直也は喧嘩をしていた時の事では仲間達の顔を思い出し直也の中にある怒りや憎しみの感情を打たれ続けている中で思い出していたのだ。
「打てよ、打てよ、打てよ、打てよ、打てー!」
直也は心の中で打たれる痛みよりも失った苦痛の方が何よりも痛みを感じていたのだ。そして直也自ら相手のパンチに頭突きをするように直也は気づかないうちに打たれ強い自分を相手にも周囲の観客にもリング下の審判やリング上の審判員にも印象付けていたのだ。直也は何時しか何も考える事なく本能だけで戦っていた。
「もっと打てよ、もっと打てよ、もっと打てよ・・・」
このまま時間が流れ判定まで持ち込んでも勝利はない。この2ラウンドは直也にとってこれまでより苦しい戦いだった。それでも体が倒れそうでも打たれ続ける直也だが相手はノックアウトに焦り始めパンチが当たっているのに、どんなにパンチを打っても直也は立ち続けてる事に焦りを感じ始め直也への恐怖心を持つようになっていく。
「ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!ダッシュだー!」
相手のコーナーからの声が直也には良く聞こえるようになる。
「もっと打てよ、もっと打てよ、もっと打てよ」
直也の心は研ぎ澄まされていく脆い刃が鋼鉄の刃になっていく。
「直也ー!離れろー!直也ー!離れろー!」
直也のコーナーのコーチ達の声も聞こえるようになると直也は何かに取りつかれたように打たれる事に笑みを見せる。
「来いよ!殺してみろよ!来いー!来いー!来いー!」
直也は自分が見えなくなっていく、もうボクシングじゃない。この2ラウンドは直也を無心にし直也の持つ素質が育ち始めていたのだ。
「もう無理だー!直也ー!やめさせろー!」
誰がどんなに叫んでいても直也の耳に入る事がなくなった。
「俺なんか、生きてても仕方がないよな、クーコ、春樹よ」
直也の中にある思いが久美子の命と春樹の命を蘇えらせようとしていた。
そんな時だった「カーン!」2ラウンド目の終了のゴングが鳴った。
直也は朦朧としてでも笑みを浮かべながら何かに取りつかれたように真っ直ぐ自分のコーナーの椅子へ足を向ける。
「直也!聞こえるか!」
「へへへ、へへへ、はい次です次ですよ俺が死ぬのは」
2ラウンド終了後に直也は狂ってしまったのだろうか?会長やコーチは直也の脳へのダメージを考える。プロテスト前の康志は直也の前に立ち直也の瞳を見つめる。
「お前まだやるつもりか?マジで勝つもりか?」
「はい俺は勝つ、必ず俺は勝つ、おれは必ず勝つ」
プロテスト前の康志は直也の頬を軽く叩き声を掛ける。そして直也の瞳を見つめている。 直也の眼つきは死んではいない、むしろ輝くような瞳だった。
「直也、思い通りに戦え戦って優勝を勝ち取れ!」
プロテスト前の康志と優子だけは直也の本当の姿を見ていたような気がしていた。
「直也なら、どんな事をしても勝てる優勝は目の前だ」
優子は久美子の渡されたドリームキャッチャーを強く握りしめる。
「神様、お願い」
「カーン!カーン!カーン!」ラストチャンスの3ラウンドスタートの鐘が鳴る。