行でのしのしと歩いている。
「ここまで来て羅刹とは・・・」
「この五人で勝てるかどうかだな」
「ニャ、私も頑張るよ!」
奮起して戦う意思を表示。
シャールは苦笑いし、トーマスは頭を撫でてくれた。
「よし分かった、この中で一番素早いのはリオだ。お前の脳天割り、期待してるぞ」
「任せてちょーだい!」
みんなの歌プリーズ!! と叫びながら羅刹に突っ込む。何の事やらさっぱりらしい面々は反応してくれなかったが、即戦闘に入りこめるように各々配置していた。
「脳天わ――っ?」
高い身体能力を生かし跳躍すると、羅刹の頭めがけて棍棒を振り下ろす。
「ポコンッ!」とおかしな音がしたが、豪腕な腕で防御されてしまった。 羅刹が攻撃へと転じる前に、後ろへ素早く跳び下がる。
皆の期待を無碍になんてしたくないので、何か良いアイデアは無いかとちっぽけな脳みそを回転させた。
「リオッ! くそっ、これでどうだ!」
剣技・十文字斬りを叩き込むトーマス。
羅刹はトーマスの攻撃に怯みはしたが、トーマスの剣を持つ反対側の手を掴み、ここぞとばかりに大口開けて火炎を浴びせてきた。辺りは熱気が籠り、熱さがこちらまで伝わる。
ゴオォォォッ
「グアアアアッ!」
「いやぁぁぁ、トーマス!」
「トーマス! このっ、トーマスを離せ・・・!」
いきり立ったエレン姉さまの右足に稲妻がほと走る。
モンスターとの戦いで先程習得したばかりの稲妻キックを、羅刹の頭に強く叩き込んだ。
ふらふらとよろめいてる間に、上半身に大火傷を負ったトーマスを羅刹から引き剥がすと、シャールの近くまで移動する。
「炎を塞ぎ、我らを援護せよ、ファイアウォール!!」
朱鳥術を発動させたシャールが炎の壁を作る。
炎の攻撃を和らげる効果を持つ壁が、一時だけ火炎攻撃から身を守ってくれた。その間に、サラちゃんが傷薬でトーマスの傷を回復するが全回復とは至らない――急がなければ!
「ニャオー・・・閃いた!」
ピコ―ンと頭の上で電気が光り、またまた羅刹に突っ込んでみる。
高く跳躍し、ある技を繰り出した。
「リオ専用・かめごーら割り!!!!」
防御した腕に接触した瞬間、羅刹の体に異変があった。
膜のシールドが体全体を覆い、ピリピリと音が鳴って力を奪う。奴の防御力を大幅に下げる事に成功したようだ。
私が容易に扱えたのは、身体能力だけしか下げれない未完成の技だ。大技なのに致命傷を与える事は出来なかった。
「サラちゃん、お願い!」
「分かった! ――混倒滅殺・イドブレイク!」
膝を床に付けて立ち上がった所を見逃さず、一瞬動きの鈍くなった羅刹の腕に弓矢を打ち放つ。混乱しているのか、こちら側に攻撃してこなくなった。
「リオ、行くぞ!」
「うん!」
シャールに相槌をうち、羅刹との間合いを一定の距離で取る。
彼は槍を持ち、私は棍棒を両手に持って二人一緒に時間差攻撃を繰り出した。陣形技の一つ、エックス攻撃だ――!
「グオォォォォォッッ!」
「やったね、シャール、リオちゃん!」
「ああ」
「ニャ!」
雄叫びを上げて地に倒れた羅刹を見て、一同はやっとひと心地つく。
トーマスの上半身火傷が酷かったので、ポドールイの洞窟で手に入れた生命の杖で回復した。
杖を持ち、治れと念を込めると、緑色の淡い光がトーマスを優しく包み込む。
「・・・ん? あ・・・リオ?」
「トーマス、大丈夫?」
「・・・もう死ぬかと思ったよ」
トーマスが体を起き上がらせると、サラちゃんとエレン姉さまは泣きながら喜んでいた。
シャールさんがトーマスを立たせて、先の事を話しだす。少年ミッチの居る場所へ辿り着かねば、魔王殿を出るわけにはいかないと渋い顔で言いだした。
「オレはもう大丈夫だ。リオの回復技のお陰で体に支障はない」
「悪いな、ミッチ救出が優先なんだ」
「私達もそのつもりで来たんだから、謝らないでよ」
「そうだよ、もうちょっと先へ進まなきゃ!」
エレン姉さまが諭し、サラちゃんも元気よく言って男性二人の背中を押し出した。ミッチ救出まで後少し――
猫の私リオ、麗しのエレン姉さま、その妹サラちゃん、眼鏡を掛けた紳士トーマスはロアーヌにある、港町ミュルスから世界最大都市のピドナへとやって来た。
ピドナには新市街と旧市街があって、“魔王殿”と呼ばれる観光名所まである。それをウリにして客を呼ぶくらいなんだから、ここの市民の人はそれ程不安には思ってはいないのかもしれない。
「おいしっ! この町名物のピドナまんじゅう、なかなかイケますな♪」
まんじゅうの表面に、想像された魔王の絵が刻まれている。口が開いた可愛いドラゴンの絵で、押印されていた。
「それは良かった。ほら、エレンもサラも温かい内に食べなさい」
新市街にあるパブに入って、猫の私がマスターにまんじゅうを頼み込む。猫が喋っているのを見たマスターは、驚きの表情で私を見たが今はもう普通に接してくれる。トーマスに人数分のお金を払って貰い、テーブルで食べる事にした。
「ありがと、トーマス。はい、お姉ちゃん」
「有り難く頂くよ。ムグ・・・美味しい。でも、よくリオはピドナ名物の事を知ってたね。前にもここに来た事あったのかい?」
「むぐぐっ・・・!」
エレン姉さまに痛い所を突かれた。私、ここから遠い所から来た事にしてたのに!
皆より先に前に出て、パブの場所に一番乗りし、名物のまんじゅうまで強請(ねだ)ったんなら、ここに精通してなきゃおかしすぎる。やべっ、自分で墓穴掘った!
「えっと、えっと、わ、私猫だから、鼻がよく利くんだよ。この場所から、美味しそうなまんじゅうの匂いが外まで漂って来たんだよ」
「そ、そうなのかい?」
椅子に座った私の白い背中をゆっくり撫でて、飲み物を渡してくれるエレン姉さま。温かいフルーツティーを飲み、サラちゃんに抱き上げられてパブを出る。新市街にあるトーマスの家に寄せて貰い、おじいちゃんに出迎えられて部屋へ案内され、ヒト心地つく。
「俺、ちょっと用事があるから皆はここで休憩するなり、観光でもしたらいいよ」
「えっ、トーマスどっか行くの?」
「直ぐに帰ってくる。暇ならピドナを観光しても良いし、旧市街にある魔王殿を見に行ったらどうだ?」
トーマスはそう提案して、自分の家から出て行った。残された私達三人は、お互いの顔を見合わせる。
「だってさ。サラはどうする? ピドナを見て回る?」
「ううーん。“魔王殿”なんて、怖そうな所にはあんまり行きたくないけど・・・リオちゃんは如何したい?」
「あっ、あのっ。私、魔王殿の中を見たいっ! お願いエレン姉さま、サラちゃん!」
二人に頭を下げて頼み込む。ロマサガ3に来たら、是非とも見たい名所トップ5に入ってる。
一位はレオニード城、二位は海底宮、三位は聖王廟、四位は雪の町、五位が魔王殿。どの場所へも、比較的強くならないと話にはならない、猛者が揃う場所ばっかり。奥まで行くのは諦めるから、せめて雰囲気だけでも味わいたい。
「じゃあ、レッツゴーしよっ♪ さあ、お姉ちゃんも!!」
「サラッ! もう、あんたは何時からこんなに積極的になったんだか・・・」
「あっ、ありがとう!」
サラちゃんに抱き込まれ、トーマスのおじいちゃんにその事を告げると、三人はトーマス家を出る。
***
傷薬と技の香薬を補充して、道具屋を出るとトーマスの後姿を見つけた。何処へ行くのかとこっそり後をついて行き、階段を下ると新市街とは別の、古びた街並みに出て来た。
「新市街とは全然違うね・・・もしかして格差があるの?」
「本当だね。同じピドナなのに・・・」
汚れの目立つ石の壁、一部の地面を泥水が占め、覇気の無い人達が行き交う。
着ている服はお世辞にも身綺麗とは言えなくて、思わず自分達を省みる。三人で驚きつつ、トーマスを尾行しているとボロボロの家に着いた。古びた扉を押し開けると・・・
「お、おコンニチハ」
「誰だ!」
「りっ、リオ!? エレンにサラまで・・・あっ、俺の仲間なんです」
「まあ、可愛いお客人だこと。こちらへいらっしゃって下さいな」
広い部屋にこじんまりとしたベッドが一つ。美人な女の人がベッドの上の背もたれに体を預け、歓迎してくれた。傍に居る男の人は警戒心を解き、トーマスの仲間だと聞くと表情を和らげてくれた。
「名前はリオでっす! 何でか猫やってます。得意な事は肩たたきでっす!!」
「私はエレン。得意な事・・・腕相撲かねぇ」
「妹のサラです。好きなモノはリオちゃんです! 三度のメシより大好きです♪」
「ニャ・・・!(私モノ扱いされてる!)」
サラちゃんに抱き込まれた状態で、各々(おのおの)自己紹介をする。
三度の飯より・・・多分冗談で言ったと思うけど、本気にも聞こえるのは今までの行いを見て来たからに違いない。サラちゃんが私に頬ずりする所を見て、女の人は笑っていた。
「私はミューズと言います。是非、私の友達になってください」
「俺はシャール。ミューズ様の助けになってやってくれ」
目に涙を浮かべ、笑っているミューズさん。今は弱弱しいけど、暫くしたら絶対治ると私は確信してる。部屋の中は質素で、床にも穴が開いてるしボロボロだけど、ほのぼのとした空気に和みつつある時、ドアが勢い良く開かれた。
「大変だよ~、ミッチが、ミッチが!!」
「ミューズちゃまぁぁ!!」
男の子と女の子が部屋に慌てて入って来た。シャールさんが傍に駆け寄って、彼らに目線を合わし、話を聞き出そうとしている。
「ミッチがどうした?」
「かくれんぼして、もう帰ろうって言ってるのに、全然出てきてくれないの。皆で捜しても見つからないんだよ・・・」
うわあーーん! と泣く子供二人に、ミューズさんが慰める。立ち上がるシャールさんに、縋る目を向けた。
「シャール、お願い・・・!」
「分かりました。ミッチを捜してきます」
「わ、私達も行きます」
毛むくじゃらの白い手を上げ、シャールさんに意思を告げる。ここに居るトーマス、エレン姉さま、サラちゃんも勿論ついて行く気は満々だ。五人で家を出ると、目的地の方向へ足早に進みだす。
魔王殿観光改め、ミッチの救出イベントが始まった――
ミッチという男の子を捜す為に、シャールさん、トーマスと合流した三人は魔王殿の入口へと繋がる通路を歩く。少し高い位置にある入口の扉へは、距離のある坂道を足早に駆け上がった。
「シャールさんは、以前も魔王殿に来た事があるんですか?」
前を走る灰色の髪の彼に、至極当然な質問をさせて貰った。幾ら私がゲーム画面で内部を網羅したと言っても、実物を間近で見れば戸惑う。やっぱり中に詳しい人が居れば、少年ミッチを捜すのも楽だ。
「昔、腕を上げる為にここで訓練した時がある。ただ、そんなに奥までは行かなかったんだが」
「魔王殿は冒険者にとっては格好の良い場所だよ。腕試しに内部に入る者がいる位だからね。しかし、最深部までは誰も辿り着けないんだ」
「な、何でなの?」
シャールさんが答え、眼鏡紳士トーマスの補足にサラちゃんが不思議がる。エレン姉さまも興味津々と言った顔で、耳を傾けている。眼鏡を押し上げ、魔王殿の事を語ってくれた。
「噂によると、ある一定の場所にある扉の前でどうしても先に進めないそうだ。トレジャーハンターと呼ぶ、宝を探す連中が愚痴っていたと言う情報を、パブのマスターから聞いたんだ」
「ふーーん、ややこしいんだね」
実を言うと、今回の私の第二の目的はそれでもある。でも、今の皆のレベルだと、多分一筋縄ではいかないかも・・・しかも、少年ミッチが居る場所って、進む事が出来ない場所よりも手前にいるんだもん。シャールさんが居る時、出来れば一緒について来て欲しいんだけどな。
「着いたぞ。ここが魔王殿の入口だ」
「キタ――!」
空を見上げると何故か雲が黄土色・・・って、どっかの居城を思い出した。デンデロデンデロと、効果音がバッチリ聞こえそうだ。勿論、実際にはあの音楽は聴こえ無くて、モチベーションも下がるけど。
「リオちゃん、今度も先に一人で行っちゃ駄目だよ」
「そうだな。リオは、暴走する特徴がある」
「手を握っとかないとね。ね、リオ?」
「う、うん!」
シャールさんを除いた三人から、お説教されつつ魔王殿のデカイ扉を開けて中に入る。とりあえず、サラちゃんの後ろを歩く事にし、一同は内部に入り込んだ。
ロアーヌ山脈に朝陽が昇る。
私を入れた七人は、ロアーヌ奪還から宮殿で一夜を過ごし朝を向かえた。軽い朝ごはんを食堂で頂き、謁見の間でミカエルさんにこれからどうするかと談笑してたんだ。そこへ――
「カタリナッ! どうしたの、その髪・・・?」
一人の女性が瞳に決意を表し、ミカエルさんの居る玉座まで進みだした。
目を見開き絶句したモニカちゃんが驚いたのは、彼女の腰まであった紫色の髪が首元までばっさりと切り揃えられていたからだ。
和やかだった空気が一転、静寂が部屋を支配する。
「・・・ミカエル様、マスカレイドを盗まれました。本来なら自害するのですが、今一度、取り戻す機会をお与えください」
私を入れた七人は、玉座に近づく彼女の言葉を静かに聞く。ビロード調のドレスを脱ぎ捨て、今着ている服装は既に旅人が着る様な服だ。
彼女の好きな色なんだろうか、髪の色と揃えた薄紫色の上下服にマントと一本の大剣は、これからの旅立ちを意味するいでたちだ。床に片膝を付き、ミカエルさんの返答を待っている。
「その髪は決意の表しか・・・良いだろう、無事に取り戻してみせよ」
「ありがとうございます。では――」
「しかし、お前ほどの人物に取り入るとは・・・どうやって盗まれたか聞いてもいいか?」
「・・・それだけはっ」
「言いたくないのならそれでいい。取り戻して来るまではロアーヌに帰途する事は許さん」
「はっ、無事に取り戻して参ります」
「カタリナッ」
颯爽と謁見の間を出るカタリナさんに、モニカちゃん以外は誰も言葉を発する事が出来なかった。
「ニャ・・・」
心にポッカリと穴が空いた気持ちになるのは何でだろう?あんなにロマサガ3が好きで、イベントを見るのも楽しみにしてたのに。実際間近で見ると、自分の力無さに虚しさが込み上げてきた。
「リオちゃん、元気出して。カタリナさんには、きっと何か事情があったんだよ」
「元気出せよ、お前が元気無かったらこっちまでヘコんじまうんだぞ」
「サラちゃん、ユリアン・・・」
テーブルにユリアンとトーマス、エレン姉さまとサラちゃん、そしてサラちゃんの膝の上に座った私と、カウンターに座っているハリード。
モニカちゃんと別れた六人はロアーヌにある港町、ミュルスで船の出港を待つ為に少し時間が余ったので、パブでこれからの話をしていた。
「俺さ、ロアーヌの騎士になってモニカ様を守るんだ! 皆元気で暮らせよっ、じゃあな!」
「!」
「ユッ、ユリアンッ!」
ユリアンのお馬鹿めっ!
エレン姉さまが好きだった筈なのに、モニカちゃんを追いかけやがった!! 案の定、斜め向かいに座ってる姉さまは額に青筋付けてるっ!
「エレン姉さま・・・」
「お前達はこれからどうするんだ?」
後ろから声を掛けて来たハリード。
空気読もうよ。今エレン姉さまに近づくとやばいって事に。
「リオ、お前はどうするんだ?」
「へっ、私・・・?」
おおっ、皆の話が先に進むのを待ってたんだけど、コッチに飛んできたか。
昨日の夜からずっと考えてたんだ。ロアーヌを奪還する事に成功した後は、きっと皆バラバラになるって。一匹で旅するなんて無謀な事は出来ないし、大好きなエレン姉さまについて行こうと考えてた。
「お前さえ良かったら、一緒に俺と旅をしてみないか」
「私、エレン姉さまについてこうと思っ「リオちゃん!!」・・・げふっ」
私の言葉を遮って、サラちゃんが力強く抱きしめて来た。頬にすり寄せてくる行為は、この世界には居ない守護獣ガウラを思い出す。
「リオちゃんも、私とトーマスと一緒にピドナへ行こうよぉ」
「サラ、リオの意見を聞かないと駄目だろう? リオ、君はどうしたいんだ。勿論俺もサラと同意見で、一緒に来てもらえると日々が楽しくなりそうだ」
「・・・リオ、私も大歓迎だよ。あんたとの旅、面白そうだもんね」
「み、みんなぁ」
おおお、四人に誘われとる・・・!
金の瞳からじわりと涙が出そうになり、もじもじして、サラちゃんを見上げる。すると彼女は笑ってくれた。
「猫だけど、改めて宜しくお願いします!」
「宜しくね、リオちゃん。一緒に楽しもうね♪」
「うーん、リオが行くなら私もピドナへ行こうかな」
「俺はパスな。お前達と別れるのは名残惜しいが、しょうがないか」
「ハリードは来ないのか?」
「俺はランスにでも行くよ。聖王廟にでも寄ってるから、近くまで来たら声でも掛けろよ。じゃあな」
サラちゃんの歓迎に、エレン姉さまも共に来る事になった。
トーマスの問いに、ハリードは別行動をすると皆に告げる。膝の上に抱き込まれてる私の頭を撫でて、彼はパブから出て行った。
さよならなんか言わない。
だって、また会えるもん。
私がこの世界に居る限り――
イレギュラーな存在の私がここに居るだけで、既に物語は変わっているのだ。別行動をするエレン姉さまだって、本当はハリードと一緒に聖王の子孫が居るランスへ行く筈だったんだ。でも彼女は私達と一緒に行動してくれるみたいだし。
「マスカレイド・・・聖王遺物」
「リオ、マスカレイドってカタリナさんが言ってた物か?」
「うん。確か小剣で“ウェイクアップ”って言う技を出したら大剣になる、世界に二つと無い優れ物だったと思うよ」
博識のトーマスが、私の呟きにいち早く反応した。
聖王遺物を得る為に、何者かに強引に奪われたり罠を仕掛けられたに決まってる。カタリナさんも、それに引っ掛かってしまっただけなんだ。
ゲーム画面では絶対に会う事は無い、カタリナさんとだって運が良ければまた逢える。私の行動次第では、普通は仲間になれない人がメンバーに加わってくれるかもしれない。それを考えただけで、胸がわくわくと躍りそうだ。つまり、もう私の冒険は始まったも同然。
「さっ、もう時間だよね。港に行ってみようか」
「うんっ!」
「リオ、あんたは船酔いするからねぇ・・・船酔いの薬も買わなきゃね」
「道具屋に寄って、それからピドナへ行くか」
ガウラの世界にはまだ帰れそうもないみたいだ。これが夢落ちじゃなきゃ、ガウラにお土産持ってくのになあ・・・私、猫の姿でロマサガ3を充分堪能するからねっ! ちょっと寄り道するから女神(エリーちゃん)、フォロー頼むよ!
ポドールイの洞窟を攻略した後、一同はまっすぐポドールイの町に戻る事になった。
魔物との戦闘で傷ついた体を宿屋で回復させて、雪の降り積もる居城に難なく行ける様になった私達は、早速城内の通路を皆で通る。突きあたりの大きな窓がある場所まで来ると、レオニードさんが椅子に座って待っていた。
「朗報があるよ。ミカエル侯は無事に反乱を鎮圧する事に成功したみたいだ。早速ロアーヌに戻ると良い」
「お兄様が・・・そうですか。レオニード様、ありがとうございました。これからロアーヌへ向かいます」
モニカちゃんが貴族らしくお辞儀して、私達を促す。
皆が先に出口を繋ぐ扉へ歩き出している時、私は振り返って彼に近づき、この城にまた来て良いかと窺ってみた。
「レオニードさん、またこの城に遊びに来ても良いですか?」
嫌と言われてもまた来るけどねと、心の中でほくそ笑む。許可云々より、要は声をかけとけば怒られないだろうと企んだ。この城の地下の攻略もいつかしたいし、仲良くなればベッドやトイレ、お風呂も借りれる。したたかに生き抜く為だ。お釈迦様も許してくれる・・・あっ、この世界の亡霊で確か仏像もどきの魔物もいたっけな・・・。祈ってもムダだった!
「ニャオォォ・・・神も仏もない、罰当たりな世界だったのか」
「フフ・・・面白い事を言う。いいよ、またと言わずにいつでも来ると良い。君なら大歓迎だ」
立ち上がり、頭を抱えて悩んでいる私の傍まで来ると優しく抱き上げられる。吸血鬼特有の美貌を持つ、美しい顔の位置まで高く上げられると、こう告げられた。
「神聖な色を纏う純白の猫リオ、君が放つ微々たる闇に何処まで気付いているのか・・・」
「えっ・・・?」
「またおいで」
薔薇のほのかな香りが、私の鼻に微かに広がる。
額に口付けされて、いつの間にか雪が降り続くお城の外に居た。鼻先に当たる冷たい雪が、惚けた意識を現実に引き戻させた。
「さっ、さぶいっ、ブファックシュ!!」
その後ユリアン達が来て、一同は興奮と驚きに包まれる。
「外に出たらリオちゃんが居ないから、中へ一旦戻ったんだよ! レオニードさんに聞いたらもう外に居るって言うし・・・驚いちゃった」
「私も驚きました。外と中を繋ぐ通路は一本しか無いのに、私達に姿を見せる事無く外へ出たんですもの。不思議です」
「リオはホントに凄い猫だな。喋れるし、戦えるし、二足歩行できるし!! 大したもんだよ」
「城の扉が勝手に開く所から、考えるのを止めたんだ。今更どうにも言わないけどな・・・」
「リオッ、あんたはいつも急に居なくなるから、心配ばっかりさせて! でも見つかって良かったよ・・・」
サラちゃん、モニカちゃん、ユリアン、トーマスの順で心配された。
エレン姉さまにも強く抱き込まれ、しばし反省。移動した本人が一番よく分かってないんだから、皆に分かるわけない。彼らの優しさに触れて、皆でロアーヌへ戻る事になった。
―― ロアーヌ ――
ロアーヌ地方にある港町ミュルスから、ミカエルさんが治める城下町にやって来た。
町はミカエルさんの武勇伝で賑わっていたから、外で喋っていたおばさん達に事の成り行きを聞いてみた。ロアーヌ侯家の血縁でもあるゴドウィン男爵が、ミカエルさんのお父さん、フランツさんを暗殺した時から遡るらしい。
自分が玉座を持つ地位を狙いたいが為に、今回はモンスターとも協力してロアーヌを占拠した。それも、当主のミカエルさんが魔物の討伐で遠征して居ない時を狙ってだ。このタイミングの良さに、頭が切れるミカエルさんは疑問を持ち、ゴドウィン男爵が実行に移すまで動向を泳がしていたみたいだ。
予想が的面とはいえ、内部にいる部下からの裏切りに苦い思いを与えられたらしいが、最終的に反旗を翻してゴブリン軍団を奇襲したため、ロアーヌ軍にも戻れたと言うドラマをおばさんは片っぱしから喋る。熱が冷めるまで、暫くこの話題がロアーヌで持ちきりになるだろう。
モニカちゃん決死の逃亡が、功を成したのもある。
反乱の旨を聞いたミカエルさんが迅速に対応し、町に居る魔物も倒したんだ。見事にゴブリン軍団と、ゴドウィン率いる兵士達を退けた後、ミカエルさんとハリードは首謀者のゴドウィン男爵を退ける事に成功した。
「モニカ姫がご無事で良かった。あたしゃ、それが心配でねぇ」
「わしもじゃ。もうあの美人兄妹が見れなくなると思うと、心残りで死んでも死にきれんわい!」
「おばさん、おじいさん。心配してくれてどうもありがとう・・・」
「モニカ様・・・」
おばさんとおじいさんと別れ、ユリアンがモニカちゃんの背中を押して宮殿へと一同歩く。城下町よりも高い位置に建てられているから、見張り台から町やミュルスを一望できる造りとなっている。石造りの宮殿の中に入らせて貰い、少し進むと見知った顔を見つけた。
「ハリード!」
「よう」
玉座へと続く扉の近く、腕を組んで壁に寄り掛かっていた。アジアン風味の服を着て、曲刀を腰に引っさげるその姿は以前見た時と変わらない。思わず駆け寄って背中に跳び乗った。
「どうしたんだい、こんな所で?」
「おっさんの事だから、きっとミカエル様にがめつく交渉してると思ったよ」
紳士トーマスと、エレン姉さまが笑いながら喋りかける。皆の顔も晴々してるし、この一件がちゃんと落着したという事が伝わって来た。
「皆を待ってたのさ。さあ、中に入るぞ」
しがみ付いた私を背に乗せたまま、ミカエルさんが待つ玉座へと歩いた。
***
「この難局を乗り切る事が出来たのも多くの者達のおかげである。特にハリード、トーマス、ユリアン、エレン、サラ、リオ。お前達は私の家臣でもないのに良く働いてくれた。ロアーヌを代表して礼を言う」
玉座の前に佇んでいたミカエルさんが、私達に感謝の意を込めて答えてくれた。
猫である私はハリードにおぶさり、他の皆は横に並んで連ねられる言葉を聞いて行く。
上の人を敬う様な立ち振る舞いは皆も分からないので、本当に並んで立っているだけだ。モニカちゃんは、いつもの旅装束姿ではなく正装した姿で、もう一人手前で佇む髪の長い女の人と一緒に、ミカエルさんの一挙一動を見ていた。
「まぁ、当然だ「イイってことよ!」・・・ふぐっ」
「リオちゃん・・・」
ハリードの肩から顔を覗き出して、猫の手で口を塞ぐ。いつものがめつい発言を遮ってやった。
懐が広いミカエルさんは、それでも恩賞を取らせてくれるみたいだ。正装したドレス姿のモニカちゃんが皆にお礼を伝え、最後は談笑に浸る。
*****
ゴドウィン男爵から無事にロアーヌを取り戻したお礼も兼ねて、ミカエルさんが私達をロアーヌの宮殿で泊まらせてくれる事になった。勿論夕ご飯もご馳走になって、祝杯を挙げる兵士の人達と笑い合う。
「イッキ、イッキ!!」
「プハァァ〜〜! 」
「いよっ、猫のお嬢ちゃん、威勢がイイネッ」
「猫舐めんなよ! 何でも飲めるよっ」
毛むくじゃらの左手を腰に当て、ジョッキの手で持つ部分に右手を突っ込んでオレンジジュースを一気飲み。ポッコリと出た白いお腹を撫でて、座っていた椅子から降りて床にごろ寝する。
食堂の一室を借りての祝杯は、宴たけなわだ。料理人さんが忙しそうに食べ物を作り、侍女さんも兵士の人達にお酒を注いでいる。無礼講のお祭り騒ぎに、ハリードやミカエルさんも楽しくお酒を飲んで、ユリアンとトーマスはお肉料理にかぶり付き、モニカちゃん、エレン姉さま、サラちゃんがデザートを食していた。
お腹を上にしてそのまま寝そうになった時、近くに誰かが寄って来た。
「白い猫? 私はカタリナと申します。この度はモニカ様の助力に貢献してくれた事、真にありがとうございます」
「えっ、あっ! 私はリオって言います。私の方こそモニカちゃんに助けて貰う事もあったし、そんなに大した事はしてないんですが・・・」
しゃがみ込み、視線を合わせて感謝の言葉を告げられる。
紫色の長い髪を纏め上げ、しっとりしたビロード調のドレスが彼女の美しさを引き立たせる。彼女に近付いてみたくて、白い手を伸ばしたら横から抱き上げられた。
「リオちゃん、彼女は私の侍女のカタリナで、剣の腕前も一流なの」
「よろしく、リオ様」
「猫ですが、よろしくお願いしまっす!」
モニカちゃんに抱き上げられた私は、大人しく彼女たちの話を聞く。カタリナさんは、モニカちゃんが居なくなった後に裏切った大臣さんに牢屋へ閉じ込められていた。けれど、隠し持ってた牢屋の鍵で外へ出たらしい。
ゴブリン軍団を退けたハリードとミカエルさんの二人と合流して、玉座に居るモンスターを引き連れた親玉を無事に退治したと教えてくれた。その代わり、取り逃がしたゴドウィン男爵の行方が知れないとも言っていた。
「ゴドウィン男爵は捕まらなかったんだね」
「そうです。奴をこの王宮から遠ざける事に成功はしたのですが」
私の言葉に、モニカちゃんとカタリナさんは浮かない顔だ。
そりゃそうだ。悪の根源を正すか絶たないと、いずれまた何処かでチャンスを伺ってるかもしれない。私はこの後何が起こるか分かってるから、ここで彼女に忠告した方が良いのか迷ってる。
「ニャオォォ・・・」
「リオ様、今日はごゆるりとお休みください。では、これにて失礼します」
「カタリナも、ゆっくり休んでちょうだい」
「ありがとうございます、モニカ様も疲れた体を癒して下さい」
迷ってる間に、カタリナさんが食堂を後にした。
モニカちゃんに連れられて、エレン姉さまとサラちゃんの場所へ戻る。そろそろ寝る頃だと言うと、女の子四人、同じ部屋で寝ようかと言う話になった。
「リオちゃんはこっちです!」
「こっちで寝るの!! モニカ様はドでかいベッドで寝るんだから良いでしょ?」
「だったらサラさんが私のベッドで寝れば良いんです! さあ、どうぞ」
「モニカちゃんはお姫さまなのに、床で寝かせるわけには行かないよ・・・」
モニカちゃんの部屋で寝るには良いが、肝心のベッドが無い。
ベッドが無いから絨毯の上で毛布を敷いて、そこで私達三人は固まって寝ようかと話し合っていたんだ。
彼女達の睨みあいの最中、エレン姉さまはもう毛布の上で寝かけている。静かに動いて、彼女の傍で丸くなって眠る事にした。そこで見た夢は、私が元気にロマサガ3を冒険している姿だった。
レオニードさんにポドールイ近辺が載ってる地図を貰い、皆で洞窟に向かう事になった。
冒険とは名ばかりの、早く言えば時間潰しの為に勧めたんだろう。
「・・・あれ?」
「どうしたんだ、リオ」
ユリアンの手に持つ地図を、下から手を伸ばして引ったくり、上から下まで眺める。レオニード城とポドールイの町、それから洞窟の場所がある所しか印を付けられていない。
やっぱり地図には他の町の名前が載ってなかった。
船で訪れたり、情報を聞いて、イベントで通過しないと町やダンジョンには行けない仕組みになってる? 無駄な所まで忠実にしなくても良いのに・・・これは、本格的に冒険をしろと言うエリーちゃんの思し召しか。
「マッチョじゃないけど、色々と鍛えて棍棒の達人になってやる!!」
「マッチョ? リオちゃんのマッチョ、あんまり好きじゃないかも」
サラちゃんに抱き上げられて、皆で城を後にする。
鷹(ヘルダイバー)や翼手竜を何とか撃退して、狭くて滑りやすい坂から広い面積に落ち着く事が出来た。シノンの森でハリードに頼り、弱い面を見せていた皆は目覚ましい成長ぶりで、遂に町の外にある洞窟へと辿り着く。
――――ポドールイの洞窟――――
山の麓にある洞窟の中は暗かったが、所々に何故かランプが灯されて進みやすい。ただ、やっぱり狭くて湿り気のある空間には魔物が多かった。
「げっ、カエル! ユリアン、トーマス、後は任せたよ!」
元居た世界のアマガエルよりかは、勿論デカイ。肥えた体は虫以外の、それこそ人間まで食べてここまで育ったに違いない。
バーナード犬並みの大きさなんだ。生理的に受け付けないのは、何も彼女だけじゃない。サラちゃんやモニカちゃんも、カエルから距離を遠く取っている。女の子なら、躊躇する気持ちはよく分かる。
「ちょっ、エレン、お前ならキックでも斧でも一撃でいけるじゃないか!」
「いーやーだ!! 植物や昆虫は攻撃出来ても、カエルだけは素手でも武器でも触りたくないね!」
上から落ちてくるバラ系植物の魔物に斧で真っ二つ、兵士系の骸骨には跳び蹴りをかましたエレン姉さま。水気を含んだ壁や天井から、物影に隠れて飛び出す魔物など、初心者を楽しませようと多様に富んだ攻撃を仕掛けて来る魔物達。最強の彼女でも、カエルには弱いみたいだ。
アマガエルに似た特大の魔物をサラちゃんの弓で仕留め、次々と宝箱を開けて行く。
地面に置かれた宝箱、洞窟で朽ち果てた冒険者の亡骸からと様々な所に置かれてあった。生命の大もと、小盾、小手、精霊石や、ロマサガ3でのお金、三千オーラム以上見つける事も出来た。
生命の大もとは、熱帯地方にある“アケ”という村で“生命の素”に作り変えて貰える。
効果は一人のWP(技ポイント)・JP(術ポイント)と、LP(ライフポイント)の完全回復だったはず。非売品だし、これも超貴重品だがこのままじゃ使えないし、後に取って置くから今は全然使えない。
ライフポイントは、それぞれ各個人に設定されてあり、決まり事もあった。
キャラが持つHPを上回る攻撃を受けた場合、気絶した状態になる。気絶状態を放ったままにして、敵から攻撃を受けるとライフポイントが一つずつ削られていき、全部の数値が無くなった場合、本当の“死亡”となる。少なくなったライフポイントを回復するには、宿屋で回復するか、専用のアイテムで回復するしかなくて、いつまで経っても数値は変わらない。
シノンの森で気絶したエレン姉さまは、ライフポイントを一つ削られ、気絶した。あの状態のまま、もし後九回攻撃されたら、ロマサガ3の世界で存在を抹消されていただろう。
“末梢”の文字が頭にちらつき、私は激昂したんだ。
FFで言えば、リミットブレイクしたという感じ。能力はあんまり上がってなかったと思うんだけど、それでも勇気だけはいつもの倍は湧いたと思う。
「おかしいな・・・ドコにあるんだろ? ねっ、皆・・・ってアレ??」
あの時のエレン姉さまの事を思い出しながら歩いていたら、どうやら一匹で奥まで来てしまったらしい。どうしようかと唸っていたら、前方に深い谷底があり、その先の向こう側に渡れる地面があった。
私でも走ってジャンプすれば行ける場所だ。助走をつけて跳び上がるとナイスに着地して、人間の屍に近づき落ちていた物を拾い上げる。回復機能を持つ“生命の杖”をゲットした。
「やった〜〜! “生命の杖”見っけ! さって、皆の所へ合流しないと・・・?!」
「ゲェェコ、ゲェェコ」
「カタカタカタ!」
「ゴブゴブッ」
喜びも束の間、後ろを振り向くと向こう側にある着地地点に、カエルと骸骨とゴブリンの魔物がわらわらと集まっていた。知能があるのか、谷底に落ちる事も無く、彼等は私がこちらに来るのを待っている。
「・・・どうしようっ、向こうに渡れない」
杖を固く握りしめ、その場で身動き出来なかった私は仰天する。
シュッ!
「はっ?! ちょっ、なんなの・・・! 猫は食べても美味しくないよっ」
カエルの長い舌が私に伸びてきて、体に巻き付いた。カメレオンも真っ青の舌の長さぶりに驚きつつ、必死になって足掻いても無駄だった。
「ニャオオオォォ!!」
悲鳴を上げて、必死に助けを呼んでも誰も助けに来てくれない。力を込めて踏ん張っても、凄い力で引っ張られる。
(もう駄目だ!!)
イタダキマスとカエルの大きい口に寄せられた時、今まで聴いた事のない、女の子二人のドスの効いた低い声が洞窟内に響いた。
「誰の許可を得てリオちゃんを食べるのですか? 冗談は顔だけになさい!! アクセルスナイパー!!」
「私のリオちゃんに何するのよ・・・混倒滅殺、イド・ブレイク!!」
モニカちゃんが持つ小剣での先制攻撃、その後畳み掛ける様にサラちゃんがカエルの腹目掛けて弓を撃ち放つ。カエルの動きを一旦止めて、的を絞り、弓で腹を貫通したカエルは見事に崩れ落ちた。
イド・ブレイクは混乱の効果もあるが、WP(技ポイント)も使うため普通の攻撃よりも強力だ。混乱に陥る暇も無く、天に召されたようだ。
「モニカちゃん、サラちゃん!!」
「リオちゃん、また一人で歩いて。心配したんですよ?」
「今助けるから、ちょっと待っててね!!」
舌が巻き付いたままの私は、モノ言わぬカエルの体の上に倒れ込んだ。
私の近くには複数の骸骨とゴブリンがいるから、倒せるまで近付いてもらえない。身動き出来ずに待っていると、彼女達の後ろから何かを引きづった音が聞こえて来た。
「エ、エレン姉さま! ・・・ユリアン、トーマス?」
「いやぁ、モニカ様とサラの走る速度に、早くて追いつけなかったんだよ。だから二人を引きづって来ちゃった」
「・・・かっこ悪い所見せちゃったな」
「同じく・・・」
エレン姉さまに襟首を掴まれ、引きずられて少し疲れ気味のユリアンとトーマス。バツの悪い顔で喋る二人に、モニカちゃんとサラちゃんの低い声が彼らに告げる。
「早くゴブリンと骸骨を倒してください・・・私達はリオちゃんを助け出しますから」
「お姉ちゃんも良いよね? カエルはもう居ないもんね・・・?」
有無を言わさぬ様に言い放つ彼女達に勿論異論は無く、エレン姉さま率いるユリアンとトーマスに魔物達を退治して貰う。モニカちゃんの小剣で舌を切って貰い、長いカエルの舌を両手でサラちゃんがわし掴みして、私はやっとの事で助け出された。その後、皆からお説教されながらポドールイの洞窟を出る。
「ニャオォォォ・・・やわらかいマシュマロが六つも押し迫って来るぅ・・・もう食べれませぇん。勘弁してぇぇ・・・」
「リオちゃん、大丈夫?」
お風呂でのぼせた私は、柔らかいタオルを下に敷いて熱を冷まして貰っていた。
髪をタオルで纏め上げたサラちゃんが、タオルでパタパタと仰いでくれている。精霊さんに着ていた服を洗って貰って、もこもこした白いルームウェアを借りて着ていた。
「リオ、お水持って来たけど飲めるかい?」
「ブフォッ!」
エレン姉さまは白いカッターシャツに、ズボンをはいていた。でもサイズが合わないのか、胸元のボタンは開けられ中から黒いブラが見える。ズボンのボタンもちゃんと留めていないから、おへそがチラ見えして・・・
「リオ?」
「・・・エレン姉さま、凄すぎますぅ」
コップに注いだ水を屈み込んで持ってくれているので、胸の谷間がくっきり全開だ! 美人な上に強くてナイスバディ・・・神は三物を与え給うたのか。自分のペタンコな白い胸を睨み付けて、深く溜息を吐きたくなった。
「リオちゃん、気がつきましたか?」
「モニカちゃん、ゴメンネ。心配かけちゃった・・・」
光沢のある、滑らかなピンク色のネグリジェを着たお姫様改め、モニカちゃん。半生乾きのブロンドの髪を下ろして、心配そうにタオルで私の体を拭いてくれている。決して風邪を引かせない様に、優しく水気を拭き取ってくれた。
「あっ、そう言えばここは?」
貰った水をゆっくり飲み、周りをキョロキョロと眺める。
十畳はある部屋の床には赤い絨毯を敷き、洋服ダンスに複数のベッド、四人位座れる丸いテーブルセット、姿見の鏡などが置かれていた。
「私達は先に休める様に、部屋へと案内して貰ったんだよ。ユリアンとトーマスの二人が、入れ替わりにさっきの大浴場にでも行ってるってわけさ」
「ホォォ・・・」
ロマサガ3で言えば、きっとお風呂イベントに違いない。
もしかして神様が・・・いや、違った。エリーちゃんが用意してくれたサプライズかもしれん!! どっちにしろこんな貴重なイベントに、自分は気を失っていたなんてとんでもない馬鹿な猫だ。
「リオが目を覚ました事だし、先に夜食を頂いちゃおうか?」
「えっ、ユリアン達を待たなくて良いの?」
「実は、二部屋も用意して貰ってさぁ。向こうは向こうで食べようかって言ってたんだよ」
悔しげに短い足で地団太を踏んでいると、エレン姉さまが私を抱き上げてくれた。丸いテーブルの上に近付き、椅子の上に下ろされる。傍にある呼び鈴を鳴らすと、ドアの外からノックの音が聴こえた。
「軽食ですがどうぞ」
茶色の髪をした女の人がワゴンを押して、部屋に入って来た。見掛けは普通の人間にしか見えないけど、この人もレオニードさんが使役する精霊さんだ。
アビスの影響を受けて、自らの魅力を武器にして戦いを挑んでくる妖精さんもいる。彼女らの正気を取り戻す為にも、早く“アビスゲート”を閉じなくちゃね。並大抵の鍛錬じゃ、まだまだ私には無理だけど。
「ニャ、美味しそう・・・イタダキマウス!!」
「リオちゃん可愛い! 私もイタダキマウス!」
「い、いただきマウス・・・は、初めて言いました」
「プッ、猫が“マウス”って・・・。リオ、よく噛んで食べなよ。口の周りにマヨネーズがいっぱい付いてるよ」
大皿の上には美味しそうなサンドウィッチと、から揚げにフライドポテト。
ジュースが入ったグラスもそれぞれ用意してくれてある。サラちゃんに食べ物をそれぞれ小皿に取り分けて貰い、皆で手を合わせて食べ切った。
*****
けたたましい嘲笑いが、レオニード城の怖さを引き立たせる。
柳に似た大木は風に靡き、吹雪いた白い世界は人間を迷わせる。
寒さに強い狼の遠吠えと、蝙蝠の鳴き声をBGMにして一夜が過ぎた。
「ニャオオ・・・今日はあんまん、明日は肉まん、あさってはピザまん・・・ノォォ」
肉まん達がせめぎ合って、押し寄せてくる夢を見た。
息苦しくて目を開けると、モニカちゃんとサラちゃんの間に挟まれていた。彼女達が同じベッドで眠っているのを不思議に思い、起き上がると・・・
「ニャ?」
目を凝らして見ると、同じベッドにエレン姉さまも座って熟睡していた。この部屋にはベッドが四つもあるから、皆はそれぞれの場所で眠っていた筈なのに。いつの間にか逆ハーレム状態になっていた。
私が男なら、きっと鼻血を出して地に伏すに違いない。少しばかりニヤけていると、外を繋ぐドアの向こう側からノックの音が聞こえた。
「おーーい、もうそろそろ起きろよ。早く飯食べて、レオニード伯爵の所へ行かなきゃならないんだから!」
ユリアンからの連絡を聞き、急いで皆を起こす事に。用意してくれた朝食を急いで食べて、皆でレオニードさんの所へ移動した。
窓から朝日が拝めるだろうと言う予想を、大いに覆してくれた摩訶不思議なこのお城。
どうして入り口と反対の方向には、いつも稲光が出てるのか。
晴天を覆い隠す様に、暗雲が流れているのか。レオニード城の七不思議に、リストアップする事を自分で決定した。
「おはよう、昨日はよく眠れたかな? 」
「おはようございます。レオニード様のご意向で、昨日はよく眠れました」
「そうか、それは良かった。実はミカエル侯からの伝書によると、まだ反乱を鎮圧していないみたいだ。
暇潰しとまでは言わないが、この近くにある洞窟に行ってみたらどうかな?」
「洞窟ですか?」
ここから少し離れた場所にある洞窟は、初心者の冒険者にはうってつけらしい。序盤での武器・防具やらが手に入るみたいだからどうかと、勧めてくれた。
通過儀礼みたいなもんだ。このイベントをクリアしないと、ミカエルさんが反乱を鎮圧する事件がいつまで経っても終わらない。ここで断る理由も無く、一同はポドールイにある洞窟を目指す事にした。
私達女のメンバー四人は、レオニードさんの居城にてお風呂場を借りている。
モノは試しだ。思い切って相談して良かった。猫用のトイレも借りれたし、紳士な吸血鬼さんには言う事なしだ。
「ってかスクエ○めっ! 風呂場があるなら描写くらい入れろや」
猫用のトイレは百歩譲って諦める。でも風呂場はねぇ・・・あるのと無いのとじゃやっぱり全然違う。無かったら如何しようかと思ったんだ。
ゲームしてる当時は、このあっさりした物語の進み具合に喜んでたんだけどなあ。
SFCのカセットの容量ではアレが精一杯だったのかも・・・まぁ、それを補う位のやり込み要素があったから、今でも語られる位の大作と言えるんだけどさ。
一匹で悶々と某ゲーム会社の文句をつらつら連ねる。
それでも美しい風呂場がその罵倒を打ち消す位に忘れさせてくれ、新たな感動が心に芽生えた。
「ホヘェェェ〜〜いっい湯だっな〜♪ アハハン」
レオニード城にこんなんあったっけ?と思う位、広々とした大浴場だ。白いタイルにジャグジーまで付いて、何でここだけ豪華やねんって、突っ込みたい。お化け屋敷さながらの外観のくせに、月術で灯されたクリーム色の照明が温かく空間を照らし出している。
ライオンヘッドさながら、壁から突き出るキマイラを模った像の口からは、新たなお湯が浴槽に止め処なく流れる。玄武術で水が出る仕組みのシャワーが五つ位あるし、シャンプー、リンスと、体を洗うボディーソープも用意されてて、濃厚な薔薇の香りに思わずうっとり。
私が浴槽に入っている場所も、真紅の薔薇がいっぱいお湯に浮かんでいるんだ。しかも一個じゃないよ! 青い薔薇、紫の薔薇、白い薔薇と四種類もそれぞれ入れられる様に浴槽が作られてて、どうやら匂いも効能もそれぞれ違うらしい。一生分の贅沢を詰め込んだかの様な待遇に、初めて猫になって良かったと思える様になった。
一匹で優雅にスイスイ猫掻きして泳いでいると、スモークがかかったガラスの扉が横に開く。
「リオちゃん、もう行くの早いんだから! 私と一緒に入って欲しかったのにぃ」
「私も。後でリオちゃんの体を洗いたいです。」
「リオは私達と違って服を着てないからね。私達より先に入れるのは当たり前だよねぇ?」
「うっ、うん! そうなんだよっ」
両手でタオルを押えて体を隠しながら、美人シスターとお姫様モニカちゃんが入って来たっ!! 皆はここで頭も洗うつもりなんだろうか。エレン姉さまと妹のサラちゃんも、長い髪の毛を下ろしている。
「・・・わっ、ここの景色って、外からじゃ絶対見れない位置にあるからガラス張りなんだぁ。この景色は絶景だよね、お姉ちゃん」
石の桶でお湯を体にかけて洗い流し、お湯の中に半ば浸かりながらガラスの窓に手を付け眺めるサラちゃん。隣に居るエレン姉さまに問い掛ける。どうやら姉妹は仲直りしたみたいだ。・・・本当に良かった。
「丘の上にある位だから、こっち側は断崖絶壁なんだろうね。でも雪がヒラヒラ降って、これはこれで風情があるよねぇ・・・たまにこの城の周りにだけ、雷が鳴ってるのがちょっと気になるけど」
四角形の窓から見える縦長の雷が、時折部屋を照らし出す。エレン姉様は雷は平気で、逆にサラちゃんは雷が怖いみたいだ。
「ここまで来るのは至難の技でしたしね」
「ホギャッ!」
クスリと笑い、私を胸に抱き寄せてくれたモニカちゃん。
ちょっ、生胸が背中に当たってるよっ! 私も乙女のはしくれなのに、照れてキタッ!
「ミカエルお兄様が伯爵様を頼る気持ちが分かりました。彼は吸血鬼で有名ですけど、とても真摯な態度で私達を受け入れてくれたんですもの。疑っていた私が浅はかだったんだわ」
「モニカちゃん・・・」
“タダより怖いモノは無い”って言う、格言が元居た世界にあったと言う事はこの際伏せておこう。今の所、レオニードさんの信条とやらは明らかにならないのだから。
「フフッ、リオちゃん。くすぐったいです」
「・・・」
モニカちゃんに向き直り、顔をペロリと一舐めする。
白く透き通るような瑞々しい肌と柔らかな胸に、元居た世界の心友、橋ノ蔵奈美ちゃんの姿が重なった。胸関係だけに、彼女のお姉さんを思わせる優しい気持ちと、昔過ごした記憶が蘇る。
(元気にしてるかなぁ、みんな・・・)
家族の皆
ファインシャートの皆
魔族の皆
それから・・・守護獣ガウラ。
出会った人皆とは言わなくても、良い人間や仲間には恵まれてる方だと思うよ。この大好きなロマサガ3の世界を、出来ればガウラと一緒に冒険したかった・・・
「・・・? きゃ、きゃあっ、リオちゃんがグッタリしてる!」
「ええっ! リオちゃーーん、大丈夫? 早くお湯から上がらせないとっ!」
「何だって!! タッ、タオルにくるんで外で冷やせばなんとか・・・」
サラちゃん、エレン姉さま、モニカちゃん、ユリアン、トーマス、今は此処に居ないハリードも皆私に優しい・・・特に何かをしなければならないと言う事は聞いていないけど、この世界でも何かを得る事が出来ると思うんだ。それを見つけるまで、私はきっと帰れない。
戦闘に長けたハリードがパーティメンバーから外れ、私を入れた六人はポドールイのレオニードさんを訪れる為に、途中で魔物と遭遇しながら丘の上の居城を目指す。
ロマサガの戦闘では五人が主流となり、もう一人のメンバーは補助で、非戦闘員となる。比較的体力の高いユリアンとエレン姉さまが前に出て、真ん中がトーマスで前衛が三人、サラちゃんと猫の私が後衛。お姫様のモニカちゃんには補助メンバーになって貰った。
「脳天割り、行っきますっ!」
パコォォォン!
ゴブリン愛用の棍棒で、閃いた技を駆使しまくる。
昆虫やゴブリンを一発で仕留める事が出来なくても、この技を喰らった者は眠りに落ちる。その隙に皆でタコ殴りして貰うナイスな戦術、名付けて“ナイトメア殺法”は、比較的強い敵にも効果があるから、多分中盤までなら使えるだろう。
「やった♪ これで私も、もう立派なロマサガメンバーの仲間入りだっ!!」
少しばかり嬉しくなり、調子に乗って棍棒を手に持ちグルグル振り回す。
自らの白い頭の毛を少し逆立て、気分はFFの某チョコボ頭、ク○ウド・ス○ライ○!!
肉球から棍棒を取り落とすヘマもしなくなったし、ロマサガ3を冒険する為に、今の内から鍛えて準備は万端、勿論素振りも欠かさない。目指せ、千本ノック! フンフンフンッ!
「? リオ、何言ってんだ。ろまさがメンバーって何だよ?」
「なっ、何でもない・・・あっ、ユリアン後ろ!!」
「えっ?」
問い掛けるユリアンの背後から、不意打ちに地狼が襲い掛かる。剥き出しの鋭い牙がユリアンの左腕に噛み付く寸前、凄まじい蹴りが地狼の横腹に炸裂した。喰らった衝撃に耐えきれず、雪原に転がりのた打ち回って、最後には息絶える。
「油断大敵だよっ。この辺に居る魔物をまだ全部仕留めてないんだから、気を抜かない!」
助けてくれたのは、回し蹴りしたエレン姉さまだった。彼女は斧を使った攻撃も得意だが、体術も出来る。素早さを生かした接近戦を得意とする、憧れのお姉さまだ。
「ああ、悪かった。助かったよ、エレン・・・」
「さすがエレン姉さま、素敵ぃ!!」
憧れの人にダッシュで抱き付こうとした時、皆の荒い息遣いが聴こえて来た。休憩無しで戦ってたから、体力の無いサラちゃんが地面に倒れそうだ。慌てて彼女の足を猫の体でしがみ付き、力を込めて踏ん張りながら尋ねてみる。
「サラちゃん、大丈夫? 体が辛いなら町へ戻ろう?」
「ありがとうリオちゃん、私は大丈夫だよ。もう少しでお城に着くし、このまま行こう」
強がりで大丈夫だと告げるサラちゃん。
その反応を見て、不服ととったエレン姉さまが突っ掛かり、両肩を掴んで強い口調で促した。
「サラッ、あんたは無理しちゃ駄目っていつも言ってるじゃないっ! あんただけでも町へ「イヤだ!!」・・・!」
「ふげっ」
「リオちゃん!」
エレン姉さまの両腕を振り払うように強く弾く。
その反動で私の体は降り積もった雪の中へと引っくり返り、頭から突っ込んだ体をモニカちゃんに助け出して貰った。暫しの沈黙が続き、サラちゃんの瞳が揺らぐ。
「・・・私だって、もう子供じゃない」
エレン姉さまに言い放つサラちゃんに、皆が驚いた。荒い息遣いでも、見上げて睨み付けるその視線の先は丘の上の居城にある。
茶色と緑が混ざった様な瞳に力が籠もるその力強さは、この地で生きてる実感をしっかりと私に感じさせてくれた。エレン姉さまの言葉を遮り、真っ向から挑む少女は前へ進もうとしている。
(トクッ)
――それは、自らの宿命に抗うという覚悟から来るもの?
(トクン・・・)
私はこの世界を、ゲームの世界の出来事だと認識してるのに?
「サラッ・・・!」
「まぁまぁ、エレン。そう目くじら立てるなよ。此処まで来て帰れなんて、サラが可哀想だろ」
「俺達もサラを見くびってたな。上から押さえるのは良くないし、このまま先へ進もう」
食ってかかるエレン姉さまを宥め、ユリアンとトーマスが押さえつける。次第に落ち着いて来たのか、動きが緩慢になる。
「次は私がサラさんの代わりに戦います。だから、このまま一緒に行きましょう?」
モニカちゃんもサラちゃんの歯向かう様を見て、自分が戦闘すると庇いだした。
「勝手にしなさい! もう知らないからっ・・・!」
激昂してサラちゃんに背を向けるエレン姉さまは、その後誰とも口をきかなかった。険悪な雰囲気のまま、私達六人は丘の上にある居城にやっと辿り着く。
(楽しんで、それで終わりと思ってた。でも、どうしてこんなに痛いほど伝わるんだろう?)
彼らの生に対する足掻きや執着が、愛おしいと思うのか――今の私ではまだ答えが出せなかった。
***
「やっと着いた・・・」
私達六人は雪の降り積もるレオニード城に、息もたえたえで着いた。
茶色い石造りのお城の背景に暗雲が流れ、遠くから蝙蝠の鳴く声と何かがせせら笑う不気味な声のオンパレード付き。ホーンテッドマンション=お化け屋敷を彷彿とさせるおどろおどろしさが、私達の背筋を寒くした。
「さすが吸血鬼の城だよな。雰囲気出てるよ」
「ああ、ここなら何でも出そうだ」
幼馴染同士のユリアンとトーマスが城を見上げ、顔を蒼くして感想を告げる。
私はこの中をゲームで網羅してるので、レオニード城に何が出るのか知っている。腐乱死体や骸骨、ゼラチナマスターや骸骨達の頂点に立つヤマさんまで、幅広い魔物がお待ちかねしてるとは、今の時点では語るまい。
「だ、大丈夫だよ! こんなの何とも無い・・・」
「あっ、エレン姉さま、待って!」
立ち竦む仲間達の後ろから、エレン姉さまがいの一番で重厚な扉の前に進み出る。彼女を追おうと、モニカちゃんの腕から跳び下りたが――
ギギギギ・・・
エレン姉様が扉に触れようとした瞬間、勝手に両扉が開く。驚愕した彼女が取った行動とは、一番近くに居た私の白い体を抱き上げ、力強く抱き締め震え上がる事だった。
「ニャ、ニャオオォォ・・・い、痛いでゴザイマスル。エレン姉さまぁ・・・」
「!! はっ、ご、ごめんねリオっ。つ、ついビックリしちゃって・・・」
ポキポキと体中の骨がきしむ音がして、カクカクと口から魂が飛び出そうになる。痛みに耐えかねて、私が咄嗟に出した悲鳴は猫の鳴き声だった。
恐る恐る城の中に入ると後ろから轟く音が響き、自動的に鉄製の両開きの扉が閉じられた。凝った作りに感心していると、エレン姉さまがまた強く抱きしめて来た。嬉しいけど、コレはっ!!
「ニャオオォォ・・・」
「エレンさんっ!」
「お姉ちゃんっ!!」
「・・・はっ! リオ、ゴメンッ!!!」
気を失いそうになる所を、モニカちゃんとサラちゃんに助け出される。普通に抱き締めてくれる分には嬉しいけど、彼女の強い腕力でハグされると複雑骨折になりかねない。生命の危機を感じ、自分で歩き出す事にした。
壁に幾つもの蝋燭が灯され、赤い絨毯が敷かれている通路を私達は固まって歩き出す。
内装は言うほど汚れてもいないし、明るく照らされ蜘蛛の巣も見当たらない。やっぱり人が一番目にする場所だけに、小奇麗にしていると見た。
奥へ進むと大きな窓があり、そこから景色が見える。
暗雲からは雷鳴が鳴り響き、稲光が部屋の中を更に明るく照らし出す。
部屋の中に置かれている蜀台には沢山の蝋燭が固定され、中央に置かれた椅子には肘を付き、ゆったりと座る一人の男性が居た。
「よく来たね。私がこの城の主、レオニードだ。モニカ姫の事はロアーヌ侯から伺っているよ」
艶の良い背中まである黒髪が特徴の、背の高い男の人だ。
肌触りの良さそうな、これまた黒くて品の良いローブを身に纏っている。この人が着てるのが本物の“今宵のローブ”!! ねだったら貰えるだろうか。
「初めてお目に掛かります、レオニード伯爵様。
ロアーヌ侯ミカエルが妹、モニカと申します。この度は不躾な訪問にも拘わらず寛容な御挨拶、真に恐れ入ります」
六人が並んで立っている所、モニカちゃんが前に出た。進んで挨拶をして、自らのローブを左右掴みお辞儀をする所は、彼女の育ちの良さが窺える。立ち上がったレオニードさんがモニカちゃんの挨拶を受取り、手の甲に唇を寄せて紳士らしく振る舞う。
「今日は疲れたろう? 部屋を用意しているのでそちらで休むと良い。軽食だが何か摘まめる物を用意しよう。さぁ、この子に着いて行くと良い」
言うと横に控えていた精霊が動き出す。
この世界の精霊は、“アビス”の影響を受けて凶暴と化したのだが、レオニードさんの使役する精霊は、彼の支配下にあるんだろう。本当は人間と共存できる種族なのに、それが少し寂しくもある。
「あ、あのっ、レオニードさんっ!」
「ん? 猫が喋っている・・・君の名は?」
目を見開き絶句して、言葉に詰まるレオニードさん。
私を見て驚いてるけど、吸血鬼である貴方も驚きに値しますが? 彼への文句を抑え、少し頼みたい事が出来たのでとりあえず聞いてみる事にした。ゲーム画面上では知る事が出来なかったけど、聞いてみる価値大アリだ。
「名前はリオって言います!あの、それでモノは相談なんですが・・・」
「言ってごらん」
ゴニョゴニョと言い淀む。断られるのか、否か。彼は紳士らしく、頷いて私の言葉を待っている。
「お風呂貸して下さい。それとトイレも・・・」
三大欲求には敵わないが、乙女として其処は譲れない。泥が付き、雪に埋もれ、垢にまみれたこの体を一回は洗いたかった。
複数の兵士の居る天幕の中で、ハリードの抱き枕にされてから一夜が明ける。
地平線から朝日が昇り、霧が立ち込め、清々しい朝の空気がロアーヌ平原に広がる。
マイナスイオンが五臓六腑にしみわたり、彼ら八人の今日も素敵な一日が始まった。
ギュムゥッ!
「痛ぇぇっ!!」
「おはようっ、ハリードのおっさん! いつまで寝てんの。早く起きて起きてっ」
腕っ節の強いエレン姉さまに遠慮無く頬を抓られ、跳び起きたハリード。その顔はまだ眠気まなこだ。
「お、おう、・・・ッチッ! 酒を飲み過ぎたか。・・・ん、何だこの白くて丸いの?」
私の顔を見てもまだ白い大福に見えるらしい。寝惚けながら、両手で体中をモギュモギュされる。
乙女を抱き枕にし、噛み跡まで付けて、挙句の果てに体を餅の様に伸ばして引っ張るとはっ!! 昨日の事も覚えていないらしく、腹が立って必殺猫パンチをお見舞いしてやった。
「・・・」
「では、モニカをよろしく頼む」
「お任せ下さい、絶対モニカ様を危険な目には合わせません!」
「ミカエル様もご健勝であられますように」
モニカ姫改め、モニカ様と敬称を変える事にしたユリアンとトーマス。
やはり旅をするのに“姫”では、危険が付き纏うらしい。
簡素な革の鎧、長剣、少量の傷薬を提供して貰い、私達ハリードを除いた六人は北方に位置するレオニードさんの居る場所まで行く事になった。
「俺が居なくてもやれるさ。皆、頑張って来い」
顔に斜めの引っ掻き傷を付けたハリードが、皆を励まして送り出す。
ミカエルさんはその顔を見て眉間に皺を寄せていたが、深く追求する事を止めたらしい。既に他の兵士に軍議について命令していた。
この後、この平原でゴブリンの軍団を迎え撃つ。
“トルネード”の異名を持つハリードが居れば、この戦いに終止符が打てる。長期戦に持ち込むつもりは無いらしく、ゴブリン達を叩きのめした後ハリードを連れてロアーヌの宮殿に戻り、ゴドウィン男爵を討つと意気込んでいた。
****
ミカエルさんが治めるロアーヌへと馬で戻り、港町ミュルスへと一同赴く。そこから各都市を結ぶ事でも有名な、世界最大の都市である“ピドナ”に向かう。そこから更に船に乗って色んな町を経由しつつ、やっとの事でレオニードさんの居るポドールイに辿り着いた。
「うぷッ、長い船旅だったね・・・」
海自体は嫌いじゃ無い。
人間だった頃は船酔いもしなかった。けど猫の状態だと三半規管が狂うのか、平衡感覚が鈍るのか。今度、女神(エリーちゃん)に逢ったら治してもらわないと!
「ホントお兄様ったら、遠く離れた北方の地方に私を預けるだなんて、離れ過ぎた所に決めなくても良かったのに・・・」
「しょうがないよ、モニカちゃん。レオニードさんなら、何か遭った時でも対処できるとミカエルさんも言ってたし・・・うぷっ」
モニカちゃんと呼んだら喜んで抱き上げてくれた。
エレン姉さまの妹サラも、呼んで欲しそうにしていたのでちゃん付けしたら狂喜乱舞していた。彼女達はこんな性格の子だったかな?
吐き気を抑える私は、モニカちゃんの膝の上で丸くなって眠りに入る。
*****
レオニード伯爵が居る北方の町、ポドールイに着くと其処は一面の銀世界。
シンシンと降る雪は、建物や木に止め処なく降り積もる。
建物の窓から覗く温かい光は、人の所在を明らかにし、家族の元へと帰りたい気分を彷彿とさせる。
あまり広くない町の中を、六人で歩き続けると一つの酒場(パブ)を見つけた。
酒場(パブ)はお酒も飲めるし、マスターが作る簡単な料理も出してくれる。
その地方特有の情報を提供して、仲間との別れを斡旋してくれたりもする。ロマサガ3は仲間に出来るキャラが二十人以上はいるから、メンバーを決める上でとても欠かせないお得な場所だ。
「ちょっと中に入って、レオニードさんについて聞いてみようよっ」
「んん・・・そうだな、体を温めるのも良いし、情報がてら聞き込みでもするか」
何故か六人のリーダーになったユリアンに、私は勧めてみた。
温かい部屋で丸くなりたいし、窓から見える雪を堪能してみたいのもある。皆の意見を聴き了承を得た所で、サラちゃんに抱っこされつつ一同は酒場(パブ)に入った。
「いらっしゃい」
エプロンを着けた中年のおじさんが、カウンターの前に立って席を促す。
「こんにちは、マスター。何かレオニード伯爵の情報は無い?」
さほど広くも無い空間を見渡して、カウンターや空いてるテーブルの席に着く私達。
ユリアンとトーマスがカウンターで、四人掛けのテーブルにエレン姉さま、サラちゃん、モニカちゃん、そして猫の私が座る。
「町の若くて美しい娘が、レオニード様の城にそろそろ呼ばれるらしいよ」
「? 呼ばれてどうするんだい」
エレン姉様が温かいジンジャーエールを人数分頼む。しょうがのエキスで風味を付けたアルコール無しの飲料水で、皆の体を芯から温め体を解していた。
「吸血鬼でもあるレオニード様に呼ばれた者は、自らの血を飲んでもらい、永遠の美を約束されると言われてるよ。だから町の娘達は、こぞって美を追求したがるんだ」
「・・・吸われる本人も吸血鬼になるかもしれないんだろう? この町の娘達は凄いな」
美を追求する町の娘達とレオニード伯爵の関わりを聞いて、トーマスはメガネを押し上げて感心していた。
「永遠の美なんて、どんな価値があるのかな・・・」
「サラちゃん・・・?」
座っていた椅子から抱き上げられ、彼女の膝の上で丸くなる。
窓から振りしきる雪を見つめ、ポツリと呟くサラちゃんの言葉は猫の私にしか聴き取れる事が出来なかった。
****
酒場(パブ)でレオニードさんの情報をそこそこ聞いて、六人は居城へと向かう。
体も温まった事だし、坂を登って町の北方面への出入り口に差し掛かる。そこから見える風景に、一同絶句した。
「「「「「「・・・」」」」」」
雪の道の勾配が複数ある地形、つまり細く狭い坂と道が居城へと導くように作られてあった。一つや二つじゃ無い上に、命綱も無く、しかも魔物も彷徨っている。
地を這う犬狼や爬虫類を上手く撒いても、空を飛ぶ妖精(ピクシー)や飛竜(ワイバーン)が寒空を旋回している。
雪の積もった狭い坂で襲撃されたら、ひとたまりもないだろう。通常の人間ではおいそれと居城には近付けない設計に、自分達の意識が遠のいた。
「・・・お兄様の考えた事が少しわかりましたわ」
「良かったですね、モニカ様」
「大丈夫ですよ! 坂の近くに居る魔物から倒していきましょう」
「これは前途多難だねぇ・・・」
「全くだ。皆、死ぬ気で此処を越えなきゃな」
「この坂道を登り切る頃にはみんな強くなってるよ。頑張ろうねっ!」
サラちゃんとユリアン、そして私も最後に励ます。エレン姉さまは口を引き攣らせて、トーマスはメガネを白く曇らせた。
私が元居た現実世界でゲームしてた時は、よくポドールイで仲間を鍛えていたんだ。体力を回復させやすい宿屋が近いから、ここなら安心して皆と一緒に戦える。
目指すはレオニードさんの居城。
それぞれ武器を手に持ち、雪を踏みしめ歩みだした。
地平線から朝日が昇り、霧が立ち込め、清々しい朝の空気がロアーヌ平原に広がる。
マイナスイオンが五臓六腑にしみわたり、彼ら八人の今日も素敵な一日が始まった。
ギュムゥッ!
「痛ぇぇっ!!」
「おはようっ、ハリードのおっさん! いつまで寝てんの。早く起きて起きてっ」
腕っ節の強いエレン姉さまに遠慮無く頬を抓られ、跳び起きたハリード。その顔はまだ眠気まなこだ。
「お、おう、・・・ッチッ! 酒を飲み過ぎたか。・・・ん、何だこの白くて丸いの?」
私の顔を見てもまだ白い大福に見えるらしい。寝惚けながら、両手で体中をモギュモギュされる。
乙女を抱き枕にし、噛み跡まで付けて、挙句の果てに体を餅の様に伸ばして引っ張るとはっ!! 昨日の事も覚えていないらしく、腹が立って必殺猫パンチをお見舞いしてやった。
「・・・」
「では、モニカをよろしく頼む」
「お任せ下さい、絶対モニカ様を危険な目には合わせません!」
「ミカエル様もご健勝であられますように」
モニカ姫改め、モニカ様と敬称を変える事にしたユリアンとトーマス。
やはり旅をするのに“姫”では、危険が付き纏うらしい。
簡素な革の鎧、長剣、少量の傷薬を提供して貰い、私達ハリードを除いた六人は北方に位置するレオニードさんの居る場所まで行く事になった。
「俺が居なくてもやれるさ。皆、頑張って来い」
顔に斜めの引っ掻き傷を付けたハリードが、皆を励まして送り出す。
ミカエルさんはその顔を見て眉間に皺を寄せていたが、深く追求する事を止めたらしい。既に他の兵士に軍議について命令していた。
この後、この平原でゴブリンの軍団を迎え撃つ。
“トルネード”の異名を持つハリードが居れば、この戦いに終止符が打てる。長期戦に持ち込むつもりは無いらしく、ゴブリン達を叩きのめした後ハリードを連れてロアーヌの宮殿に戻り、ゴドウィン男爵を討つと意気込んでいた。
****
ミカエルさんが治めるロアーヌへと馬で戻り、港町ミュルスへと一同赴く。そこから各都市を結ぶ事でも有名な、世界最大の都市である“ピドナ”に向かう。そこから更に船に乗って色んな町を経由しつつ、やっとの事でレオニードさんの居るポドールイに辿り着いた。
「うぷッ、長い船旅だったね・・・」
海自体は嫌いじゃ無い。
人間だった頃は船酔いもしなかった。けど猫の状態だと三半規管が狂うのか、平衡感覚が鈍るのか。今度、女神(エリーちゃん)に逢ったら治してもらわないと!
「ホントお兄様ったら、遠く離れた北方の地方に私を預けるだなんて、離れ過ぎた所に決めなくても良かったのに・・・」
「しょうがないよ、モニカちゃん。レオニードさんなら、何か遭った時でも対処できるとミカエルさんも言ってたし・・・うぷっ」
モニカちゃんと呼んだら喜んで抱き上げてくれた。
エレン姉さまの妹サラも、呼んで欲しそうにしていたのでちゃん付けしたら狂喜乱舞していた。彼女達はこんな性格の子だったかな?
吐き気を抑える私は、モニカちゃんの膝の上で丸くなって眠りに入る。
*****
レオニード伯爵が居る北方の町、ポドールイに着くと其処は一面の銀世界。
シンシンと降る雪は、建物や木に止め処なく降り積もる。
建物の窓から覗く温かい光は、人の所在を明らかにし、家族の元へと帰りたい気分を彷彿とさせる。
あまり広くない町の中を、六人で歩き続けると一つの酒場(パブ)を見つけた。
酒場(パブ)はお酒も飲めるし、マスターが作る簡単な料理も出してくれる。
その地方特有の情報を提供して、仲間との別れを斡旋してくれたりもする。ロマサガ3は仲間に出来るキャラが二十人以上はいるから、メンバーを決める上でとても欠かせないお得な場所だ。
「ちょっと中に入って、レオニードさんについて聞いてみようよっ」
「んん・・・そうだな、体を温めるのも良いし、情報がてら聞き込みでもするか」
何故か六人のリーダーになったユリアンに、私は勧めてみた。
温かい部屋で丸くなりたいし、窓から見える雪を堪能してみたいのもある。皆の意見を聴き了承を得た所で、サラちゃんに抱っこされつつ一同は酒場(パブ)に入った。
「いらっしゃい」
エプロンを着けた中年のおじさんが、カウンターの前に立って席を促す。
「こんにちは、マスター。何かレオニード伯爵の情報は無い?」
さほど広くも無い空間を見渡して、カウンターや空いてるテーブルの席に着く私達。
ユリアンとトーマスがカウンターで、四人掛けのテーブルにエレン姉さま、サラちゃん、モニカちゃん、そして猫の私が座る。
「町の若くて美しい娘が、レオニード様の城にそろそろ呼ばれるらしいよ」
「? 呼ばれてどうするんだい」
エレン姉様が温かいジンジャーエールを人数分頼む。しょうがのエキスで風味を付けたアルコール無しの飲料水で、皆の体を芯から温め体を解していた。
「吸血鬼でもあるレオニード様に呼ばれた者は、自らの血を飲んでもらい、永遠の美を約束されると言われてるよ。だから町の娘達は、こぞって美を追求したがるんだ」
「・・・吸われる本人も吸血鬼になるかもしれないんだろう? この町の娘達は凄いな」
美を追求する町の娘達とレオニード伯爵の関わりを聞いて、トーマスはメガネを押し上げて感心していた。
「永遠の美なんて、どんな価値があるのかな・・・」
「サラちゃん・・・?」
座っていた椅子から抱き上げられ、彼女の膝の上で丸くなる。
窓から振りしきる雪を見つめ、ポツリと呟くサラちゃんの言葉は猫の私にしか聴き取れる事が出来なかった。
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酒場(パブ)でレオニードさんの情報をそこそこ聞いて、六人は居城へと向かう。
体も温まった事だし、坂を登って町の北方面への出入り口に差し掛かる。そこから見える風景に、一同絶句した。
「「「「「「・・・」」」」」」
雪の道の勾配が複数ある地形、つまり細く狭い坂と道が居城へと導くように作られてあった。一つや二つじゃ無い上に、命綱も無く、しかも魔物も彷徨っている。
地を這う犬狼や爬虫類を上手く撒いても、空を飛ぶ妖精(ピクシー)や飛竜(ワイバーン)が寒空を旋回している。
雪の積もった狭い坂で襲撃されたら、ひとたまりもないだろう。通常の人間ではおいそれと居城には近付けない設計に、自分達の意識が遠のいた。
「・・・お兄様の考えた事が少しわかりましたわ」
「良かったですね、モニカ様」
「大丈夫ですよ! 坂の近くに居る魔物から倒していきましょう」
「これは前途多難だねぇ・・・」
「全くだ。皆、死ぬ気で此処を越えなきゃな」
「この坂道を登り切る頃にはみんな強くなってるよ。頑張ろうねっ!」
サラちゃんとユリアン、そして私も最後に励ます。エレン姉さまは口を引き攣らせて、トーマスはメガネを白く曇らせた。
私が元居た現実世界でゲームしてた時は、よくポドールイで仲間を鍛えていたんだ。体力を回復させやすい宿屋が近いから、ここなら安心して皆と一緒に戦える。
目指すはレオニードさんの居城。
それぞれ武器を手に持ち、雪を踏みしめ歩みだした。
怪鳥(ガルウイング)を撃退した後、気絶して回復したエレン姉さまと私達七人は、鬱蒼と茂るシノンの森をやっとの事で抜ける事が出来た。歩き続けると川に出くわし、皆で軽く手に付いた泥を落としていたら、夕刻が迫って来たようだ。
広大な平原を歩く地平線に、オレンジ色の夕陽が沈み込む―――
山や緑の草原を、温かい色合いに染め上げる夕焼けが恋しくて、目いっぱい瞳に写そうとして身動きする事を止めた。当たり前の自然の摂理に今更ながら感動したのは、元居た世界と、ガウラの居るファインシャートの世界を思い出したからだろうか?
「夕焼け・・・綺麗だね」
“ホームシック”という言葉を思い出して、一匹で勝手に自己完結させる。この言葉を使うには、まだ早すぎるから。
「? ああ、綺麗だが・・・どうした、夕焼けは何処でもあるだろ?」
「うん・・・まあ、そうなんだけど」
寂しさが心を占める反面、これって一種の役得じゃ無いだろうかとも思う。まさかロマサガ3で夕陽が拝めるとは思わなかった・・・ゲーム画面上では、特定のイベント以外は闇夜やオーロラは見れない、奇想天外なRPGだったからだ。
先程の戦闘で、最初よりかは幾分話しやすくなったハリードが私の隣に立つ。二人の連携攻撃で、彼の頭を踏ん付けたから泥が付いたままだ。私の体も手足以外は泥だらけだし、まあ箔が付くと言う事で良しとする。
「トォッ!」
「こらっ、お前・・・! 肩と背中に爪が食い込んでるぞ。ユリアン、どうにかしろっ」
「良いんじゃないか? ブフッ・・・サマ・・・ブググッ・・・にはなってる、よ?」
「ハリード、あんた面白いよっ! 良いねぇ、保父さんみたい・・・アハハハッ!!」
「可愛いねぇ。お姉ちゃん、私もリオちゃん欲しいよぉ・・・」
「私も、欲しくなって来ました・・・リオちゃん、私の所にも来て欲しいです」
「サラ、モニカ姫。リオは物じゃ無いんだからよしなさい」
「・・・お前ら、俺はどうでも良いのか」
手軽な風呂敷で私の背中に棍棒を固定して貰い、力無く抵抗を諦めたハリードの背中によじ登ると、「チャンッ」と一声出す。乳母車があれば、気分は子連れ狼の大五郎。発した言葉の意味を伝え、皆が大爆笑。腹を抱えて皆が笑い出した。
素晴らしく勇ましい私の勇士を、彼ら六人の目に焼き付ける事にも成功し、寂しさを紛らわせた。
****
完全に陽が沈む前に私を含めた七人は、やっとの事でミカエルさんの居る野営まで辿り着く。
竹に似た素材の木を使った、即席の囲い壁で天幕の周りを守る様にと打ち据えられてる。
暗くなる前に薪を火にくべて準備に急く者、飯盒(はんごう)で白飯を炊く者など、複数の天幕が張られた外側で兵士達が忙しそうに動き回っていた。
入口の見張りをしている者がこちらに気づき、警戒心を強くさせる。目付きを鋭くさせた兵士が、腰に差した剣の柄を握り問い質して来た。
「何だ、お前達は。ここが何処だか分かっているのか!」
「ええ、分かっています。魔物の討伐と称して、ミカエルお兄様が此処に居ると言う事も・・・」
毅然とした態度で、頭に被せた部分のローブを捲るモニカ姫。
見事なブロンドの髪を靡かせ、凛とした眼差しと、薔薇色の頬に桃色の唇は、一度見れば脳裏から薄れる事は無い程の美貌の持ち主へと変貌する。
「モニカ姫!」
「これはとんだ御無礼を、お許しください!!」
その容姿に見覚えがある二人の兵士が、慌てふためき頭を低くして道を開ける。
ミカエルさんの居場所を聞いて、私達は奥へと進みだす。
複数似たような天幕を通り過ぎると、一際豪華な刺繍が施された紫色の天幕へと辿り着いた。
「お兄様!!」
「モニカ、お前が如何してここに?」
ロアーヌ侯国を統治する若き侯爵、ミカエル。
肩に掛かる長さの金髪を自然に下ろし、光沢の良い、それでいて頑強な鎧を纏う容姿からは力強さを感じる。
洗練された立ち振る舞いは育ちの良さを思い起こさせ、
滲み出る美しさは、決してモニカ姫に引けを取らない。
意志の強そうな眼差しは、多くの民衆を統治するに相応しい王者そのものだ。
自らの兄の姿を確認したモニカ姫は、走り寄り言い出す。
「お兄様、ゴドウィン男爵が反乱を企てた様です。――お兄様の遠征時を狙い、宮殿内に攻め入って来ました!」
「何だと? そうか、お前はそれを知らせに来てくれたのだな・・・ところで後ろの者達は?」
後ろに佇む七人の姿を留めると、今まで護衛をして此処まで連れて来てくれた事を告げるモニカ姫。するとミカエルさんは暫く考えた後、私達に提案してきた。
「お前達には悪いが、もう一仕事して貰おう。北方に位置する、レオニード伯爵の居城までモニカを護衛して貰いたい」
「レオニード・・・! あの吸血鬼の住む城にですか!?」
ユリアンがいち早く反応する。
「下手な人間よりは信頼できる。しかし、吸血鬼にされるのも困るのでな。どうだ、やってくれるか?」
「報酬が貰えれば、俺は良いぜ」
皆の色良い返事が聴こえる中、ハリードのがめつい声が響く。
この件が終われば貰えるというミカエルさんからの確証を得て、ここで一夜を明かす事に。
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「ウマ――ッ!」
「お前、猫なのに人間と同じ物食べて平気なのか?」
「私を舐めんなよっ! 猫だけど何でも食べれるよっ」
星が綺麗な夜空の下、私達七人は兵士さん達が作った白飯を頂いた。おかずとして食肉用の肉や魚も出されたけど、苦労して倒した怪鳥(ガルウイング)の腿と背中部分をハリードが出して来たので皆で焼いて食べる事に。
羽を毟り取り、焼きやすいように木で串刺しにして火で炙(あぶ)る。
ホントは丸焼きも考えていたらしいが、巨大すぎて持ち運ぶのが無理らしいとのこと。さすが主銭奴(しゅせんど)!タダで使えるモノは何でも使うってか。
「私が食べてたご飯って刺身か、ミルクか汁物かけたネコまんまばっかりなんだよ! たまには違うのだって食べたい」
二足歩行が可能となったのだ。体力も増えていつもの倍は使ったんだろう。だったら食欲も半端無い。ミルクや魚だけじゃ物足りないのも頷ける。その変わり、体格が小さいので食べる量は皆よりも少ないけどね!
「猫が喋るのも初めて見たが、私達と同じ物を違和感無く食べる猫を見たのも初めてだ」
天幕の外でシートを敷いて食事をしていたら、モニカ姫のお兄さん、ミカエルさんがやって来た。私の横に腰を下ろして胡坐(あぐら)を掻いている。
怪鳥(ガルウイング)の肉を手に持ち、美味しく食べてる私を見て頭を撫でてくれた。
「リオと言ったな。何処から来たのか聞いても良いか」
「それは、その・・・」
ゴニョゴニョと言葉を濁す。多分言っても理解出来ないんじゃないかな・・・
こことは違う世界から、女神(エリーちゃん)に強制的に連れて来られたなんて。しかもファインシャートやデルモントまではしごしてるし。
「リオはシノンの森よりも遠く離れた所から来たと言ってました。
故郷から離れて寂しい気持ちもあると思うんです。ミカエル様、話せる時が来るまで許してやって貰えませんか」
紳士トーマスがフォローしてくれる。もっと言ってやってちょうだいッ!
「そうです、お兄様。リオちゃんに疑惑の目を向けないで下さい。彼女に良い印象持ってもらって、王宮に連れて帰ろうと画策してますのに!」
「え、そうだったの、モニカ姫?」
「えええぇ!! リオちゃんは私が連れてくんだもん! モニカ姫、ずるいよっ」
・・・え、私の知らない所で何かを企んでる人達がいるよ。紳士トーマスと、お人よしユリアンが普通の発言で済んでるのに、モニカ姫とサラちゃんが睨み合い、プチバトルに突入しそうだ。
「そうだねぇ。リオが居れば毎日が楽しそうだし・・・」
「!!」
麗しのエレン姉さまの発言を聴き、彼女の元へと擦り寄ろうとした。
エレン姉様の隣に居た妹サラが、両手を広げて待ってましたと言わんばかりに待機している。すると突然首根っこを掴まれて、誰かの腕の中へ落ち着いた。
「こいつは俺のパートナーだ。勝手に連れてくな」
「ハッ、ハリード!」
なぁ、リオー?と体中を撫でくり回される。その行動に皆が驚いていると、何故か酒臭い。
酔っ払うほど酒飲んでる!!
「ハリード、お酒くさい・・・」
「白い大福・・・ムニャ、お宝お宝・・・」
抱き込んだまま寝込みやがった!!
残された皆は助けてくれそうも無い。頭やら耳やらに、たまに噛んで来て痛たたた・・・・っ!
その夜、私はハリードに一晩中抱き枕として扱われたのだった。