【写真】JRSケア・センターのブランコで遊ぶ子どもたち
カクマ・キャンプで働く非政府組織(NGO)のひとつ、イエズス会難民サービスは、精神病を患った人への支援の先駆者である。「患った人も、そうでない人も、同じ人間です。彼らを差別する人を受け入れることは、一切できません。彼らには生きる権利も、人とかかわっていく権利もありますし、いかなる差別からも守られるべきです」と、JRSの責任者のひとりは言う。
この責任者(匿名希望*)によれば、コミュニティーにおいて「精神病患者の周りには、多くの誤解と虐待がある。私たちは支援を通じて、親や保護者、親戚が彼らを理解し、普通の生活を送るためにどうやって支えるべきか、手助けしています。こういった精神病は伝染病ではないことも知らせます。きちんと理解してもらえれば、差別も減るのです」
「キャンプ人口の4分の3は、程度の差こそあれトラウマやストレスを背負っている」と、JRSのカウンセラーは話す。難民キャンプは、そこで生きる人々の心理に重大な影響を与えているのだ。
こうした心理的な苦しみの原因は、さまざまだ。「大切な人を失った人もいれば、財産を失い、虐待を受けた人もいます。もうひとつの要因は、キャンプに来る前にナイロビのUNHCRで約束されたことが虚実だったと、キャンプに到着して分かり、落胆したことです。望みを失い、長い滞在でさらにストレスが積もり、落ち込んでしまうのです」
〈癒しのサービスの広がり〉
JRSはキャンプの中で3つのセンターを運営しており、精神病を患った人たちが社会的、精神的、身体的な活動を通して回復していく場となっている。
3つのセンターは、平日午前8時から午後3時まで開いている。勉強、美術工芸、刺繍、衛生教育、庭造りや陶芸といった活動が行われている。また、サッカー、バレーボール、バスケットボールといったスポーツのほか、空想を使ったゲームもする。歌や伝統舞踊も習い、散歩や静養の時間もある。
参加者のために朝食と昼食あ用意され、タオル、石鹸、古着が配布されることもある。
さらにJRSの代替治療部は、マッサージも行う。こうした代替治療マッサージは、心身症で苦しんでいる人のためだと、JRS責任者は話す。心身症とは、ストレスによって体に痛みを引き起こす可能性のある精神障害である。マッサージには体の痛みを和らげ、治癒を早める効果がある。
カウンセリングは、安心できる環境の中で心を打ち明けたいという人々のためのものだ。「心に問題のある人、それを誰かに打ち明けたいと願う人、誰でもカウンセリングを受けることができます。心の内を誰かと分かつ時、自分自身の問題の理解を深めることができ、自分で答えを見つけられるのです」と、JRSカウンセラーは話す。
JRSは、国際救済委員会(IRC)の精神健康管理部から依頼された精神病の人を主に受け入れてきた。JRSの家庭訪問に協力しているコミュニティーのリーダーや住人によって精神的に助けが必要だとされた人も、受け入れている。
「7歳以上の人は、誰でも受け入れています。ただし精神的健康状態が、『軽度』もしくは『中度』の人しか受け入れられまsん」と、副責任者。「完全な回復を目指して、力を尽くすことができる人たちだからです。病状が重い場合は、回復が見込めません。ほかの団体に行くことになります」
自殺未遂をした人は、JRSの精神的支援やカウンセリングを受けることはできない。JRSは関連するコミュニティーリーダーに連絡を取り、リーダーと共にコミュニティーの警備に連絡する。こうして、その人の安全は警備員に監察されることになる。
一部の患者は、てんかんや類似した病気を患い、それに合った治療を受けている。こうした治療は、IRCが担当している。
カクマにおける精神病患者に対する虐待と課題について、責任者は、「私たちは他の団体と協力して働きますが、相手がきちんと対応してくれないこともあります。そうすると計画通りに事が運ばなくなってしまいます。こうした課題もありますが、成功することもあります。完全に回復した人が現時点で3人いて、キャンプ内のNGOスタッフとして働いています」と言う。
職員が倫理と行動の規定を守っているので、人権侵害の報告はないそうだ。
〈事例研究・鎖につながれた女の子〉
カクマ・キャンプの自宅の柱に、足を鎖でつながれた小さな女の子がいる。11歳の彼女は、精神病を患っている。
彼女の母親によれば、2005年にごくありふれた病気になったのが始まりで、その後、少女の体を蝕むほど進んでしまったとのこと。2回入院し、慢性マラリアだとの診断を受けた。
この少女(匿名)は、10人兄弟の8番目に産まれた。自宅の柱に鎖でつながれていることが多いが、これはあちこち壊さないようにするためだ。行動範囲を狭めるための措置だという。一度は放火し、自宅が全焼。徘徊の傾向もあり、キャンプ中を家族が探すこともある。
JRSはこの少女の支援のために立ち上がった。以来、少女は毎週月曜から金曜までJRSのデイケアに参加。栄養のある朝食、昼食をJRSのもとで摂っている。
「JRSの人たちは、本当によくやってくれます。娘の面倒をよく見てくれますし、服をいただくこともあります」と母親。
「病気のこの子が家を焼いてしまったため、新しい家まで建ててくれました」と涙をこぼしながら話した。
毎日の投薬も、健康につながっているとのこと。「筋が通った話ができるようになりました。前は、まともな言葉は全然話せなかったのです」
JRSの副責任者によれば、この少女には注意欠陥・多動性障害(ADHD)、軽度の知的障害、てんかんが見られるそうだ。
「彼女がゲームを楽しめるようにしたり、敷地内を自由に動けるようにしています。ペンや紙を与えて好きに描かせるなど、特別支援教育もしています」とJRS職員。
自分の服をすべて脱いで投げ捨てたり、トイレに入れてしまうこともある。その際には、代わりの服も与えている。
JRSスタッフは、子どもへの扱いを観察するため、家庭訪問を行っている。JRS副責任者によれば、「この少女は変わりました。ちゃんと生きる方法を身につけています。前は排泄物を手でつかんでいましたが、今はそれは悪いことだと分かっています」
〈コミュニティーの感謝と懸念〉
コミュニティーの住人、親、親類、リーダーたちは、精神病を患った人へのJRSのこうした取り組みやケアに感謝している。
「これはJRSがこのキャンプでしている素晴らしい仕事だと思います」と、ブルンジコミュニティーの前リーダーは言う。「毎年、総会に招待されるのですが、精神病の子どもたちがゲームや園芸に参加しているのを目にします。一緒に遊んで、笑って、幸せを感じます」
1997年以来、息子がずっとセンターに通っているという母親は、資金提供者に感謝していると言う。「JRS職員は働いてくれますが、資金援助なしで維持できないでしょう。それより再定住を考えてくれるとありがたい。そうすれば家族の面倒は自分で見られます。前にもありましたが、予算はいつでも切られる可能性があり、そうしたらもっと苦しむことになります」
「私たちの支援のための一番の方法は、こうした難民の状況を耐えうるものに変えることだと思うんです。もう12年もここにいます。店に薬がなくなっても、民間の薬局から買うことはできない。健康回復も、途中で終わってしまう。いつまで、こうした支援を受けるのでしょうか」
難民たちは資金提供者の善意は認めても、寄付が届くまでの過程には疑問を抱いている。多くの手を通ってやっと届いたころには、大海の一滴になっているのだと言う。
* 本稿のJRS責任者の見解は私的意見で、JRSの公式見解ではない。
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