(警告**残虐な表現があります。気にする方は読む事をおススメしません。R15相当~※※)
「おらおら、金目のモノをさっさと出しな!」
「にょ~、いきなり現れてあんた誰にょっ?」
「ひぃっ、ラクトォ~~」
海に囲まれた猫小島にある、とある猫型のお屋敷にて惨劇は起きた。
セールスお断りのチラシを玄関のポスト部分に貼り付け、注意書きを無視して強引に扉を押し開く一人の男の姿があった。
男は包丁を向け、顔が見えない様にヘルメットをかぶり、簡易な黒いジャンパー・ズボンを着用している。
「金目のモノなんて家にはないにょ、ゲフッ、大人しくするし、抵抗もしないからリオだけには暴力はっ、振るわないでっ……ゲフン!」
「うあぁーん、やめっ、止めてよぉ、ラクトが死んじゃうっ」
雪うさぎのかぶりモノを被ったラクト、元人間・リオの二人は人質ならぬ物質となってしまった。
人権とは何か・動物愛護とは何ぞやと問いかけたくなりそうな扱いを、雪うさぎラクトだけが受けつつも金目のモノを物色し出す。猫のリオには勿論暴力を振うなと、男には釘を差した。
何故かと問われると――
リオに怪我をさせると、三倍どころか百倍にして返す守護獣のガウラがいるからだ。
リオラブな彼に言わせると、リオに害を与える奴は万死に値すると豪語する。
イケメン兄ちゃん風な顔が邪悪な顔になり、リオに仇なす敵を嬲り痛ぶらせ虚無へと帰す。
人間に進化を遂げても以前と変わらぬ猛々しき力と、守護獣の儀式にも成功し、更なる魔力を身に付けリオに忠誠を誓ったファインシャート大陸の知識ある魔獣。
泥棒に対し、もう少し控え目にしてほしいと願うのは、相手を血祭りに上げる事を予想してしまった親心からだ。けっしてガウラを庇護するからじゃない。胸糞悪くなるので、相手に死んでほしくないだけだ。
「おらおらっ!」
「ゲフン、ゲフンッ、ほぎゃ~~!!」
「ラクト~~、うわぁぁん、もう止めてよぉ」
あぁほら、リオが泣きだしそうな声を出してるじゃないか。
ひょっこり猫島はファインシャートの世界……ディッセント大国よりも小さいが、めちゃくちゃ小さい程でもない。
スーパーである『レット・クロウ店』まではかなり離れてるが、リオの声がガウラに聴こえないなんて事は必ずしもないのだ。離れてるからこそ守護獣はより鋭敏に、主の危機を感じ取る事が出来る。愛の成せる技だとKYガウラは力説していた。
「ラクトは猫島では死なないけど、もう止めてよ……ッ」
「ばかっ、リオ、前に出ちゃダメッ」
「ギャッ!!」
小さな体が宙を舞う。
蹴られた白い猫はボトリと地面に横たわった。
お腹を蹴られたのだろうか、背中を丸めたまま動かない。
「リオッ、リオッ!!」
「この変てこな家から、いかにも金持ってそうなお嬢様が出て来たのを目撃したんだがな。見間違えたか……」
「お嬢様ってルビリアニャちゃんの事? 彼女は私の娘なのに」
「ほぉ、そのルビなんとかってお嬢さんの場所へ連れて行けよ」
「!」
どうやら自分で墓穴を掘ってしまったらしい。泥棒に彼女の存在をにおわせてしまった。
彼女目当てだなんて、よけいに案内出来ない。そんなを事すると、彼女はどう反撃に転じるか親の私でも分からないのだ。私を虐めてたら、次の瞬間は甘く可愛がる。Sっ毛にも程がある上級魔族なんだ。
「……それを聞いてどうするつもりにょ?」
「金目の物が無いときたら人身売買だろ。お前と喋る猫、若い女ならオークションで金持ち共に高く売れるさ。愛玩動物としてもな」
「止めといた方が良いよ、リオもだけど、ルビリアニャちゃんだけはあんたの手には負えないからね」
「あーん、関係ねぇだろうが。まだ痛い目にあいたいのか?」
「娘を売るくらいなら、自分が痛い目にあった方がマシだっての……!」
「チッ! 戯言はあの世で言えよ、じゃあな」
私の体目掛けて包丁が振り下ろされる。
――あぁ、死ぬ。
いや、死ねない体なら三枚におろされてすり潰されるだけだ。ついでに証拠隠滅として海に流され――
「ぶっ????」
「ラクト、ここからはオレがやる――」
「ガッ、ガウラッ!!」
「な、なんだよ、てめぇ!」
ヒーローならぬ、守護獣ガウラがおたまで包丁を跳ね避け、金属同士が激しくぶつかった。
にんじんやお肉、りんごにバナナが宙を舞い、泥棒の視界を遮っている。買い物籠ごと泥棒にぶつけられていたので中の物が全部ひっくり返っていた。
その際、白いレシートの紙がラクトのおでこにヒラヒラと貼りつき、口を引きつらせながら徴収した事は神のみぞ知る。
「リオの悲痛な声が聴こえた。「ガウラ、助けてって」。蛆虫は駆除しないと」
「蛆虫だとっ? ふざけんなよ!」
「ふざける? オレの女を泣かせ、あまつ蹴りを喰らわせたお前には似合いの名だ」
「蹴り入れてるなんざ、何でそんな事てめぇに分かんだよ!」
「ラクトを見れば分かる。こいつの丸い体にはお前の足跡が沢山ついてるだろ。ああ、リオのお腹にも付いてるな――」
床にぐったりと横たわる白い猫を愛しげに抱き寄せ、リオを頼むと私にお願いしてきた。
KYガウラは、リオがらみになるとプライドをかなぐり捨てるらしい。滅多に見れないお願いを見て、私の内心は複雑だった。
「一人増えたってなんて事ねぇよ。始末するだけだ!」
「聞くに堪えん、耳触りだ。弱い犬は黙って地に伏せろ……雹土の監獄・グラウンドサークル!」
泥棒の立つ位置に魔方陣らしき光が出現。
その場から動けない泥棒の頭上から、真下へ勢いよく雹が落ちて来た。だんだん落下速度が速くなる。
泥棒の着てるジャンバーが破け、ところどころから血が覗いていた。
「アアァァァァッ!!!!」
「まず腕の一本、いや足も貰うか」
「ガウラッ! ちょっとまっ……」
まず包丁を持つ右手に狙いを定め、大きなツララが落下した。
男の腕がゴトリと床に落ちる。
「……!! うああぁぁ、オレの腕がぁぁ!!!!」
「ふんっ、お前が死なない様に、サークル内を氷点下まで下げてやってるんだ。感謝しろよ。それにリオが受けた痛みは、まだまだこんなもんじゃないしな?」
肩から大きく切断された腕からは、吹き出した血飛沫が瞬時に凍っていた。
身も凍えるような寒さと巨大ツララの攻撃によって、意識を失う事や死ぬ事など決して許さない。
簡単に死なせるものかと眼力だけは鋭く、極悪に笑っているガウラの視線。次は泥棒の足へと向かっていた。
「なっ、もう良いだろ、降参だ! 俺をここから出してくれ、でないと本当に死んじまう!!」
「リオも止めてくれと、お前に懇願したんじゃないのか」
「……ッ、それは」
「弱いモノを甚振るって、きっとこんな気持ちなんだろうな。さぞかし気持ち良かったんじゃないのか?」
二発目、ツララは下から出現。泥棒の足の甲を貫き、声にならない悲鳴を聴いた。
居た堪れなくなった私はガウラの傍まで寄り、止めろと頭突きしていた。
「ぐっ……、ラクト?」
「ガウラ、もう止めなよ。いくら何でもやりすぎにょ!」
「ラクト、止めないでくれ。リオを蹴ったコイツを蛆虫以下の存在にさせたいんだ」
「蛆虫以下ってあのねぇ、」
「ふふっ、ガウラとは気が合いそうねぇ☆ 私もそう思ってたのよ」
「ルビリアニャちゃん? いつからそこに??」
雪うさぎラクトの発言を遮り、甘く可愛い見知った声が耳に届いた。
ドアが半壊し、玄関から入って来たのは黒山羊・バフォメットのバフォちゃんに抱きかかえられた上級魔族のルビリアナお嬢様だった。
ワインレッド色に赤いリボンと、今日の服装も女の子らしいフリフリのワンピースを着ている。
バフォちゃんの口許にキスをしてから自ら下に降りて、雪ウサギラクトに向かって歩いて来た。
「ガウラと一緒に来てたの。ゴメンネ、真っ先に出て来なくて。今度、また美味しいモノをあげるから許してよ、ラクト!」
温かい手の平が頭を撫でてくれる。いつだってそうだ、彼女はリオの次に、私にも優しくしてくれる。これはひょっこり猫島に来てからの私達の仲と言っても良い。ルビリアナちゃんは大分性格が丸くなった……
「ゴホンッ、……で? こいつは私をどうするって?」
……ハズなんだけど。
無機質な靴の音が冷たく響く。ある意味、死刑宣告かと思ってしまった。
口数の少なくなった男は、力なく項垂れている。
ガウラの作りだしたサークルに彼女は近づき、漆黒の翼がこれでもかと大きく開いていた。
「私を人間共の闇市場に売って、成金共のオモチャに成り下がれと? そんな悪い口は縫いつけちゃおうか?」
「グルルル……」
「あんっ、バフォちゃん、分かったわよぉ、ここではやらなーい……というわけで、自分トコで殺っちゃうね☆」
良いよね、ガウラ? とこちら側を振り返るルビリアナ。
澱んだ紫色の瞳を久々に見て、私とガウラもブルリと震えた。
この瞳を見ると、自分がいかにちっぽけな存在かと思い知る。慈悲とやらが存在するのか、生みの親として少し問い正しくなった。
***

「……ニャ?」
「リオ、リオ、やっと起きた」
「ん、ガウラ、私……はっ、そうだ、ラクトはっ??」
真っ先にガウラに抱き寄せられたリオは、視線だけを漂わせて私の姿を確認していた。金の瞳が大きく見開き、涙がポロポロと零れ落ちている。
「ニャ、ニャ、ラクトが、ラクトが蹴られ続けて、ホントに死んじゃうかと……うっ、うっ、無事で良かった、良かったよぉ~~」
「リオぉー」
「私、私、ラクトがひょっこり猫島では死なないって分かってても、どうにも出来なくって……!」
「よ、よしよし、私はこの通りだよ。てか、私は皆から蹴られまくられてるから、蹴りで死ぬ事は断じてないよ」
「それはそれで不憫だね、ラクトぉ~~」
白い猫と守護獣に同情の目を向けられうんざりする。
蹴られ続けているのは、ルビリアナちゃんのお仕置きが発動した時だけだ。
前回はひょっこり猫島を放ったままにしてたから、彼女のお屋敷で折檻を受け続けたのだ。あれは今でも思い出したくない。
「ねっ、明日はルビリアニャちゃんが、美味しいモノを持ってきてくれるって。何だろうねぇ?」
「ニャ、ケーキとかデザートが良いなぁ」
「オレはリオの喜ぶ物なら何でも良い」
食べ物の事を考えてふと思い出した。どうして、リオの首元にあるピリマウムは発動しなかったのかと。いつもなら彼女を守るために、白い魔方陣が出現されるのに。
「そういえば、何でだろう??」
「ニャンとも探り甲斐があるね、もしかしてエリーちゃん(女神)がらみかなぁ」
「ふん、リオを守る事が出来ない女神など、大した力はないんだな」
三人で絞った文殊の知恵でも、答えなんか出なかった。
ファインシャートの女神・エリーちゃんとも、いつか会えたら良いなと思いながら三人は猫型のベッドで就寝した。そうして、怒涛の一日が過ぎる――
***
「ギョエ――――!!!!」
「フギャ――――!!!!」
「やはり気が合うなどとは嘘だな。ルビリアナの方が悪趣味だ。オレの趣味が疑われるし、何よりリオが嫌がる……」
「うふふ、そうかしら? ねぇ、バフォちゃん?」
「グルルル……」
にこやかな顔をして土鍋を持ってきた上級魔族のルビリアナちゃんとバフォちゃん。
彼女の今日の衣装は、ひょっこり猫島で売ってる可愛いワンピース。清純かつ可愛い天使を思わせた。……鍋の中さえ見えなければ!
「昨日の人間の目玉をスープにしたのよ。どうかしら?」
「「×△□○@~~~~!!!!!」」
「耳や鼻は流石に汚いからね。家畜にもあげる事が出来なかったわ」
「お願い、それ以上はもう言わないで。せめてオブラードに包んで下さいにょ~~」
泣きながらお願いすると分かったと頷かれて、鍋をバフォちゃんに返してもらった。目の視界に入れて欲しくないので、さっさと屋敷まで運んでもらう。
「ラクトを甚振っていいのは私だけよ、ねぇ、ラクト?」
「な、何にょ、その理不尽な言葉は??」
「誰にも壊させないし、殺させない。パンナロット様に誓うわ」
「はぁ? 今日のわけが分からないルビリアニャちゃんも怖いにょ……」
「ニャ、あの時怒ってたのはガウラだけじゃないって事だよ、ラクトは馬鹿だなぁ~」
ルビリアナちゃんの膝の上で甘えさせられ、今日もひょっこり猫島は平和に過ぎる。
海鳥は鳴き、スズメはさえずり、暖かい太陽は猫島の住民を柔らかく包み込む。
しばらくまったり過ごしたいと、雪うさぎと白い猫は擦り寄り、今日も良い夢を見る。
【後書き】
ギャグにするつもりだったのに何故にシリアスになったのか。
不思議な話となりました。
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