真夏の夜の夢 ③
「私を喚(よ)んだ? ラクト」
にょ、呼びましたとも!
このままではガウラに冷凍蚊にされてしまうにょ。恥を忍んで言わせて貰います、マジ助けて
「ダメ」
え
「私をほったらかしにした罰よ。そうねぇ、以前にも地獄に行った事があるんだし、もう一度逝ってみたら?」
どうして私が地獄へ行くにょ
酷いよ、ルビリアニャちゃん
「私の気も知らないで批判なんて、よくもそんな事が言えるわね。可愛さ余って憎さ百倍って、この事を言うのかしら」
ル、ルビリアニャちゃん?
「…まぁ、半死になったようなもんだし、そろそろ許してあげようかな」
うっ、うっ、ギャグなお話のハズなのに、どうしてこんな涙もろくなってるにょ
お目めから、お水が止まらんにょ…
「…ラクト、私の血を飲んでみる?」
にょ?
「ニャ、ニャアァ…ルビリアナさん、この蚊はラクトなの? 一体どうしてそんな事に…」
「おい、ルビリアナ。何でこの蚊がラクトなんだ。一人で話を進めるんじゃない」
「この蚊は正真正銘、雪ウサギラクトよ。この蚊から、ラクトの波動を感じる」
は、波動てそりゃまたどこのジャンルのお話…って、大げさでも何でも、ルビリアニャちゃんが分かってるからそうなんかなぁ
「実は、こっそりラクトの部屋にデルモントの世界の蚊を一匹忍ばせたのよ。ラクトの血を吸ったらどうなるか、ちょっと見てみたくてw」
にょ~~~!
ルビリアニャちゃんが仕組んだにょ? やっぱり酷いにょ!
「でも大丈夫よ。我が魔族の世界・デルモントに生息する蚊なら、クロウ家の当主で上級魔族でもある私の血が勝るはず。毒の耐性もあるし、ラクトに血を吸われても体が変わるなんて事はないから」
「おい、リオはさっき吸われたぞ。大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫よ。それにこの蚊は…まぁ、それはさておき、雹土の監獄(グラウンドサークル)を解除してくれない? これではラクトに近づけないわ」
「…分かった」
ピシ、ピシ…パキィィィン…
……っ、うっうっ
「さ、早く私の腕の血を吸って」
分かったにょ
では、頂きます…
******
「にょ! はっはっ、こ、怖かったにょ…」
猫型のベッドの上で目を覚ます。
ミンミンゼミが鳴き、白いレースのカーテンからはオレンジ色が溢れだしていた。時は夕刻を告げている。
「……悪い夢だったにょ、本当に怖かったぁ。ゾンビに追いかけられるより怖かったにょ」
「長いお昼寝ね、ラクト」
「あ、ルビリアニャちゃん…」
自室の入り口で、黒い翼を広げたルビリアナが佇んでいた。
今日の服装はセーラー服に似せたワンピースを着ている。
「ガウラが晩御飯出来たって。私も頂いていくわ♪」
「そ、そう。ね、ルビリアニャちゃん…」
「ん?」
ベッドの上に腰かけ、雪ウサギラクトを膝の上に乗せるルビリアナ。
頭を撫でてくれる彼女は、いつもと変わらずに優しく接してくれる。
「何でもないにょ…さ、ご飯食べよう」
「変なラクトね。じゃぁ、行きましょうか」
一階のリビングルームに入ると、木材使用のテーブルには猫のリオが座っていた。
皆で一緒に食べれるように、ガウラが赤ちゃん用の椅子を改造したのである。リオの丁度良い高さでもある。
それぞれの指定席に座ると、丁度良いタイミングでガウラがお鍋を持ってきた。
「このスープ、リオやラクトも好きだったよな。いっぱい作ったから飲んでくれ」
「ニャオォ~ンw さっすがガウラ。いっただっきまーす」
「頂きます、にょ…?」
ガウラがお鍋の蓋を取って中が見えた。中身は真っ赤な色をした、トマトスープだった。
匂いも文句なし、カリスマレベルの出来にリオは大喜び。それぞれのお皿に盛り、皆が口付けた。
「リオ用のはこっちな」
「ちょっと薄味にしてくれたのかぁ。面倒だったでしょ?」
「リオが飲み食いする食べ物なんだ。厭わぬ事など万に一つもないさ」
「凄く美味しいわね…あら、ラクトは飲まないの?」
「にょ、あ、赤いスープはちょっと…うぇっぷ…」
口元に手を当てて、吐き出しそうな雪うさぎラクト。
ガウラはそれを見て憤怒したが、リオとルビリアナに抑えられて落ち着いていた。だが、それ以上は追及しないらしい。何故なら、彼らは先ほどの珍事を目の当たりにしていたからだ。
(夢の中で蚊になって、リオやルビリアニャちゃんの血を吸ってたなんて皆に言えないしなぁ…)
「このトマトスープと私の血、どっちが美味しいのかしらね」
「!」
「気絶するほど美味だったのかしら、私の血は」
ラクトの口元に付いたスープを指で拭き、そのままペロリと舐めて妖艶に微笑むルビリアナ。
紫色の瞳が爛々と輝きに満ち、瞬き一つ出来ぬまま唾を飲み込んでしまった。
私の表情を面白げに眺めながら、彼女はスープの変わりにパンを差し出して食卓を共にする。
嗚呼、彼女はどこまで私を翻弄するのだろう。
離されたと見せかけて、自由と勘違いした蝶は、自らの足で再び蜘蛛の元へ向かうのだ。
蜘蛛が獲物を離すその時まで。
異常な執着と共に今生を過ごす事となる。
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あとがき
あれ、これギャグ…ギャ…グ…?
途中から怖くなってしまった。。ラクトが考える小説ってこんなもんです;