ラクトの母、上陸 (1)
猫型の輪郭で形づくられた、肥沃広大なひょっこり猫島。
バナナとリンゴといった果物が豊作で、らんらん畑には多色様々といったコスモスが咲き乱れた、素晴らしき理想郷。
食欲を満たす甘い香りと一緒に花びらが咲き乱れ、ミツバチとモンシロ蝶は甘くて濃厚な蜜の味を堪能していた。
「ゆうびーん」
「ごくろうさまにょ」
ひょっこり猫島にいる郵便屋の配達を受け持っている、ホクロウ族のハトルは獣人でもある。
背中の白い羽と変幻自在のクチバシを持っていて、あとは人間を足したような少年だ。160センチ越えの身長で、ラクトをゆうに見下ろしている。
「よっ、ラクトねーさんは今日も丸い体に磨きがかかってるな、そら、受け取れ」
「雪うさぎだからしょうがないし、丸く磨いてるわけないにょ。口の悪いクソガキめっ」
ラクト渾身の頭突きをジャンプして避けたハトルは、服のほこりを空中で払ったあと、斜め掛けの革製のカバンから白い封筒を雪うさぎラクトにひらりと手渡し、言うだけ言ってさっさと邸から離れていった。
「ふんふん? 差出人の名前がないにょ。いったい誰から・・・?」
縦長い封筒の上部を小気味よくあける。そのあと、ラクトの絶叫が猫島に響いた。
***
「にょっ、にょっ、にょっ!」
「ラクト、何やってんの?」
元人間の少女で、今は猫化を維持したままの純白の猫・リオは、素早い動きで掃除を始めたラクトを見やった。
いつもは念入りに隅まで掃除しないのに窓と床を拭き、ほこりをチェックしながら掃除をしている。とうぜん、いつもと様子が違うラクトの様子に疑問を持ち、傍まで寄って話しかけた。
「掃除にょ・・・もうすぐ私のマミーが来るんだよ! とうとうひょっこり猫島を探り当てやがった!」
「(マ、マミー?)ニャンと! ラクトのお母さんが。は、初めてじゃない? わたし、変じゃない?」
毛繕いし、白くてふわふわした猫の体をくるりと一回転させる。
ラクトによく見えるように、首を傾けたり腰のくびれを強調して、そわそわしながらおすましをした。
「だいじょうぶ、ただの猫にょ!」
ラクトの丸い手を、笑顔とともにグッと突き出す。
すると猫のリオの毛並みがぶあっと逆立ち、次の瞬間には険しい目付きになった。
「ただの猫! せめて愛らしい猫と表現してくれたら良いのに」
「お願いだからガウラ連れてデートに行っててよぉ。あんた達がいたら話が余計におかしくなるにょ」
リオと言い争っている時、床板を激しく歩く音が近づいてきた。髪に水を滴らせたガウラが、風呂掃除のスポンジを持ったまま扉を開けて立っている。
「今、でえとという単語が聴こえた。リオ、今すぐでえとしてくれっ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ガウラ・・・って、水! 水が毛並みに垂れて来るぅ。ニャオォッ」
スポンジを床にほおり投げたガウラは、嫌がるリオに頬ずりしたまま悦に入っている。
その隙をついて、リンゴとビスケット、ミネラルウォーター入りのペットボトルと猫じゃらしをバスケットに詰め、雪うさぎラクトは二人をデートに送り出した。
「奴らが出てる間に話を終わらせないと・・・にょ!」
ピンポーン
玄関からインターホンの音がする。
震える体を叱咤して、ラクトは急いで訪問者を迎え出た。