Loomings

映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

オペラ(座)の怪人(1925)

2005-09-07 09:34:41 | 映画・DVDレビュー
オペラ座の怪人

ビデオメーカー

このアイテムの詳細を見る


この時期、先頃DVDが出たあの映画についてなら、あちこちで話題になっていると思いますので、ここではこの1925年版「怪奇映画の傑作」について。(座)としたのは、かつては『オペラの怪人』という邦題で知られていたためです。

製作はユニヴァーサル。プロデューサーとしてカール・レムリの名を冠しています。
そう、『ヴァン・ヘルシング』のソマーズ監督が、タイトルロールの相棒役の名前に付けてリスペクトを表したという人です。
作られた時代が時代だけに、モノクロ、サイレントです。仮面舞踏会(マスカレード)のシーンのみパートカラーだったという話も聞いたことがあるのですが、このDVDではそうはなっていません。
でも、オペラ座及びその地下迷宮の大セットや、エキストラの数を見ても、かなりの予算をかけて作られた大作であることが判りますし、光と影のコントラストの効いた撮影も美しいものです。

内容は思いのほか原作に忠実。むしろ、ロイド=ウェバー版はこの映画のフォーマットを用いたのではないかと思うくらいです。
但し、こちらにはマダム・ジリーもメグも出て来ません。代りに…と言うのも変ですが、思わせぶりに出て来てラウルを助ける「秘密警察の男」が、原作の「ペルシャ人」に相当するようです。
一方、原作やロイド=ウェバー版に見られた、と言うよりそれがテーマであるところの、ファントム(エリック)とクリスティーヌの心の交流は皆無です。
ファントムはあくまでも「怪人」であり、その容貌と所行の恐ろしさを嫌悪しつつも、彼への敬愛とそして同情を忘れることのなかったクリスティーヌは、この映画では見られません。ただ「化け物」「ケダモノ」と呼んで、ひたすら逃がれようとするばかりです。
ファントムの設定自体、原作のようにそれなりの(波瀾万丈な)社会的生活を営んで来た訳でも、社会から迫害された引きこもりでもなく、「犯罪者」であり「狂人」であり、つまりは完全な悪役扱いです。

しかし、そのような設定であっても、彼の悲劇性がちゃんと表現できているのは、やはり主演ロン・チャニー(正しくはチェイニー)の功績でしょう。

ファントムと言えばチャニーのこの顔がイメージされるという時代が長く続きました。モンスターの造形に今ほど手間も力もかけられず、ましてやCGなどない時代、チャニーが自ら考案したのが、このすさまじいメイク(むしろ、それこそ「造形」)だったとのこと。それはまた、原作の描写に忠実なものでもありました。
また、それが外見だけのこけおどしになってはいないのが素晴らしいと思います。もちろん役が役だし、大げさな身振り等も見られますが、たとえばベラ・ルゴシのドラキュラなどに比べたら遥かに抑制されているし、クリスティーヌに心情を訴えるシーンの「内面」演技も的確です。
この「悪役」ファントムの末路は、映画の設定に沿うように「悪が滅んでめでたしめでたし」という終わり方ですが、そこに「哀れ」を感じさせるのは、やはりチャニーの演技あってこそでしょう。

ところで、『オペラ座』関係では、朝日ソノラマコミック文庫から、JETさんによる『シャーロック・ホームズの冒険』という本が出ています。
え、ホームズ?とお思いでしょうか。確かにこの本には「ぶなの木立ち」と「ギリシャ語通訳」のマンガ化作品が収められていますが(また何てシブイ作品選択なんだ!)、後半に『オペラ座の怪人』がはいってるんですね。
ファントムの造形はロン・チャニータイプで、同じガストン・ルルー原作『黄色い部屋の謎』の名探偵ジョゼフ・ルールタヴィーユが登場するなど、随所に脚色が加えられ、全体に駆け足の展開ですが、クライマックスシーンでのクリスティーヌの
「昔はあなたを尊敬していたわ 恐れ----そして憎んだ だけど今は あなたの絶望だけが私の心をしめつける----」
という台詞は秀逸だと思いました。
出版元では品切れとのことですが、アマゾンには在庫があるようです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« また Oklahoma! | トップ | オペラ座の怪人(1986) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画・DVDレビュー」カテゴリの最新記事