相手がパンチを出さなければ、隙を突きながら軽いパンチを相手に当てるのだ。相手の選手は冷静にパンチを出す直也に、まんまと策略にはまっていく。しかし、この策略は直也にとってもリスクがあったのだ。直也の体力は保持されるが身体のどこかを痛める可能性がある。中学生の直也は、そんな事はどうでも良かった。
「勝ちたい、優勝したい」
この思いだけで直也は打たれ強いタイプとみられたかったのだ。なぜか?それは前回優勝者に勝ち優勝トロフィーを優子に渡したい思いがあった。直也が、この2ラウンドで何を求めていたのかと言えば最終の4回戦だけであったのだ。この思いが闘争心に変わり直也に力を与えていたが心の中の思いは直也の奥深くの心にあった、まだ本当の直也自身は気づく事はなかった。
「直也ー!直也ー!直也ー!ガンバーだよ」
亡き久美子の「ガンバ」は口癖だった。その久美子の言葉をいうような優子の声援が直也を岩石に変えた。いや岩となりサンドバックのように殴られ続けていたのだ。2ラウンド2分を過ぎると直也の体勢に変化が起きた。初心者の直也にとってメリットよりもリスクが大きかった。直也の体勢は、やや下に下がりガードも甘くなっていった。
「やばいか!限界か?」と会長やコーチは言っている事の小さな声が直也に聞こえていた。
リンサイドにいるコーチは次の試合は無くなると思い始める。直也はコーチは会長の顔を見ながら首を縦にふりうなずいていた。
2ラウンドは数10秒で終わる。3ラウンドで直也の体勢が崩れる事あればタオルを投げる指示を会長は出していた。
あと十秒、九秒、八秒、七秒、六秒、五秒、とリング下の審判は口ずさみ始めリング上の審判はダウンのタイムカウントを口ずさむ。
「ワン、ツウ、スリー、フォー、ファイブ」と観客がダウンのタイムカウントを口ずさむ。きっと観客達は興奮した応援のあまり叫び始めたのだろう。直也が立っていられるかどうか?そして2ラウンドの鐘がなった。直也はゴングに救われた。
「カーン!」2ラウンド終了のゴングが鳴った。
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