目覚めのいい朝。昨夜は、ベッドに横になると直ぐに睡魔に襲われ、朝までぐっすり寝れた。体調は万全。
さっと、着替えと朝食をすませる。色々と考える事は、あるけれど……。
「今日は、集中して頑張らなきゃ。初のAランクの依頼だもんね」
鏡に映る自分の姿に言い聞かせ、両掌《りょうてのひら》を胸の前で拳をグッと握る。そして、魔導士用の帽子を被ると、杖を左手に取った。
「今日も、杖よし!」
指さし確認を元気良く出来た。これが習慣だもん。冒険に行く時は、欠かせれないもん。
「よし。行こう」
ガチャ。バタン。ドアを閉めて、振り向きざまに見上げた空も快晴。太陽が眩いよ。今日は大丈夫。きっと上手くやれる。そう信じて、待ち合わせの場へと向かうの。
*****
冒険者ギルドの前に来ると、サムの姿が見えた。やっぱりサムが一番乗りだなぁ。あと、隣に高そうな服を着た若い女性がいる。美人だけど、直感的に私は苦手な感じだな。観察しながら二人の方に歩んで行く。楽しそうに会話してる。何を話してるんだろ? サムが微笑んでる。心がキュッとして苦しくなるよぅ……。
「おはよう。サム」
「おはよう。こちらは、今日の依頼主の御令嬢だよ」
「キャリー・ロトモアです。今日は、お願いしますわね」
「はい。魔導士のチェリルです。頑張ります」
キャリー・ロトモアさんか。御令嬢だけあって、大金が寄って来る感じがする名前だなぁ。私の勝手な思い込みだけど。
「きゃっ。あれは、何をしてますの?」
キャリーさんが驚いて指さす方向を見る。そしたら、ロタノーラが見知らぬ中年位の男性の、お尻に顔をぴったりとくっつけてる。ほんとに、あの挨拶してるんだぁ。サムが慌てて止めに走ってる。
「ちょっと。聞いて、よろしいかしら」
「はい。何でしょうか?」
「あなたは、あの方の何ですの? もしかして恋人とか?」
「えっ。あっ。違います。仲間なだけ……です」
いきなり変な事を聞くから驚いたよ。でも、恋人じゃないのは本当だもんなぁ。
「そうなのね。それなら私のものにしても、よろしいわね。サム・バートル。見た目は、合格ですわ」
「……」
何も言えなかった。でも駄目なんて言えないよ。私にその権利無いんだもの。この人は、サムと恋人になりたいの? サムの気持ちは、どうなんだろう……。
「おはよう。チェリル。ペロペロペロ」
ボーっとしてた。そしたら、いつの間にか、ロタノーラが目の前にと思うのも束の間。顔舐めの挨拶されたよー。
「お、おはよう。ロタノーラ。やっはり、今日も顔を舐めるのー!」
「ロタノーラが尻に挨拶してたオッサンだけど。僕がギルドのトイレに行った時に、大きい用を足して出て来たぞ」
サムの言葉を聞いて、オエーッと心の中で叫んだ。だって、唇もロタノーラの舌が当たってるんだもん。
「もうー! おじさんの、お尻と間接キスじゃないのー!」
「あの、おっさんは、これまで、あたいの挨拶したので一番に臭《にお》ったよ。臭《くさ》くて、眩暈《めまい》がしたさ」
「この方々は、大丈夫ですの? 仲間は慎重に選ぶべきですわ」
「いい仲間なんですけど。たはは」
キャリーさんが呆れた顔で私とロタノーラを見つめている。サムは、苦笑い。
「ちょっと。私の、お尻は、嗅がせませんわよ!」
「なんだよ。あたいの敬愛の証《あかし》だよ!」
ロタノーラの挨拶行為を拒否し、抵抗するキャリーさん。お構いなしのロタノーラ。それをサムが必死で体を盾にして止めてた。Aランク依頼の緊張感は、まるでなしだなぁ……。
そうしていると、手配した荷馬車がやって来た。キャリーさんの乗る馬車は豪華みたいだから使用しない。目立たないように荷馬車で行くの。
「これで行きますの? 乗りごごちが悪そうですわね」
「我慢してください……。よし。皆、乗って。出発だよ」
「うん」
「はいよ」
皆が荷馬車に乗り込む。すると、待ちかねたように直ぐに御者が、ピシッと鞭の音を鳴らす。そして、馬の高らかな鳴き声と共に荷馬車は、初のAランク依頼の冒険へと走り出したんだよ。