それに乗せられたのか、去る金曜日、音楽ドキュメンタリー映画 『タカダワタル的』(タナダ ユキ監督)を多チャンネルテレビで観た。
高田渡は、高石友也、岡林信康と並び称されるフォークの草分けだが、最近他界した。この映画で興味を抱いたのは、タカダワタル的生き方である。歌もそうだが、実にユニークな生き方であり、人生だ。女流監督はそのへんの所をうまくカメラで追っている。高田渡というフォークシンガーは毎日が酔っ払いの人生に見える。現実と夢が混同しているかのよう。舞台で歌っている最中に寝てしまった、という話もうなづける。
フォークシンガーだから、自作自演が多いが、現代の詩人たちの詩にも曲をつけていて、ラングストン・ヒューズやエミリー・ディッキンソンなんかも読んでるあたり、ただの酔っ払いではない。この映画では、下北沢の「ザ・スズナリ」や京都の「十得」などでのライブ模様がふんだんに取り入れられている。
谷川俊太郎の詩 『ごあいさつ』や有馬 敲の『変化』に曲をつけた『値上げ』など面白い歌が沢山出てくる。だが、山之口獏の詩に曲をつけた『生活の柄』は、実に「タカダ ワタル的」で、心に残る歌だ。
映画では、仲間とバンドを組んで歌っているが、各楽器の演奏者は皆一流で、実にうまいし、楽しい。舞台で彼ら個々の紹介場面を見ていると、高田渡も、こういう細やかな心配りも備えていて、それほど変人でもなさそうだ。
※高田渡 ファーストアルバム 「ごあいさつ」、高田渡&ヒルトップ・ストリングス・バンド 「ヴァーボン・ストリート・ブルース」などのCDがあります。 以下の2曲も「ごあいさつ」に収録されています。
変化 有馬 敲
値上げはぜんぜんかんがえぬ
年内値上げはかんがえぬ
とうぶん値上げはありえない
極力値上げはおさえたい
今のところ値上げは見送りたい
すぐには値上げをみとめない
値上げがあるとしても今ではない
なるべく値上げはさけたい
値上げせざるをえないという声もあるが
値上げするかどうか検討中である
値上げもさけられないかもしれぬが
値上げは時期尚早である
値上げの時期はかんがえたい
値上げを認めたわけではない
すぐには値上げしたくない
値上げに消極的であるが
年内に値上げもやむをえぬ
近く値上げもやむを得ぬ
値上げもやむをえぬ
値上げにふみきろう
生活の柄 山之口 獏
歩き疲れては 夜空と陸との
隙間にもぐり込んで
草に埋もれては寝たのです
ところかまわず寝たのです
歩き 疲れては
草に埋もれて寝たのです
歩き疲れ 寝たのですが
眠れないのです
このごろは眠れない
陸を敷いては眠れない
夜空の下では眠れない
揺り起こされては眠れない
歩き 疲れては
草に埋もれて 寝たのです
歩き疲れ 寝たのですが
眠れないのです
そんな僕の生活の柄が
夏向きなのでしょうか
寝たかと思うと寝たかと思うと
またも冷気にからかわれて
秋は 秋からは
浮浪者のままでは眠れない
秋は 秋からは
浮浪者のままでは眠れない
歩き疲れては 夜空と陸との
隙間にもぐり込んで
草に埋もれては寝たのです
ところかまわず寝たのです