ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

ラクトの母上陸 1

2012年02月24日 20時49分58秒 | 小説作業編集用カテゴリ

ラクトの母、上陸 (1)


 猫型の輪郭で形づくられた、肥沃広大なひょっこり猫島。
 バナナとリンゴといった果物が豊作で、らんらん畑には多色様々といったコスモスが咲き乱れた、素晴らしき理想郷。
 食欲を満たす甘い香りと一緒に花びらが咲き乱れ、ミツバチとモンシロ蝶は甘くて濃厚な蜜の味を堪能していた。
 
「ゆうびーん」
「ごくろうさまにょ」

 ひょっこり猫島にいる郵便屋の配達を受け持っている、ホクロウ族のハトルは獣人でもある。
 背中の白い羽と変幻自在のクチバシを持っていて、あとは人間を足したような少年だ。160センチ越えの身長で、ラクトをゆうに見下ろしている。

「よっ、ラクトねーさんは今日も丸い体に磨きがかかってるな、そら、受け取れ」
「雪うさぎだからしょうがないし、丸く磨いてるわけないにょ。口の悪いクソガキめっ」

 ラクト渾身の頭突きをジャンプして避けたハトルは、服のほこりを空中で払ったあと、斜め掛けの革製のカバンから白い封筒を雪うさぎラクトにひらりと手渡し、言うだけ言ってさっさと邸から離れていった。

「ふんふん? 差出人の名前がないにょ。いったい誰から・・・?」

 縦長い封筒の上部を小気味よくあける。そのあと、ラクトの絶叫が猫島に響いた。

 ***

「にょっ、にょっ、にょっ!」
「ラクト、何やってんの?」

 元人間の少女で、今は猫化を維持したままの純白の猫・リオは、素早い動きで掃除を始めたラクトを見やった。 
 いつもは念入りに隅まで掃除しないのに窓と床を拭き、ほこりをチェックしながら掃除をしている。とうぜん、いつもと様子が違うラクトの様子に疑問を持ち、傍まで寄って話しかけた。

「掃除にょ・・・もうすぐ私のマミーが来るんだよ! とうとうひょっこり猫島を探り当てやがった!」
「(マ、マミー?)ニャンと! ラクトのお母さんが。は、初めてじゃない? わたし、変じゃない?」

 毛繕いし、白くてふわふわした猫の体をくるりと一回転させる。
 ラクトによく見えるように、首を傾けたり腰のくびれを強調して、そわそわしながらおすましをした。

「だいじょうぶ、ただの猫にょ!」

 ラクトの丸い手を、笑顔とともにグッと突き出す。
 すると猫のリオの毛並みがぶあっと逆立ち、次の瞬間には険しい目付きになった。

「ただの猫! せめて愛らしい猫と表現してくれたら良いのに」
「お願いだからガウラ連れてデートに行っててよぉ。あんた達がいたら話が余計におかしくなるにょ」

 リオと言い争っている時、床板を激しく歩く音が近づいてきた。髪に水を滴らせたガウラが、風呂掃除のスポンジを持ったまま扉を開けて立っている。
 
「今、でえとという単語が聴こえた。リオ、今すぐでえとしてくれっ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ガウラ・・・って、水! 水が毛並みに垂れて来るぅ。ニャオォッ」

 スポンジを床にほおり投げたガウラは、嫌がるリオに頬ずりしたまま悦に入っている。
 その隙をついて、リンゴとビスケット、ミネラルウォーター入りのペットボトルと猫じゃらしをバスケットに詰め、雪うさぎラクトは二人をデートに送り出した。

「奴らが出てる間に話を終わらせないと・・・にょ!」

 ピンポーン

 玄関からインターホンの音がする。
 震える体を叱咤して、ラクトは急いで訪問者を迎え出た。




神様なんて…

2012年02月12日 22時36分20秒 | 日記

【 登場人物 】
ブログ管理人ラクト
白呪記の主人公で白い猫。元は人間だった少女リオ





「ひふへほ、絶対いないだろ。分かってんだから!」
「ニャオォッ、いーや、絶対いるもん!」
「ふんっ、その自信に満ち溢れた根拠はどっからくるにょ? どこ? どこにいるにょ? ラクトはここにいるにょ~((゜∀゜))」
「(怒)まぬけそうな顔だよね。温厚な私も腹が立ってきちゃったw」

 ひょっこり猫島にて。今日も一日元気いっぱいに遊んでると思われた動物たち。しかし、今日の舞台である雪ウサギラクト邸では罵倒雑言が飛び交っていた。
 雪うさぎラクトはリオの頭にゲンコツをお見舞いし、白い猫のリオはむき出した自慢の爪でラクトの横ほほを十字に引っ掻き、お互いが間抜けな勲章をさらしている。
 二匹の真剣なまなざし(ガンつき)が逸らされる事はない。逸らした方が負け――獣の本能が真摯にそう語る。 

「私達の世界では普通にいたよ。エリーちゃんにパンナロットとか! てか、ラクトが創ったへんてこな世界だったし、神様関係はいっぱいいたでしょ」
「へんてこ言うな! でも、そうか。エリーちゃんにパンナロットね。でも、それとリアルとは関係ないにょ!」

 神様はいる、いないと二匹とも譲らない。けっして譲ることのない己の意見に、元人間であり、今は猫となったリオは問いかけてみた。どうしてラクトがこんなに荒んでしまったのかを。

「今日、おばあちゃんの33回忌があって。お寺のお坊さんが読経を唱えてくれてて。お香を移してそれから……」

 今日一日あったことを淡々としゃべる雪ウサギラクトは、うなだれて下を向いている。まだ、今日の行動に裏付けられた心理を語ってはいない。

「読経を唱えてくれてる時だったと思う。そのとき過去の事を思い出したんだにょ。そしたら不意に、神様を否定したくなったんだ」
「ひょっこり猫島で不満を吐露するなんてラクトらしくないね。まだ他になんかあるの?」

 猫と雪ウサギは一時休戦して、ソファに座りだした。
 ラクトは猫型のドーム状な天上を見上げて、目を瞑る。回想に浸っていた。

「神様が本当にいたら、私の左目を手術する事なんてなかったにょ。引っ越した先で、受け入れられないくらいキツイ坂を登り降りする事だって……」
「ちょ、ちょ、ストップ! どれから突っ込んだらいいのか分かんないけど、ラクトって目を手術してたの?」

 核心に迫ったラクトの過去。
 目を手術したと。
 しかし、ラクトは憤慨したまま続きを喋る。

「斜視だったから」 
「右目が外側によるんだよね?」
「それだけじゃないにょ。両目を真ん中にピントで合わせると目がぼやける。しかも物が二つに増えちゃうから、距離感がつかめないしね」
「そんな……」
 
 猫のリオは愕然とする。
 こんな状態なら、神様を否定したくなってもしょうがないと悟ってしまった。だが――

「手術は成功したんじゃなかったの?」
「成功したよ。だけど、何年かしたら元に戻ったにょ」
「!」

 どうしたらこんな状態のラクトを前向きにする事が出来るのか。
 猫のリオには難しく、黙って寄り添うことにした。

「今を形づくるのは自分しだいって結論づけたにょ。だってそうでしょ? 神様が本当にいたら、今の世の中は楽園だらけじゃないか。私の古傷だらけの過去だって、出来る事はなかった。だから、もう縋るのはやめようってね」

 雪ウサギクトのピンク色の耳が力なく垂れ、心なしか黒い瞳が潤んでいる。
 傍にいる、毛むくじゃらの白い手を握り締めて、ラクトは笑った。

「神様を否定はしたけど、人生を悲観してばかりではないにょ。これからの季節、暖かくなるしやりたい事がいっぱいで。そう考えたら、自分頑張れって思える様になったんだ」
「ラクト」
「もうちょっと頑張るにょ。運動して痩せたいとか、勉強頑張るとか~」
「私は応援するよ。ラクトの事だもんね!」

 そう、人生はこれからだ。自分の人生は自分で切り拓く。

 喜怒哀楽は必然に。しかし、喜びだらけの人生目指して。

 ひょっこり猫島の楽に満ちた日常は、いま始まったばかりだった。