とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

軟骨無形成症に対するvosoritideの有効性が示された

2020-09-26 07:46:03 | 整形外科・手術
軟骨無形成症(achondroplasia)は線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)の恒常活性型変異によって軟骨の成長に障害が生じ、低身長や四肢短縮を呈する疾患です。薬物療法としてはこれまで成長ホルモンの投与などが行われてきましたが、その効果は限定的でした。C-type natriuretic peptide(CNP)は骨伸長促進作用をもつ生理活性ペプチドであり軟骨無形成症に対する効果が期待されていました。日本からも京都大学名誉教授の中尾一和先生のグループなどから優れた研究が報告されています。今回CNPアナログであるvosoritideの軟骨無形成症に対する有効性を検証した無作為化二重盲検第 3 相プラセボ対照多施設共同試験の結果が報告されました。5歳以上18歳未満の患者に対してvosoritide150 μg/kgまたはプラセボのいずれかが投与され、52週間における平均年率成長速度のベースラインからの変化をprimary endpointとしています。結果はvosoritide投与群において、プラセボ群より1.57 cm/年成長が早かったというものです (95% CI [1·22–1·93]; two-sided p<0.0001)。憂慮すべき有害事象は出なかったとのことであり、今後軟骨無形成症患者に対する標準治療になっていく可能性があります。
 

海綿の骨格構造がすごい!

2020-09-26 07:43:34 | 整形外科・手術
生物のしくみの巧妙さはヒトの発想を超えるものが多く、バイオロジーで言えばノーベル賞を受賞された下村脩博士がオワンクラゲから発見された緑色蛍光タンパク(Green Fluorescent Protein:, GFP)などは大変有名ですし、マテリアルの分野では蚊の針を模して作成した注射針なども好例として挙げられるかもしれません。この論文では深海に生息する六角海綿(hexactinellid sponges)の一種Euplectella aspergillum(カイロウドウケツ; 偕老同穴なんて少しロマンチックな名前ですね)の骨格系に注目しています。この海綿の骨格は、正方形の格子状の構造に二重の対角線ブレイシングを重ね合わせたもので、開いた細胞と閉じた細胞のチェーカーボードのようなパターンを形成しています。有限要素法で調べると、この構造が、与えられた量の材料に対して最高の座屈抵抗を達成することが明らかになりました。このような格子構造を橋やビルなどに応用することで、力学的に強固な建築を低予算で作成することが可能なのではないかと注目されています。人工骨など、ある程度の強度が必要なバイオマテリアルにも応用できそうです。 

雄雌が融合する深海魚の免疫システム

2020-09-25 12:01:44 | 免疫・リウマチ
Sexual parasitismと言ってもヒモのことではありません。ある種のチョウチンアンコウは、小さなオスが大きなメスに付着し、場合によっては完全に融合してしまい、オスは全ての栄養をメスに依存するようになります。まぁそういう意味ではヒモですかね。。これは深海に住んでいるし活動度も低いために、中々オス・メスの出会いの機会がないので、貴重な出会いの場を逃さないためにこのような進化を遂げたようです。肉食系ですな。
これは同種移植のようなものですから、普通はこのような状態になれば、ホスト(メス)側の免疫機構がオスを排除するように働くと思われます。しかし一時的に融合するような種類のチョウチンアンコウでは免疫グロブリンのクラススイッチなどに重要なaicda遺伝子を欠くことで抗体による拒絶反応が生じなくなっていること、そして恒久的に融合する種では主要組織適合遺伝子複合体(MHCタンパク質)の一部が欠損していたり、rag遺伝子の欠損によって免疫の多様性が失われており、そのため免疫的な拒絶が生じないことが明らかになりました。免疫の多様性が必要な理由は、外部からの微生物などの多様な外敵の侵入に対応するためですから、確かに深海ではそのような心配をする必要はなく、それよりはオス・メスが融合する方が種の生存に重要なのかもしれません。チョウチンアンコウは離婚も命がけということですね。(-_-; シミジミ
Swann et al., Science. 2020 Jul 30:eaaz9445. doi: 10.1126/science.aaz9445

肥満の妊婦に対する帝王切開後のSSI

2020-09-23 14:22:20 | 妊娠・出産
日本でも帝王切開での出産が増えていますが、アメリカでは32%の出産がが帝王切開によるものだそうです。この論文は帝王切開後の手術部位感染(SSI)に対する陰圧閉鎖療法と通常のドレッシングを比較したものですが、対象とした患者はBMI≥30の肥満患者というところがアメリカらしいです。陰圧閉鎖療法群はPrevena(KCI USA, Inc)という機器を術後7日間使用、通常ドレッシング群はガーゼで創を被覆する(1日でガーゼはオフ)というプロトコールで(1日でガーゼオフというのは産科では一般的なのですかね・・)、1624名をランダム化して、それぞれの群に816名、808名が割り付けられました。プライマリーアウトカムはCDC基準での表層あるいは深層SSIの発生です。結果は表層あるいは深層SSIの発生は3.6% vs 3.4%と有意差なし(P=0.58)。深層SSIのみでも1.4% vs 1.4%と有意差なし(P=0.73)、施設、BMI category、皮切のタイプ、糖尿病など、様々な層別化解析をしても有意差はありませんでした。アメリカ人は出血もすぐ止まるなど感染に強そうなので、日本人では異なった結果がでるのかもしれませんが、陰圧閉鎖療法に使用する機器のコストを考えるとむやみな使用は控えるべきでしょう。 
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2770848

靴先端の反りかえり(toe spring)の役割

2020-09-22 13:41:45 | 整形外科・手術
ヒトが2足歩行を行うにあたって、様々な解剖学的な変化が下肢に生じましたが、その変化の一つが中足骨MTPJ関節面の背屈による足趾のMTP関節の背屈です。歩行時にはMTPJがさらに背屈することで巻き上げ作用(windlass mechanism)によって足底腱膜の緊張を高め、足底アーチを保つのに役立つとされています。靴の先端が反っている(toe spring)はそのような足の動きをアシストし、歩行やランニングを楽にすると考えられています。この論文で著者らは様々な角度(10度~40度)のtoe springを有するサンダルを用いて、靴の背屈角度は足底腱膜の緊張にあまり影響しないが、toe springの角度が大きくなると歩行時に足部が必要とする仕事量が減少し、負担が減る可能性を示しています。一方これによって内在筋にかかる負荷が減少し、内在筋が萎縮することで足底腱膜への負担が増加し、足底腱膜炎の発症につながる可能性があるとしています。靴のデザインも奥が深いです。