その男の口癖は「俺は、命を狙われている。今日で最後かもしれない」だった。いつも持ち歩いている大きなスーツケースには、子供時代の玩具や母子手帳?初恋の彼女の写真、その他諸々の物が詰まっていて、運ぶだけでも、疲れてしまうらしく、いつも肩で息をしていた。
ある時、「絶対今日が俺の命日だ!」と言いきり、周囲に別れの挨拶をして去っていったのだった。
周りの知人たちは「本当だろうか?」と疑心になったが、徐々にその存在は忘れていった。
それから一年経って、隣街で買い物をしたその男の知人がガソリンスタンドに入り、「満タンで」と店員の顔を見ると、なんと、死んだはずの男が「はぁい~了解」等と言って働いている。 完