ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

④ひょっこり猫で賽ノ河原編

2011年05月07日 09時34分27秒 | 小説作業編集用カテゴリ

「ラクトッ!」
「ル、ルビリアニャちゃん!」
 
漆黒の翼を広げて空中で佇む、上級魔族のルビリアナお嬢様。
今一番会いたかった自慢の娘。彼女が居れば百人力だ。

「行くわよ、地獄の業火で炒めた豆、とくと体で味わいなさい!」
「お、鬼は~外にょ!!」

ゴウッ!!

巨大なフライパンを振りかざして、鬼の周囲に勢いよく豆が落ちて行く。
顔や腕、背中に当たり、熱さと痛みに耐えきれずに鬼は棍棒を落としていた。
今の内だと雪江ちゃんと一緒に石を積み上げ、ルビリアナちゃんには雪江ちゃんが作っている石の山へ鬼が近づけない様にと豆をまいて貰った。そして遂に――

「わ、わぁ、出来たよ、初めて出来た!」
「良かったね。雪江ちゃん!」

石の山は綺麗に三角を形作り、最後まで完成させた。
すると、雪江ちゃんの体は白く光り始める。

「ラクトうさぎさんとお姉ちゃんのおかげだね。私、今度こそちゃんと眠れる…」
「ゆ、雪江ちゃん…」
「泣かないで。私は、うさぎさんとお姉ちゃんに会えて嬉しかったよ。本当だよ」

私と手を合わせた雪江ちゃんの手が透けて行く。
これで良かったんだ、だけど、涙が止まらない。

「あ、お父さんとお母さんだ!」
「にょ?」

和式寝まきを着た女の人と男の人だ。どちらもまだ若くして逝ったのだろうか。
二人とも頬笑みながらこちらへ会釈して、雪江ちゃんを黄金に輝く天へと導いた。

「……」
「ラクト?」
「私はひょっこり猫島では死ねない。そして上級魔族のルビリアニャちゃんやリオ、ガウラもどっちか言ったら長寿だよね。そう考えたら私は幸せなのかもしれないにょ」
「ふふっ、まだまだ退屈せずにはいられないってね☆」
「そうだね…さぁ、私たちも閻魔さんにこの豆を持ってひょっこり猫島に帰ろうか!」
「え、まだダメよ」
「にょ?」
「もうしばらくここに居て、成仏できない魂を救ってやって欲しいって。閻魔さまからの依頼よん☆」
「うーん、豆だけ閻魔さんに渡せば良いのでは? もしかしてそれもバイトに入ってるにょ?」
「時給500円…ゴホンッ、それと極上の調味料を数種類渡すって!」
「今500円って聞こえたけど、極上の調味料かぁ。ちょっと気になるにょ」
「ねっ、そうと決まれば行きましょうか、次なる魂の元へ――」
「もう、ルビリアニャちゃんはいつも強引なんだから」
「ふふっ、だからラクトって大好きよ」

永遠に続く地獄などない。
打ち震える孤独と闇に呑まれそうになりながらも、それでも必死で這いつくばれるのは…大切な誰かを想う気持ちが勝る時だ。生前の大切な記憶と、確かに愛されたあの瞬間だけは、宝石よりも光り輝くはずなのだから。


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③ひょっこり猫で賽ノ河原編

2011年05月07日 09時23分37秒 | 小説作業編集用カテゴリ

鬼の嫌いな物をルビリアナちゃんに作って貰ってるうちに、二回目に作った石の山は半分くらいまで積み上がった。
彼女が戻ってくるまでまだ時間が掛かるかもしれないので、休憩して雪江ちゃんと喋っていた。

「ね、雪江ちゃん、ここには長くいるのかな?」
「分からないよ、考えた事もなかったかな」
「そ、そう。ケーキとか食べた事ある? 三角形の形をして甘くて美味しいの」
「? さつまいもなら、ほんの少し食べさせてもらえたかなぁ」

地獄には時間の概念が無いのか、その事に触れられても分からないらしい。現実世界で換算するともしかすれば五十年、百年は経っていてもおかしくないのだ。
気の遠くなるような悠久の中、この子は石を積み続けていた。そう思うと胸の奥から虚しさ・切なさが込み上げて来て、この子の前で涙だけは流すまいと必死に笑顔を繕った。

「…、あー、雪江ちゃんに猫島にあるヤシの実のジュースとか、特製のジャンボケーキとか食べさせたいなぁ」
「じゅーす? けえき? うさぎさんのいる所って面白そうね。良いなぁ、あたしもそんな所に行ってみたかった…」
「ひょっこり猫島は、雪江ちゃんみたいな可愛い子を歓迎するにょ!」
「えへへ、ありがとううさぎさん」
「私の名前はラクトっていうにょ。出来れば名前、覚えてね」
「うん、分かった。ラクトうさぎさん」

胸に抱き込まれ、しばし互いの抱擁にひと時のあたたかさを感じる。
この子の本当の幸せは、ここにはなくて別の世界にある。早くここから連れ出さねば!

***

「あとちょっとだね…」
「でもこれ以上積み上げるとさっきの鬼が来ちゃうにょ…あっ!」

ズシン…ズシン…
地面とお腹に深く響くような地響きを感じた。
さっきよりもまだ完成に近づいてないのに石の山を崩されたら、また一からやり直さなければならない。
この河原にある石は丸い形に近いモノが多くて、土台を作るにも一苦労する。崩されたら同じ石を探すのは至難の技な上に、幾らなんでも時間が掛かり過ぎてしまう。だから成仏出来ない魂が増えて行くんだ。

「き、来たにょ…」
「うさぎさん、怖いよぉー」
「雪江ちゃんは石を積み上げてて! こっちは私が何とかするにょ!」

巨鬼(キョキ)ではなかろうか。正直、顔も怖すぎて直視出来ない。それでも棍棒を振り回されて、石の山を崩されるのを指をくわえて見ていろとでも言うのか…否、それだけは阻止しないと!

「お、鬼さん、あんたの相手はこっちにょ!」

すると棍棒がこちら目掛けて振り下ろされた。
当てるつもりはないのか、今のは完全に大きくはずされたようだ。もしかして威嚇された?

「あんたの時代は終わったにょ。もう多くの魂を解放して! 閻魔さんの依頼なんだから――!」

ゴッ!

今度は地面を叩き割るような攻撃を仕掛けてきた。小さな石が粉々に粉砕されている。
危なかった――もう少し横へずれてなかったら、私は潰れたカエルの様になっていただろう。

「ラクトカエルなんて嫌にょ…あっ!」
「あ、あ…」

私から対象を変えた鬼は、雪江ちゃんが積み上げている石の山。また非情な行いは繰り返されるのか。後少しで石の山は完成するのに!

「止めて――!!」
「ラクトッ!」

頭突きでも繰り出そうと体を前に出した時、頭上から女の子の声がした。バイトだと言って私を賽ノ河原に連れて来た張本人、上級魔族のルビリアナお嬢様だった。


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②ひょっこり猫で賽ノ河原編

2011年05月07日 09時14分13秒 | 小説作業編集用カテゴリ


賽ノ河原――親より先に死に、現世を旅立つと落とされると云われる地獄の名所の一つ。
太陽は見えず、常にどんよりとした世界で永遠とも呼ばれる時間をここで過ごす。石を高く積むまでは、決して許される事はない…

「ねっ、私も手伝うよ」
「え、うさぎさんが? ありがとう…」

河原の前で懸命に石を積み上げていた少女の名は雪江(ユキエ)という。白い着物を着たおかっぱの女の子だ。彼女の事を知りたかったので色んな事を聞いてみた。

「あの、どうして雪江ちゃんはここに居る事になったの?」
「んー、病気だよ。家ではお薬買う余裕なんてなかったし、ご飯が食べれなくて。気付いたらここにいたの」
「栄養失調か…今は大丈夫なの?」
「うん。お腹は減ってないかなぁ」
「そっか…」

少女の小さな手と、雪ウサギの丸い手が交互に石を積み上げて行く。頂点までもうちょっとだ。すると大きな足音が、耳に聴こえた。

「あ、あ…」
「にょーーっ!」

ごつくて太い足が目の視界いっぱいに映し出された時――大きな音だけが響いて石の山は崩された。

「うあ、うあーーーーーーーん!」
「ゆ、雪江ちゃん、こ、このぉー!!」

巨体の足めがけて勢いよく噛みついてやった。しかし振り落とされて、石だらけの地面にゴロゴロと転げ落ちる。地面にぶつけられた衝撃で体中が痛くてどうしようもなかったが、雪江ちゃんの悲しみと比べたら痛みなど無いに等しかった。

「うぅ~~…」
「そこまでよ、ラクト」
「ル、ルビリアニャちゃん!」
「この鬼はここの番人でもあるのよ。この賽ノ河原を託された鬼。この世界ではこいつに歯向かってはダメ」
「そんな…ルビリアニャちゃんでも?」
「私が介入しても良いのはラクトをここへ連れてくる事と、鬼の目をかいくぐりながら子供達と石の山を築きあげてくれと、閻魔さまからのお達しなの」
「…私?」
 
きょとんとして彼女を見上げた。すると、抱き上げて汚れた所を拭ってくれる。その間に、棍棒を持った巨体の鬼は大きな足音を響かせながら私達から離れて行った。

「地獄でのルールを変えたくないそうよ。番人でもある鬼達をないがしろにもしたくないって。でも年々成仏出来ない魂が増えて行くから、違った意味での助っ人が欲しかったみたい」
「ふ、ふーん?」
「私では無理なのよ。本当に怒ったら彼らを粉々にしちゃうから。閻魔さまに叱られちゃう☆」

うふふ、と花のように笑うルビリアナちゃん。
無理なのよー、と言いながら紫色の瞳を澱ませている。気に入らない相手には容赦がなくて身内には優しいのだ。敵にはなりたくないのである。

「うーん、でもどうやって鬼の目をかいくぐって作れば良い? さっきは後少しって時にあの鬼はやって来たよ」
「そうねぇ…ラクトは鬼の苦手な物って何か知らない?」
「え、苦手な物? そんなのあったかな…」

あ! と声を上げる。
そうだ、あったじゃないか、鬼が苦手だと言われてるモノ。

「まぁ、そんなので良いのかしら。でも時間稼ぎには良いかもしれないわね」
「良いかな、ルビリアニャちゃん?」
「任せて、作ってくるわ」

ルビリアナちゃんにある物を頼むと、黒い翼を広げて飛び立ってしまった。
大丈夫、今度はきっと上手くいく。そんな確信があった――

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①ひょっこり猫で賽の河原編 

2011年05月06日 17時01分26秒 | 小説作業編集用カテゴリ
*注意*
このお話はフィクションです。





季節は常夏。
中天にある太陽は照り返し、蒸し暑い熱気がひょっこり猫島を覆いつくす。
コバルトブルーの海にはヤシの実が豊かにつらなり、穏やかな波の音と潮風が耳に心地良く響く。

「アイスー、アイスはいらんかねー……」
「ラクトッ、私ソフトクリームッ」
「オレはソーダアイス」
「はいよ、2つ合わせて200円ね」

どうも、雪ウサギラクトです。
最近ひょっこり猫の看板娘のリオを差し置いて、主人公に格上げしました。そんな時は嫌な予感しかしないのですが、ひょっこり猫島ではそんなに物騒な事は起こらないので、杞憂に終わると思って日々過ごしてます。

「ラクト、私にも何かちょうだい」
「おっ、ルビリアニャちゃん! これなんかどう、木苺の甘酸っぱいソフトクリームは?」
「それを頂くわ。あ、おつりはいらないから」

と、ダイヤの首飾りを二つも手に押しつけてきた。
一体この気前の良さはなんだろうね。何かが起こる前触れだろうか。

「ね、ラクト。アイス売りも良いけど、もっと羽振りの良いバイトがあるわよ☆ やってみる?」
「え、自給300円よりも高いバイト? 何それ、教えてちょーだい!」

私の働きぶりでは300円が丁度良いと言われ、アイス売りに転じていたが…オーナーのルビリアナちゃんがおススメするバイトとは一体?

「その前にはい、これ」
「?」
「誓約書よ」
「せいやく…ちょ、どこへ連れて行く気にょ?」

だんだん雲行きが怪しくなってきた…とんでもない事をさせられるのは勘弁してほしい。

「やーね、ラクトの手印をポンと押すだけで、すぐにお金持ちになれるかもしれないのよ? 後でやりたかったなんて言われてもさせないわよ?」
「むむむぅ…そんな事言われてもねぇ…」
「もちろん私が案内するし、サポートするわよ。ラクトには怪我をさせないから♪」
「けっ、けっ、怪我って…やっぱり危険が伴う場所なんじゃん!」
「押すの、押さないの? どっち?」

ルビリアナちゃんの脅しにより、誓約書とやらにぐりぐり手印を押し付けた。
指はないから、丸っこい形の印である。

「行ってらっしゃい、ラクトー!」
「リオは任せた。心置きなく行って来い」
「リオとガウラは今回お留守番かぁ。まぁ頑張るよ」
「リオちゃん、ガウラ、またね☆ …クロウ家の名の許に門よ開け、ダークゲート!」

 
********

「こ、ここは…」
「賽の河原よ」
「にょーーっ! ニャンてとこにやるんだよ。ひどいよ、ルビリアニャちゃん!」
「あそこ見て…」
「?」

地面にたくさんある石を掴んでは崩れないように、ただ一心に積み上げる子供達。
私の知ってる記憶ではどこまで積めば許されるのかなんて、分からなかった。

「もしかして今回のバイトって」
「そう、子供達と一緒に石を積んで欲しいのよ。依頼人は閻魔さまからね」
「閻魔さまって…あの舌を引っこ抜く…?」

頭がクラクラしそうになって倒れたくなってきた。
しかしお耳をギュッとつねられ、「にょーっ!」と奇声を上げて意識を復活させる。
もうここまで来たらやるだけだと鷹を括るしかなかった。

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☆カオス文庫目次ページ☆

2011年05月05日 15時57分55秒 | ☆カオス文庫2

ここは主に中編・短編を置く目次ページになります。
*:..。o○☆*゜ひょっこり猫シリーズ゜・*:..。o○☆*゜・*:..。o○☆*

ひょっこり猫島にてとある事件
のんびりとした猫島にある、ラクト家にて男が侵入。
猫のリオと雪ウサギラクトに迫る危機にガウラはどう立ち向かうか…暴力表現ありです。R15指定。

真夏の夜の夢(完結)UP
自分の部屋に蚊が侵入。決して笑える話ではない? ギャグを目指しました。
  

ひょっこり猫で賽ノ河原編(完結)
上級魔族のルビリアナ・レット・クロウに連れられてやって来たのは地獄の名所の一つ、賽ノ河原だった。雪ウサギラクトはバイト稼ぎをする事になるのだが、子供の魂を救う為に上手く鬼を阻めるか? 
   

銅・銀・金の門シリーズ
雪ウサギラクトを含めた4人の戦士は知らぬ土地に降り立つことになる。
その果てに待つのはギャグかシリアスか。作者にも分からない物語。
銅