《雲に消えた黒点》
どこまでも続く大麦畑の その穂波の上を
東京ドームで起こる ウエーブのように
風が ざわざわと 音をたてて 駆け抜けて行く
その先に もくもくと湧き出た入道雲
浦里村への峠道で ぼくは
刻一刻と変化する その雲の乱舞を見ています
そのうち 太陽の黒点に似て
キャンバスの白い絵の具の中に
蟻のように 黒く動くものがあるのです
鎮守の森の里神様ぁ-- あれは何んなのですか?
と そのとき 強い風が吹いて
穂波のウエーブが そびえ立つ雲に達したかと思うと
その中から アルプスの稜線が現れたのです
黒い蟻は その稜線を かすかではあるが
たった一匹で 上へ 上へと 動いているのです
でも それは 一瞬のことでした
その黒いものは 下から沸き上がってくる積乱雲に
あっと言う間に 飲み込まれてしまいました
鎮守の森の里神様ぁ-- あの人は何処へ行ったのですか
いまだに雲の中を歩いているのでしょうか?
それとも あの黒い蟻は 青春の日の私なのですか
---錯覚ではないですよね?