山道で迷った私は、疲労困憊になり、助けてくれる村にたどり着くのを祈りながら、歩いていた。時間だけが虚しく過ぎてゆく。もう一歩も動けなくなった私の前に、巨大な魚が現れたのだった。その魚は私を見てこう言った。
「私の背中に乗りなさい」
疲れた私は倒れこむように、その背に乗った。
山の小路を魚が泳ぐ。背に乗っているうち、だんだん回復してきた私は、魚の顔がある芸能人に似ているのに気付いてしまった。驚く私に、“彼”は言った。
「あの世界の荒波を乗りこなすには、魚になるしかなかった。黙っていてくれるね」私は即座に答えた。「勿論です。後でサイン下さい」完