「ラクトッ!」
「ル、ルビリアニャちゃん!」
漆黒の翼を広げて空中で佇む、上級魔族のルビリアナお嬢様。
今一番会いたかった自慢の娘。彼女が居れば百人力だ。
「行くわよ、地獄の業火で炒めた豆、とくと体で味わいなさい!」
「お、鬼は~外にょ!!」
ゴウッ!!
巨大なフライパンを振りかざして、鬼の周囲に勢いよく豆が落ちて行く。
顔や腕、背中に当たり、熱さと痛みに耐えきれずに鬼は棍棒を落としていた。
今の内だと雪江ちゃんと一緒に石を積み上げ、ルビリアナちゃんには雪江ちゃんが作っている石の山へ鬼が近づけない様にと豆をまいて貰った。そして遂に――
「わ、わぁ、出来たよ、初めて出来た!」
「良かったね。雪江ちゃん!」
石の山は綺麗に三角を形作り、最後まで完成させた。
すると、雪江ちゃんの体は白く光り始める。
「ラクトうさぎさんとお姉ちゃんのおかげだね。私、今度こそちゃんと眠れる…」
「ゆ、雪江ちゃん…」
「泣かないで。私は、うさぎさんとお姉ちゃんに会えて嬉しかったよ。本当だよ」
私と手を合わせた雪江ちゃんの手が透けて行く。
これで良かったんだ、だけど、涙が止まらない。
「あ、お父さんとお母さんだ!」
「にょ?」
和式寝まきを着た女の人と男の人だ。どちらもまだ若くして逝ったのだろうか。
二人とも頬笑みながらこちらへ会釈して、雪江ちゃんを黄金に輝く天へと導いた。
「……」
「ラクト?」
「私はひょっこり猫島では死ねない。そして上級魔族のルビリアニャちゃんやリオ、ガウラもどっちか言ったら長寿だよね。そう考えたら私は幸せなのかもしれないにょ」
「ふふっ、まだまだ退屈せずにはいられないってね☆」
「そうだね…さぁ、私たちも閻魔さんにこの豆を持ってひょっこり猫島に帰ろうか!」
「え、まだダメよ」
「にょ?」
「もうしばらくここに居て、成仏できない魂を救ってやって欲しいって。閻魔さまからの依頼よん☆」
「うーん、豆だけ閻魔さんに渡せば良いのでは? もしかしてそれもバイトに入ってるにょ?」
「時給500円…ゴホンッ、それと極上の調味料を数種類渡すって!」
「今500円って聞こえたけど、極上の調味料かぁ。ちょっと気になるにょ」
「ねっ、そうと決まれば行きましょうか、次なる魂の元へ――」
「もう、ルビリアニャちゃんはいつも強引なんだから」
「ふふっ、だからラクトって大好きよ」
永遠に続く地獄などない。
打ち震える孤独と闇に呑まれそうになりながらも、それでも必死で這いつくばれるのは…大切な誰かを想う気持ちが勝る時だ。生前の大切な記憶と、確かに愛されたあの瞬間だけは、宝石よりも光り輝くはずなのだから。
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