

ギアチェンジと灯火類操作をマスターすると、すっかりご機嫌になりました。
外気が冷えてきたから、アクセルを操作しないと弁が自然に縮まっていくのか、エンジンの鼓動が間欠し自然消滅しました。
トットトトットト…キュコ
こんな感じでキーを切らなくても停止しました。幼い頃、くろがね号オート三輪に乗せてもらった際も、2気筒だったから、こんな感じでアイドリングが止まったのを思い出しました。
メインキーを入れたままにして休憩しました。セルボタンをグイッと挟み押ししました。
キュルキュルキュルキュル....
「さっきより軽〜い。」
「そうだね。エンジン温まってるからね。」
セルモーターの音はエンジンの温度により微妙に変化していました。空回りしている音が快感でしばらく続けました。ボタンをギューッと押し込む瞬間、カチッと音がして、ヘッドライトがチラッとし、キュで暗、ルで明を繰り返しました。パッとボタンの力を緩めると、カチッと音がして、ライトが明るくなり、ヒューンいう蛇行音がしばらく続きました。やがてガクッと音がして、回転が止まったのがわかりました。
キュトットッルキュトットッル....
アクセルを少しずつ開けるとこの音が続きました。キュはピストンの上昇音、トットッは点火燃焼音、ルはピストンの下降音。エンジンが暖まり出すと、トットッがドッドッに高まりました。キュでキックを半分踏み下ろすとピストンの動きがわかりました。ライトを点けながらエンジンの周期を学んでいると、大人の感覚が嬉しくなりました。
バイクの楽しみは、股間を伝う振動です。セルモーター、キック、エンジンの鼓動、吸気や排気管から出る音と匂い、刻々と手足の動きで変化して、興味は尽きませんでした。エンストした際、吸気や排気が強い匂いだと、セルモーターを空回ししたり、キックを優しく踏んだりして、生ガスを逃がしてあげました。お母さんは、バーンという音や、ケッチンが怖いから、優しく優しくって教えてくれました。とにかく、音感と嗅覚が大切でした。
キュトトルキュトトルキュトトル....
生ガスを逃がしていると、この音が続きました。アクセルを絞っても残りの燃料が点火燃焼しているんですね。
キュドッドッドッドッドッドッカチッヒューンガクッドッドッ....
この音がしたら、モーターが発電機に変わるから、アクセルを上げるとエンジンが優しく唸りました。
ウオーンドッドットットッ
アクセルを上下させ、吹かして遊びました。セルボタンを押しっぱなしにしてもキュルキュルがしなくなりました。ハンドルを左に傾け、お母さんに指先を見せながら、押したり、離したりすると、カチッカチッと音がして、ライトが一瞬チラッとしますが、モーターは回らないし、発電を続けて、ライトが一定の光量を保っていました。エンジンが優しく唸ると、セルボタンは、指先の遊び道具になりました。
あくる日、基本的な動作を身体に染み付かせると、ギアチェンジを組み合わせて行いながら、行ったり来たりして、スピード感覚を学んでいきました。
「お母さん、爪先や踵でギアを変えたりしてみるから、見ていて。」
「いいよ。」
ウオーンギユッガチャウオーントットッドッドッドッドッルルロロロロ....
回転が落ち着くロロロロという音がすると、左手のひらをゆっくり緩めました。ヨロヨロ走りが、だんだん車体が安定しました。アクセルグリップをゆっくり上げて行きました。左手の親指でハイビームに切り替えました。砂埃がライトに吸い付くように見えました。ハイビームにすると、遠くまでハッキリ照らせました。対向車の自転車やバイクもよく見えました。右手のひらは、アクセルをゆっくり上げて、スピードに乗って来ると自然とハンドルバーと身体が平行になっていました。親指と人差し指は、やんわりとボタンを挟み押したり、離したりして遊んでいました。優しいエンジンの鼓動にカチッカチッという音が混じっていました。アクセルをパッと緩めると、走ったままでも、エンジンサウンドが止み、キュルキュルという音が鳴りました。再び、アクセルを上げると、ウオーントットッドッドッロロロロとエンジンサウンドが唸り、安心しました。ドロロという音が大好きになっていました。中学道路と交わるところで、往路は減速です。踵からニュートラルに戻したり、爪先からニュートラルに戻したり、ギアを切ると自然とアクセルスロットルが上がり、ウオーンと唸ったから、上げ下げして、フットブレーキをゆっくり踏み、右の中指、薬指、小指でハンドブレーキをゆっくり握り、止めました。三菱金属の倉庫正門で方向転換です。
時間を大切にしたいから、2速から3速、4速と同じように往来して、練習しました。砂地や砂利道で練習していたから、転倒しても怪我が少なく、安全でした。砂が身体についたり、靴や衣服に入ったりするから、帰宅すると、母によく叱られました。でも、学んだことを母に話すと、バイクって楽しいんだとわかってくれました。
砂丘地帯の農地には、大根がたくさん栽培されていました。11月初頭になると、気温が下がり出し、収穫期を迎えます。道端に規格外の収穫物が放ってありました。私は、もったいないと思い、よく拾って来ました。砂だらけで帰った罪滅ぼしと思い、持ち帰ると、母に尚更叱られましたが、結局、綺麗に洗い味噌汁の具材にしてもらえました。
さて、ベンリイちゃんのチャームポイント、まだ話しは尽きません。角目のヘッドライトは、表面に縞柄のギザギザがあり、これが遠くまで照らせる理由だと思いました。スイッチの表示は、英語の頭文字がふってあり、お母さんにどういう意味なのか、綴りを教えてもらいました。ライトを点灯させながら、光を見つめ、ロービーム、ハイビームを切り替え納得していました。暗闇の中でお母さんと対話しながら、操作を覚えました。アクセルグリップを握っていると、大きなセルボタンが指先から飛び出て見え、自然に凹ましたくなりました。凹ますにも力がいらないし、柔らかい感じでした。凹ました後も半分くらい側面が残るから、親指と人差し指で戻りを押さえて、アクセルを楽に上げ下げ出来ました。