とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

肥満の妊婦に対する帝王切開後のSSI

2020-09-23 14:22:20 | 妊娠・出産
日本でも帝王切開での出産が増えていますが、アメリカでは32%の出産がが帝王切開によるものだそうです。この論文は帝王切開後の手術部位感染(SSI)に対する陰圧閉鎖療法と通常のドレッシングを比較したものですが、対象とした患者はBMI≥30の肥満患者というところがアメリカらしいです。陰圧閉鎖療法群はPrevena(KCI USA, Inc)という機器を術後7日間使用、通常ドレッシング群はガーゼで創を被覆する(1日でガーゼはオフ)というプロトコールで(1日でガーゼオフというのは産科では一般的なのですかね・・)、1624名をランダム化して、それぞれの群に816名、808名が割り付けられました。プライマリーアウトカムはCDC基準での表層あるいは深層SSIの発生です。結果は表層あるいは深層SSIの発生は3.6% vs 3.4%と有意差なし(P=0.58)。深層SSIのみでも1.4% vs 1.4%と有意差なし(P=0.73)、施設、BMI category、皮切のタイプ、糖尿病など、様々な層別化解析をしても有意差はありませんでした。アメリカ人は出血もすぐ止まるなど感染に強そうなので、日本人では異なった結果がでるのかもしれませんが、陰圧閉鎖療法に使用する機器のコストを考えるとむやみな使用は控えるべきでしょう。 
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2770848

アレックスか!

2020-04-10 10:26:39 | 妊娠・出産
米国コネチカット州の医師で軍医であったWilliam Beaumont(ウィリアム・ボーモント 1785年11月21日 – 1853年4月25日)は1822年6月6日に散弾銃の暴発のために腹部に穴が開いてしまったAlexis St. Martin(アレックス・サン・マルタン)の治療にあたりました。アレックスは奇跡的に助かったのですが、その後も胃壁に穴が開いたままの状態であったため、ボーモント医師はアレックスの胃の内容物を食後経時的に採取して調べる等という、およそ現在では許されないであろう過激な研究を行い、消化の動態について大きな成果をあげたとのことです(Wikipediaより)。さて今回のHuangらによるScience論文は、マウスの子宮に窓を開けて経時的に胎児が発育していく様子をin vivo imagingで詳細に観察したというものですが、読んだときに思わず「アレックスかよ!」とツッコんでしまいました。 内容は・・・是非読んでください(笑)。写真がきれいですよ。
Huang et al., Intravital imaging of mouse embryos
Science  10 Apr 2020: Vol. 368, Issue 6487, pp. 181-186
DOI: 10.1126/science.aba0210
https://science.sciencemag.org/content/368/6487/181 


母親IgGの胎児移行に関与する因子

2020-03-13 18:31:58 | 妊娠・出産
母親のIgGが胎盤を通過して胎児に移行することは胎児の初期免疫に重要であり、母親へのワクチン投与によって胎児・新生児の感染症予防が可能になる。この論文ではHIV感染妊婦においてIgGの胎児の移行が低下していることに着目し、極めて詳細な臨床研究からIgGの胎児移行に関与する因子を明らかにした。その結果、抗原特異的なIgGが一様に胎児に移行するのではなく、様々なセレクションがかかっていること、例えばIgG FcR binding strength, IgG subclass(IgG1, G4が移行しやすい)そしてIgGのFc部分のglycan profiles(fucose, bisected, disialylated glycans)が移行に影響することが明らかになった。これだけの臨床データを細かく解析し、しかもきちんとした論文にまとめ上げたというのは驚きです。この論文とback-to-backでdigalactosylated Fc-glycansが選択的にFcRnおよびFCGR3Aに結合して胎児への移行を促進することを明らかにした論文が掲載されています。興味深いことにこのような修飾を受けたIgGはNK細胞を活性化する能力が高いそうです(https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(19)30615-4)。これらの結果は胎児の免疫という観点からも、また母親から胎児に移行しにくい抗体製剤の開発という観点からも極めて重要です。
Cell. 2019 Jun 27;178(1):190-201.e11. doi: 10.1016/j.cell.2019.05.046. Epub 2019 Jun 13.
Fc Characteristics Mediate Selective Placental Transfer of IgG in HIV-Infected Women.

胎盤の細菌叢は重要か?

2020-03-13 18:16:52 | 妊娠・出産
胎盤機能異常は胎児の問題と関連することが知られている。これまでに胎盤にはユニークな細菌叢が存在し、その変化が胎児の異常につながることが報告されている(Aagaard K et al., Sci Transl Med. 2014 May 21; 6(237): 237ra65)。本論文で著者らは子癇前症や胎児発育障害などの問題を有する318例を含む537例の出産において胎盤の細菌叢を調べ、胎盤に存在する細菌は極めて少なく、検出される細菌のほとんどは出産時など、様々な経路からのコンタミネーションであることを明らかにした。唯一出産前(5%)に検出されるのはStreptococcus agalactiaeであり、周産期の敗血症との関係が示唆されたが、その存在は妊娠の有害転帰とは無関係であった。 
Nature. 2019 Aug;572(7769):329-334. doi: 10.1038/s41586-019-1451-5. Epub 2019 Jul 31.
Human placenta has no microbiome but can contain potential pathogens.

帝王切開の新生児に対する作用

2020-03-13 18:06:45 | 妊娠・出産
「帝王切開で生まれた新生児は母親の産道(膣内)の細菌叢に接する機会がないため、喘息やアレルギーなど様々な問題を生じるリスクが高い」という説がまことしやかに語られていますが、最近いくつかのグループが帝王切開出生児に母親の膣内細菌を塗布するという研究が行われています。結果は今後出てくると思いますが、必ずしも新生児の細菌叢形成に出産経路だけが関わるわけではなく、胎内にいるときからすでに細菌叢が形成されてくる可能性も示唆されています。また膣内細菌を塗布することが新生児に感染などのリスクを高めることも指摘されています。 
Nature. 2019 Aug;572(7770):423-424. doi: 10.1038/d41586-019-02348-3.
Do C-section babies need mum's microbes? Trials tackle controversial idea.