Old Master Reproduction
ミレー:「馬鈴薯植え」模写
油彩 on canvas (デジカメ)
〔ミレーと作品について〕
ジャン=フランソワ・ミレ―(Jean-François Millet)は、印象派に先駆けてアカデミズム絵画※1とは一線を画するペインタリー※2な画風を
摂取、展開した、「バルビゾン派」のリーダー的存在であった。
西洋美術におけるアカデミズムの最後の牙城ともいうべき、パリのエコール・ボザールにて精密な写実描写を習得しており、若くしてサロン
の常連でもあったのだが、ほどなく歴史画や神話画を放棄し、素朴な農民の姿を主題にした作品を手掛けるようになる。
アカデミズム技法の面目躍如たる、正確で堅固なトーナリティーと、繚乱たる筆致と色彩を強調する方向性とは相容れないようでいて、ミレ
ーにおいてはそれらがバランスよく統合されている。
バルビゾン派はリアリズム派とほぼ同時期に台頭し、活躍の場を持ったが、ミレーはすでに筆触分割法を試みていたし、その画風はある
意味、エデュアール・マネなどよりも印象派に近いとすら言えるのではないか。
西洋美術史にその名を刻む巨匠たちの中には、いわば「前印象派的」なアカデミズムと、「後印象派的」-ポスト・インプレッショ二ズムのこ
とではない。「印象派以降、完全にメインストリーム化した描写スタイル」という意味での表現であり、これに該当する画風の画家は、古くル
ネサンスの頃より知られている-なペインタリズムという、マクロな二大潮流を絶妙な仕方で折衷したと評し得る画家が、決して多くは
ないが散見される※3。
私見ではミレーもこの精鋭たちの中に含まれるが、彼らの作風は、ある意味では、西洋美術の真髄を体現していると言えるのではないだ
ろうか。
『馬鈴薯植え』は『晩鐘』、『落ち穂拾い』等と並んでミレーの代表作の一つで、これらの作品群は、パリ万博のサロンにて画家に一等賞の
栄誉をもたらした。
数年前に六本木美術館で開催された、「ボストン美術館展」の出展作品の一点として来日した際、管理人は直に鑑賞する機会があった。こ
の際に展示場で購入したカタログの図版は、色彩がかなり実物に近いレヴェルで再現されており、本作の模写のレフェレンスとして活用した。
※1(Academism painting= 素描とトーナリティーを重視し、筆跡を残さぬように精妙な写実描写を理想とする。古典主義絵画ともい
う。西洋においては長らく、このスタイルの嚆矢にして究極の模範は、ルネサンス期のラファエロであるとみなされてきた。他に、アングル
なども代表的な画家である。アカデミズムでは作品の題材にもヒエラルキーを設けており、歴史画や神話画をその最高位に置き、実生活
に基づいた風俗画や風景画は軽んじられていた。)
※2(Painterlismは、日本語で色彩主義、色彩派と訳されることが多いように見受けるが、これはあまり適切な訳語ではないと思う。ア
カデミズム派にも豊穣な色彩が特徴的な画家はいるし、ペインタリーを標榜する画家に貧しい色彩が見られることも多々あるからである。
適切な訳語を当て難いのであるが、「ペインタリー(painterly)」とは要するに、ブラッシュストローク、筆致を活かして描くスタイルのことだと
理解すれば良いと思う(必ずしも、プリマ描きである必要はない)。
このスタイルの嚆矢はヴェネチア派であり、印象派やドイツ表現主義は言うまでもなく、その代表格である。)
※3(ティツィアーノ、ヴェラスケス、レンブラント、ハルス、シャルダン、ターナー、サージェント、ベーコン、ルシアン・フロイトらの作品など、そ
の最高級の範例であると言えよう。)
せっかくですので、ついでに↓
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