とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

骨髄Osteolectin陽性細胞は運動負荷によって増加しリンパ球造血を制御する

2021-02-27 05:40:52 | 骨代謝・骨粗鬆症
Leptin受容体陽性(LepR+)細胞は、骨髄nicheにおいて造血幹細胞維持に重要な役割をすることが知られています。骨髄におけるLepR+細胞は小動脈arteriolesおよび洞様毛細血管sinusoidsという2種類の血管に隣接して存在しますが、この論文では、LepR+細胞の16%程度が著者らが報告していたC-type lectin domainを有する骨形成性増殖因子osteolectin (Clec11a) (Yue et al., Elife. 2016 Dec 13;5:e18782)陽性であり、小動脈周囲にのみ存在することを明らかにしました。Osteolectin陽性 (Oln+)細胞は骨芽細胞へ分化しますが、脂肪細胞へは分化しないosteogenic progenitorであることも示されました。Oln+細胞においてstem cell factorを欠損したマウスでは造血系細胞のうちcommon lymphoid progenitor (CLP)のみが著しく減少しており、リンパ球によって駆除されるListeria monocytogenes感染に対する抵抗性が弱いことが明らかになりました。興味深いことに、Oln+細胞はメカノセンサーであるPiezo1を発現し、正常なマウスに運動負荷を加えるとOln+細胞が増加するとともにCLPも増加すること、加齢マウスではOln+細胞が減少していることが明らかになりました。
この研究は運動負荷や加齢がOln+細胞を介してリンパ球造血に関与し、感染に対する抵抗性を制御している可能性を示しており、大変興味深いものです。
Shen, B., Tasdogan, A., Ubellacker, J.M. et al. A mechanosensitive peri-arteriolar niche for osteogenesis and lymphopoiesis. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03298-5

頭部神経堤細胞におけるBMPシグナル活性化はautophagy抑制を介して軟骨分化を促進する

2021-01-14 12:01:19 | 骨代謝・骨粗鬆症
進行性に異所性骨化が進行する進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia ossificans progressiva, FOP)はBMP受容体であるALK2/ACVR1の変異が病因であることが明らかになっており、変異型受容体は BMPのみならずActivin Aによっても活性化されることが疾患進行に重要であるとされています。京都大学の戸口田先生らはFOPの疾患特異的iPS細胞を用いた研究から、mTOR阻害薬であるrapamycinが骨化の進行に有効であることを報告されていますが(Hino et al., J Clin Invest. 2017 Sep 1;127(9):3339-3352)、rapamycinがどのようにしてACVR1シグナルに影響するのかという作用機序については不明な点も残っています。さてFOP患者では下顎低形成などの顔面変形が見られることもあり、筋⇒骨の経路とは異なったメカニズムが働いているのではないかと考えられています。ミシガン大学の三品裕司先生らのグループから発表されたこの論文では、多分化能を有する頭部神経堤細胞(cranial neural crest cells, CNCCs)における変異型ACRV1の役割に着目しています。CNCCsは骨細胞、軟骨細胞、グリアなどに分化し、頭蓋顔面前方の形成に関与しており、その異常は様々な頭蓋顔面異常の原因となります。彼らはCNCCsで変異型ACVR1を発現したマウスを作成し、頭蓋顔面の変形が生じることを明らかにしました。このマウスではCNCCsにおけるBMPシグナルの活性化がmTORC1の活性化を介してautophagyを抑制し、β-cateninの分解が抑制されることでcanonical Wntシグナルが活性化されており、その結果CNCCsの軟骨細胞分化が促進され、頭蓋顔面の形成異常が誘導されることを示しました。RapamycinによるmTORC1の抑制によってautophagyが再活性化され、β-catenin分解によってWntシグナル活性化は抑制され、このような頭蓋顔面は改善されました。
これらの結果は、CNCCsにおけるACVR1シグナル活性化が顔面におけるFOPの病態に関与しており、rapamycinはCNCCsにおけるautophagy活性化を介して病態改善に関与している可能性を示唆しており、FOP治療を考える上で大変興味深いものです。
Yang J et al., Augmented BMP signaling commits cranial neural crest cells to a chondrogenic fate by suppressing autophagic β-catenin degradation. Sci Signal. 2021 Jan 12;14(665):eaaz9368. doi: 10.1126/scisignal.aaz9368. PMID: 33436499. 

頭蓋縫合早期癒合症モデルにおけるGli1+細胞移植

2021-01-08 11:56:40 | 骨代謝・骨粗鬆症
頭蓋縫合早期癒合症はまれな先天性疾患ですが、FGF受容体シグナルの恒常活性化が見られるCrouzon病やApert病などが有名です。放置すると早期癒合の結果として頭蓋内圧が上昇し、脳の発達障害による精神発達遅延を生じることが知られています。Saethre-Chotzen症候群は頭蓋骨縫合早期癒合を示す疾患ですが、ヘリックス-ループ-ヘリックス型の転写因子であるTWIST1遺伝子に変異があることが報告されています。この論文で著者らはTwist1のヘテロ欠損マウス(Twist+/-マウス)が頭蓋縫合早期癒合を示し、頭蓋内圧上昇および認知障害を示し、Saethre-Chotzen症候群モデルとなることを示しています。またこのマウスの頭蓋骨縫合部を外科的に切離し、切離部にGli1+ mesenchymal stem cells(MSCs)をmethacrylated gelatin (GelMA)およびマトリゲル、I型コラーゲンでできたキャリアに混ぜて移植すると、頭蓋骨縫合が再構築され、早期癒合が抑制されるとともに、頭蓋骨変形、頭蓋内圧上昇、そして認知機能低下が改善することを示しています(細胞がないと再び早期癒合が起こる)。興味深いことに、頭蓋癒合には硬膜に存在するTwist1+/- Gli1+ MSCsが重要な役割を果たしていることも明らかになりました。早期癒合患者に対しては実際に頭蓋縫合切離術が行われていますが、術後再癒合を抑制する方法としてMSC移植は有用かもしれません。
Yu et al., Cranial Suture Regeneration Mitigates Skull and Neurocognitive Defects in Craniosynostosis. CELL https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31609-3 


CKD患者に対するビスホスホネート製剤投与の安全性

2020-12-31 07:39:40 | 骨代謝・骨粗鬆症
骨粗鬆症の講演を行った際にしばしば質問されるのは「腎機能低下した患者さんの治療をどうれば良いか?」という点です。特にビスホスホネート(BP)製剤は腎障害を生じるために、腎障害の程度によって禁忌、あるいは慎重投与とされています。この論文で著者らはイギリスのCPRD GOLD (1997-2016)およびSIDIAP(2007-2015)2つのコホートにおいて、eGFR<45 ml/min/1.73m2で40歳超という条件を満たすCKD 3bー5のBP userとnon-userを抽出し、その電子カルテ情報の解析から腎機能の変化を検討しています。Propensity scoreによってCRPDからは2,447人の BP userおよび8,931人のnon-user、SIDIAPからは1,399人のuser、6,547人のnon-userをmatchさせ比較したところ、CKD stageの増悪のhazard riskはCPRDで1.14(95% CI, 1.04, 1.26)、SIDIAP では1.15(95% CI, 1.04, 1.27)といずれもBP userで15%程度高かったという結果でした。CKD増悪に関してのnumber need to harmはCPRDでは40.8(3年)、20.7(5年)、SIDIAPでは29.4(3年)、28.6(5年)でした。一方で急性腎障害(acute kidney injury)、消化管出血/潰瘍、低カルシウム血症などのリスクはBP使用・非使用で変わりませんでした。後ろ向きのコホート研究ですので当然未知の交絡因子の存在などのlimitationはありますが、この結果はCKD患者に対するBP使用のリスクを再確認するものです。ただし急性腎不全などのリスクを変えないことを考慮すれば、benefit-riskバランスを考えた上でのBPの慎重投与を肯定する結果にも感じられます。


ACPA陽性RA患者は低骨密度を示す

2020-12-17 15:23:28 | 骨代謝・骨粗鬆症
ACPA(anti-cyclic citrullinated peptide antibody)を始めとした自己抗体の存在は関節リウマチ(RA)患者の診断に重要であるだけではなく、予後不良因子としても知られています。この論文ではオランダ(IMPROVED study)とスウェーデンのRA患者コホートにおいて、自己抗体の存在と骨密度(BMD)との関係を調べています。いずれのコホートも早期未治療RA患者が中心であり、オランダのIMPROVED studyではDAS<1.6という厳格なゴールを目指しています。
(結果)ベースラインの疾患活動性は、オランダのコホートではDAS 3.3 vs 3.6とACPA陰性群でやや高く、スウェーデンでは3.3 vs 3.2と有意差はありませんでした。オランダのコホートではACPA陽性患者ではベースラインの腰椎・大腿骨近位部のBMDが陰性患者と比較して有意に低く、この差は骨粗鬆症治療薬内服の有無に影響されませんでした。一方スウェーデンのコホートではACPA陽性患者ではBMDが低い傾向にはありましたが、その差はオランダのものほど顕著ではなく、統計学的に有意ではありませんでした。またその後のBMDの変化についてはオランダ、スウェーデンともにACPAの有無に影響を受けませんでした。またリウマトイド因子やanti-CarP抗体などはBMDに独立した影響を有していませんでした。オランダのコホートにおいて、組み入れ後2年間の平均DAS>1.8と比較的コントロールが不良であった患者ではACPAとベースラインBMDとの有意な関係は見られませんでした。
以上の結果はACPAが未治療RA患者の低骨密度と関係している可能性を示しており、自己抗体と骨代謝との関連という観点から興味深いものがあります。ベースラインのRA疾患活動性はさほど変わらなかったことから、このような違いはACPA陽性患者においては骨代謝回転が亢進している可能性を示唆しているのかもしれません。