リンパ系は体液の恒常性、老廃物の除去、免疫応答などの調節を行うことが知られていますが、最近まで脳、目、骨などの組織にはリンパ管がないと考えられていました。最近の研究から脊椎にリンパ管が存在することが報告されていますが(Jacob et al., Nat Commun. 2019 Oct 9;10(1):4594)、リンパ管の異常増殖が著明な骨融解を示すGorham-Stout病の原因であることから、骨組織においてリンパ管は有害な作用を有すると考えられていました。本論文で著者らは光シート顕微鏡プラットフォームで高解像度で無傷の骨を免疫標識して3D可視化する方法を開発し、骨組織のリンパ管の動態を詳細に明らかにしました。その結果、ほぼ全ての骨組織にリンパ管が存在し、特に皮質骨に豊富であることが明らかになりました。骨組織に放射線を照射すると骨の血管や骨髄が破壊されますが、照射後の骨組織ではリンパ管内皮細胞(lymphatic epithelial cells, LECs)の増殖に伴ってリンパ管の劇的な拡張が見られました。このようなリンパ管拡張はリンパ管新生に重要なVEGF-C/VEGFR3シグナルの阻害剤で抑制されました。またLECsの増殖には放射線照射後に発現が増加するIL-6が重要な役割を担っていますが、同様に発現が増加するIL-18、IL-27、およびIL-7は関与していませんでした。増殖したLECsにおいてはIL-6依存性にケモカインであるCXCL12発現が亢進していましたが、CXCL12が欠損すると放射線照射後の造血能回復が阻害されることが明らかになりました。また放射線照射は骨特異的にミオシン重鎖11(Myh11)陽性細胞(pericyte)の有意な拡大を誘導しましたが、この増殖にはLECsの存在が必須であり、Myh11陽性細胞が欠損すると照射後に生じる骨形成促進が抑制されました。興味深いことに老化マウスではMyh11陽性細胞の増殖が見られず、これはLECsにおけるCXCL12発現低下に起因することも明らかになりました。以上の結果から、骨の損傷に伴って発現増加するIL-6はLECsの増殖とCXCL12発現を誘導し、これがMyh11陽性細胞の拡大を介して造血、骨形成を促進することが明らかになり、骨組織におけるリンパ管の重要性が示されました。
Biswas et al., Lymphatic vessels in bone support regeneration after injury. Cell. 2023 Jan 19;186(2):382-397.e24. doi: 10.1016/j.cell.2022.12.031.