あくる日、お兄ちゃんのお家で宿題をしてから、金属道路へ出発です。金属道路は、自転車とベンリイちゃんにふれあい、慣れ親しんだ人生の並木道です。防風林のアカシアの落ち花弁が、花密を出し、子どもには、いいおやつでした。
お母さんに鴨居からキーを取ってもらい、スタンドを下げると左傾げになった車体を両腕でしっかり支え、左足をしっかり地面につけながら跨りました。陽が短くなって来たから、キーを左指先で差し込み、ヘッドライト、側灯、尾灯をきちんと点灯させました。ヘッドライト上のパイロットランプが点いているから、ギアが入っていないのも確かめました。筋付きの四角いヘッドライトから逞しい光が溢れると、嬉しくてお母さんに微笑みかけました。反射光で手元が見やすくなり安心しました。
右手のひらをアクセルグリップに乗せ、親指と人差し指でセルボタンを挟みました。左指先で探りながらガソリンコックを捻りました。寒さが加わって来たから、チョークを引きました。右親指をセルボタンの窪みにあて、人差し指を添えるようにして、ギューッと押しました。
カチッキュカチッウォ〜〜
アクセルグリップを回さなくてもエンジンが唸り始めました。ライトが瞬間チラつきました。やった〜と歓声を上げながら、お母さんに微笑みかけました。暫く甲高い音が続き、暖気させました。毎朝聞いていた音を自ら出せたのが凄く嬉しかったです。 セルボタンは右親指と人差し指でずっと挟み押ししたままにしていました。カチッと微かな音がしてから吹き上がりの音が続いたから、モーターの電流は切れ、発電機に切り替わっていました。シリンダーヘッドに左手のひらを翳し、ふんわり温まると、チョークを戻しました。
ウォ〜ロロドドトトトットッ…
回転が落ち、ストップしそうになると、いたずら心が芽生えました。
カチッキュルキュルキュルキュル…
グリップを締め切り、ボタンを押したままにしてセルの音を楽しみながら、徐々に点火音が出るところまでグリップを開け、ホールドさせました。
カチットトトットッ…
トルクが落ち着きました。
グリップを上げ下げしました。
トットッドドロロウォ〜ンロロドドトットットト
これを続け、セルボタンを挟み押ししながらストップしないようにしてさらにトルクを落ち着かせました。右手をアクセルから離し、回転が続いていたら、ギアを入れられる証でした。