数年前の秋の単独行、奥多摩の山中に座り瞑想しました。 . . . 本文を読む
朝早く 外へ出ると 涙が出てくるのです拭っても 拭っても 出てくるのです悲しい わけではありません辛い わけではありません感動の涙 でもありませんいかなる感情も ありません
あなたは 眼をこすりましたねと女医は言う。--はい。いけません。いけませんよ。痒いからといって つまんで揉むなんて とんでもない。失明しても知りませんよ。あなたは 網膜が弱っているのです。
光を 見てはいけませ . . . 本文を読む
人間の歴史が始まった時
一人の男がはるかに山脈をのぞんだ
山の向こうへ行く一番の近道として
男は、その凹んだ所に目を向けた
そして それから ---
どれだけ多くの人間が
そこを通ったろう
人は 誰でも . . . 本文を読む
失われたもの(その2)
夕闇の 都会の雑踏の中で私だけが ひとり 方向を失った車にも 人にも 方向があった---焦点がぼけるとそれは 大河の流れとなって悪臭を放つごみが いたる所に浮いていたその中を横切ろうと小さな虫が もがいていた
おーい 無限の草原(クサハラ)の風が起こすウエーブよー私は 心の中で叫んだ
---と、そのとき長い長い 灰色のコンクリートの 塀の中で苔むした 釣瓶がカラーン . . . 本文を読む
《雲に消えた黒点》
どこまでも続く大麦畑の その穂波の上を 東京ドームで起こる ウエーブのように 風が ざわざわと 音をたてて 駆け抜けて行く その先に もくもくと湧き出た入道雲
浦里村への峠道で ぼくは 刻一刻と変化する その雲の乱舞を見ています そのうち 太陽の黒点に似て キャンバスの白い絵の具の中に 蟻のように 黒く動くものがあるのです
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