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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

『センゴク』&『センゴク天正記』

2009-07-04 12:15:28 | 歴史雑談・感想

近頃いきなりはまってしまったのがこれ。宮下英樹氏による漫画『センゴク』シリーズです。
第一部は2004~2007年『週刊ヤングマガジン』にて連載され、現在全15巻のコミックスにまとめられています。続編に当たる『センゴク天正記』も2008年より同誌で連載中。コミックスは現在5巻まで。
美濃の斎藤家に仕える雑兵同然の一介の若武者から、豊臣(織田)家、徳川家の許で武将となり生き抜いた仙石権兵衛秀久の視点で戦国時代を描きます。

第一部では稲葉山城攻略、六条合戦、姉川の戦い、石山合戦、比叡山焼き討ち、三方ヶ原の戦い、小谷城陥落、『天正記』では伊勢長島一向宗の信徒二万人大虐殺、そして長篠の合戦と、物語を牽引するもう一方の主役、織田弾正忠信長様の怒濤の進撃は続きます。まあ、その中でいろいろ迷ったり、ひそかに落ち込んだりもしてるんですけどね、大殿は。隠れた繊細さや不器用さを秀吉はちゃんと見抜いているし。
西方では本願寺との一触即発な睨み合いが継続中、武田軍に勝ったはいいけれど、その向こうに越後の不思議庵……じゃなくて不識庵謙信様が控えているとあっては、おちおちもうかうかもしていられません。
戦国の世とは、そのように誰が勝っても負けてもおかしくない状況であり時代であって、魔王と怖れられた信長といえども決して例外ではなかったということがよく判ります。
そういう大局と、個々の合戦の様々な局面、そして実際に前線で戦う権兵衛たちの視点、と様々な方向から時代とそこに生きた人々が活写されているのが素晴らしいです。

実は第一部の初めの方を読んだ時には、話は面白いけれどなんちゅー下手くそな絵だと思い、無駄な濡れ場が多いことにも(これは掲載誌を意識してのサービスだったようですが、却って不評だったとか)閉口しましたが、その絵が第一部後半くらいから格段に上手くなり、『天正記』では語り口も凄味を増しています。籐吉郎秀吉の配下として右往左往するだけでなく、家臣を抱え、小なりといえども部隊を率いる将となったゴンベエの成長ぶりも見もの。

その他にも次々と魅力あるキャラクターが登場しますが、ギャンブラーで熱い家康(『天正記』では随分落ち着いていますが)、ブサイクで情けない浅井長政(最後はカッコよくなりますが)に、なんだかイッちゃってるお市の方、ロックシンガーみたいな本願寺顕如等々、意表をついてかなり面白いです。

が!トップ画像をわざわざコレにしたのは、何と言ってもいちばん驚いたのがこの人だったからです。
お判りになりますか?この隈取りメイクの人こそ、かの明智十兵衛、後の惟任日向守光秀なんですよ!
いえ、とっくに御存知のかたが多いと思いますが、私は最近ようやく知ったので(遅い!)びっくりしました。

満面に化粧を施して戦に臨むのは、自らの狂気を高め「鬼」となるためだそうですが、第一部での初登場シーン、この顔で片肌脱いでの「やあ、あけましておめでとう」は、かなり反響を呼んだようです(そりゃそうだ)。
でも化粧を落とした顔はけっこう優男。いや、第一部初期の頃は(何しろ絵も下手だったし)もしやギャグキャラ?と思ったりもしましたが、『天正記』では化粧顔の時の狂気度と共に、素顔の美形度もアップしています。モデルは何とヒュー・グラントさんだとか。うーむ……あの笑顔の口許と、ちょっと垂れ目なところがそうなのか?

秀吉の「禿げ鼠」はじめ、家臣や部下に好き勝手な呼び名をつける弾正忠様。光秀は「キンカン」「キンカ頭」などと呼ばれていたそうで、たいていの本では(フィクションでも研究書でも)「彼もハゲていたのでは?」と解釈されますが、この作品では「黄金色の頭脳」の謂いであり、信長からは参謀格どころか事実上の副将として遇されています。髪は寧ろうっとうしいくらい多くて長いです(笑)。

何にしても、時代小説やドラマ等でよく描かれるような線の細い秀才、青白い文官タイプの光秀像とは大違いですが、そもそも同時代のルイス・フロイスが記した光秀はそんな弱々しい人ではなく、その他の史料から見ても、実際は織田家最強の武将と呼ぶべき存在だったようです。
で、この作品の十兵衛様、あの化粧や言動も合わせて「こんな光秀見たことない」し、いろいろ面白すぎて目が離せません。第一部の頃はもう少し飄々としていたように思いますが、近頃は野心も見せるようになって来たし。しかし、明智光秀という武将の実像はかなりこれに近かったのではないかと、非常に納得できました。

鉄砲の名手にして、それを用いた軍略、作戦にも長け(「殺し間」というのは、明智隊お得意の十字砲火戦術のこと)、合理的で冷徹ときに冷酷、言いにくいこともズバズバ口にする──というわけで、昔からそういう指摘もあるように、知的レベルでも感性に於いても実は信長とはかなりウマが合い、そのため譜代の家臣ではないのに織田家随一の出世頭として、信長の右腕的存在となって行ったわけです。
比叡山焼き討ちにしても、諌めるどころか寧ろ積極的に関与しているし(と言うか作戦も立てている)、その後は家中で真っ先に大名となっているくらいだから、信長にとっては、自分の思うところを迷わず的確に実行してくれる有能な部下だったのでしょう。
同じく出自に関わらず異例の出世を遂げた秀吉とは、自他ともに認める織田家の両翼となるわけで、この二人の「嫌いだけど互いの力量は評価する」ライバル関係、また弾正忠様を頂点とするトライアングルもスリリングです。

しかし、いかに大殿から信頼され寵愛を受けていても、彼らの道はいずれ本能寺へと到るんですよね……
でもこの光秀だったら、巷に山ほどあふれる謀略説や「黒幕」などあり得ないという気がします。そもそもその種の説が出てきたこと自体、実は近年になってからの話だし。寧ろあまりにも近すぎる存在だったのがいけなかったのかな、などと思ったりもしますが、本当にどう描かれるんでしょうね。
3巻裏表紙コピー「最も信長に愛された、史上最も謎多き男」からは、今後も目を離せそうにありません。


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