香織は同じことを繰り返し、確認するかのように哲也に言った。
「ねえ、覚えてる?出会ったときのこと、二十年前のこと」
まだ眠気の覚めない哲也は、一言で答えた。
「ああ、覚えてる」
繰り返し言われ、哲也は、どうしてこんなに、記憶にあるのか不思議に思っていた。
香織は、きっと、思い出して欲しかったのかもしれない。
あの食事会から出会って、専門学校に通うようになり、偶然なのか、また再会した。
再会した時の、哲也が思った香織への印象は、あまり良いものではなかった。
なれなれしいヤツ、夢や希望を持っても、いつも孤独なヤツ。
一人ぼっちの香織に、いつしか哲也はどうでもよくなった。
「哲也、遊ぼうよ」
なれなれしい口癖になってきた。
香織との出会いによって、哲也は変っていく。
都会社会に溶け込めない哲也は、いつもフラフラと自由な世界を求めていた。
ザワザワとざわめきの中、わずわらしいしがらみが嫌いだった。
哲也も一人ぼっちだったのかもしれない。
仲間と一緒にいても満たされる事はなかった。
とにかく満たされたくて、哲也は自分にないものを全て手に入れたかった。
3月、高校生活卒業と同時に、哲也はまだ18歳、東京にあるデザインの専門学校へ入学した。
この頃、哲也は高校当時の仲間とは別の人生を送る事になる。
仲間たちは、大学へ、進学ゼミへ通い将来の事を真剣に考えていた。
哲也は、将来の事など真剣に考えてはいなかった。